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シュレッダーの中で桜のように散った安倍昭恵夫人「お友達」の名

首相やその夫人による「不可解な招待者の選定基準」だけでなく、反社会的勢力の関係者と見られる人物までもが参加していたことが明らかになった、総理大臣主催の「桜を見る会」。身の潔白を主張する首相ですが、招待者名簿が意図的とも思われるタイミングで破棄されたとあっては、額面通りに受け取ることも困難と言わざるを得ません。元全国紙社会部記者の新 恭さんは今回、自身のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』で、名簿廃棄を巡る内閣府の一連の答弁は、森友問題の際と同じ構図だと指摘するとともに、ここでも「ごはん論法」を繰り広げる安倍首相を批判しています。

社会貢献表彰の昭恵会長が功労者を招かない「桜を見る会」の不思議

安倍昭恵氏は2014年6月から公益財団法人「社会貢献支援財団の会長をしている。役員名簿の肩書は、内閣総理大臣夫人である。

筆者がこの財団の存在を知ったのは、旧知の元読売新聞記者Y氏からのSNSで「僕のフェイスブックを見て」とメッセージが届いたことからだ。

フェイスブックには、Y氏が安倍昭恵氏と並び、他の3人とともに帝国ホテルの金屏風前で微笑む写真が載っていた。日付は2018年11月26日だ。

同財団による「第51回社会貢献者表彰式典」の晴れがましい風景である。日本財団の笹川陽平会長は、親団体の立場から、こうブログに書いている。

「社会貢献支援財団」は…広く社会の各分野において、社会と人々の安寧と幸福のために尽くされ、素晴らしい活動をされながらも報われる機会の少なかった方々を顕彰する財団です。…2014年6月、公私共にご多忙の安倍昭恵令夫人に無理を承知で会長へのご就任をお願いしたところ、社会的意義をご理解くださり、快諾されると共に活気ある財団活動をされておられます。

在日外国人のために弁当講習会を開催したり、日本の文化・習慣になじめない親子をサポートしている「関西生命線」という団体が、同財団に表彰され、Y氏はその関係者として昭恵氏に初めて出会ったというわけである。

正直なところ、この写真と、「安倍昭恵会長から、直接、顕彰されました」という喜びあふれる文面を見た瞬間、複雑な思いにとらわれた。関西生命線は立派な活動をしていて、表彰にふさわしい。Y氏も新聞記者時代からこの団体を報道の力で支援してきた。しかし、Y氏はなぜそんなに、この写真を見せたいのだろうかとも思った。当時の昭恵氏はまだ森友問題の渦中にいたのだ。

教育勅語を幼稚園教育に持ち込んだ森友学園を応援してきた昭恵氏の行動により、それを記録した公文書の改ざんを命ぜられ、悩んだ挙句、自殺に追い込まれた近畿財務局職員のことが頭をめぐった。

それから一年。安倍昭恵氏は、「桜を見る会」疑惑で、再び、安倍首相とともに“時の人”となっている。「私人」であると閣議決定されている昭恵氏が、公金で開催される「桜を見る会」に全国各地の知り合いを招待した。そのことへの違和感、不公平感が国民の間に広がっている。

参加者の多くに罪はない。総理大臣名で招待状が届けば、理由はさておき、なんとか都合をつけて参加したいと思うだろう。ネット上のブログやSNSに参加者の素直な声があふれたのも、自然なことだ。

後援会関係者と一緒に上京した女性。「普段は入れない場所に入れるよ、芸能人にも会えるよって昭恵さんと仲良しの友人に誘われて参加しました」(アエラより)

過去数回、熊本から参加した30代男性。「これ(桜を見る会)に参加するのに、特別な功績とか功労が必要だなんて知りませんでした。昭恵さんの友達だから参加できると思っていました」(同)

昭恵氏が関係する東京の「和食居酒屋UZU」、下関市のゲストハウス「Uzuhouse」など、「UZU」人脈について言及するメディアもある。

14年7月に昭恵氏が校長となって開講した「UZUの学校」では、女性クリエイターや起業家らを講師に招いて女性の社会進出についての勉強会を開いてきたという。その関係者らも招待されたようだ。

外国の要人や、社会に何らかの功労のあった人を招くというのが「桜を見る会」の本来の趣旨である。昭恵氏の友達だから、あるいは友達の友達だから、総理大臣名で招待するのは、筋が違う。

政府は招待者名簿を破棄したと言い張り、公表を拒否している。そのため、昭恵氏関係の参加者名の詳細は明らかではなく、いたずらに憶測だけが広がっている。昭恵氏の推薦枠が実質的にあり、功績、功労者ではない人が招かれているのではないかという疑いが渦巻く。昭恵氏を「桜を見る会」問題の“主役”の一人に押し上げている原因はそこにある。

だが、考えてみれば、功労者を招くのなら、昭恵氏ほど立場に恵まれている人はいないであろう。なんといっても社会貢献支援財団の会長として、社会に功労のあった団体を表彰しているのだ。昨年は40団体がその栄に浴した。

筆者は関西生命線に招待状が届いたかどうかを確かめるため、Y氏にメールで問い合わせた。Y氏からの返信はこうだ。

昭恵夫人とはメル友で、親しいけど、招待はなかった。残念。

あまりにも無邪気な文面には苦笑するほかない。それにしても、Y氏は昨年の表彰式でたった1回、昭恵氏に会っただけなのだ。昭恵氏はいったいどれだけの人々と交信しているのだろうか。

いささか話がずれたが、もしも昭恵氏が昨年表彰した40の社会貢献団体代表を「桜を見る会」に招待しておれば、いささかなりとも言い訳ができるのではないかと思う。

菅官房長官が事務方から聞き取った結果として言うには、「桜を見る会」に招待した内訳は、首相の推薦枠が約1,000人、副総理、官房長官、官房副長官ら官邸幹部の枠が約1,000人、各府省が名簿を提出する各界功労者や勲章受章者らが約6,000人、自民党関係者の推薦が約6,000人、特別招待者や報道関係者が約1,000人だったという。

たしか今年の参加者は1万8,000人だったはずなので、これより3,000人ほど多く参加したことになる。昭恵夫人の推薦による招待者は、首相枠の1,000人に含まれるらしい。

もっとも、首相夫妻関係の参加者はその2~3倍にも及ぶという説もあり、そのほうが勘定は合いそうだ。

夫妻の公私混同ぶりが、どの程度のものだったのか、実態を知るためには招待者名簿を公開してもらう必要がある。

ところが、推薦をとりまとめ招待者名簿を作成、総理大臣名で発送した内閣官房と内閣府は「規則に従い、すでに紙媒体、電子データともに廃棄したので出せない」と主張している。

そんなことを誰が信じるだろうか。内閣府が招待者名簿を捨てたと主張している5月9日といえば、共産党の宮本徹議員が同月13日に国会で質問するため、招待者名簿を出すよう資料請求した当日なのだ。

招待者名簿を出したら、まずいことになると思ったがゆえに、あわてて廃棄を装ったのが本当のところだろう。森友問題で、佐川理財局長が「交渉記録はない」「記録は廃棄した」「わからない」と虚偽答弁を繰り返したのと同じ構図ではないか。

宮本議員は11月20日の衆議院内閣委員会でその点をただしている。やりとりの一部を再現してみよう。

宮本議員 「私がなぜ桜を見る会の招待者が増えているのかと聞いた際、政府は資料が残っていないと答弁された。今年のくらいあるだろうと聞いたら、今年のも破棄をしたと。驚いたのは私が資料要求した日に破棄したことだ。国会で言い逃れをするために招待者の名簿を破棄したのか」

大塚幸寛・内閣府大臣官房長 「招待者名簿は保存期間1年未満としている。招待者に発送するためのリストであり、会の終了をもって必要なくなったので遅滞なく廃棄した」

大塚官房長はこう述べた後、宮本議員の資料要求日と廃棄した日が重なった理由について、もっと前に廃棄しようと思ったが、シュレッダーが他の部局の使用で空いてなかったため、やむなく5月9日になったという趣旨の答弁をした。

もちろん、宮本議員は納得しない。「そんな話を真に受けると思っているのか」「遅滞なくというなら、すぐに捨てられるはず。私が資料要求したから廃棄したとしか考えられない」

桜を見る会の招待者名簿は昨年4月から、1年未満に廃棄」することになったと大塚官房長は説明する。その理由はといえば「膨大な個人情報が含まれているから」だそうである。

しかし、宮本議員は「それは後付けの理由だ」「もともとは3年保存だったのに、安倍政権になって保存できない性質の文書になってしまったのではないか」と激しく迫った。公開したら、国民に説明のつかない人選であることがバレてしまうからだろう、というのだ。

招待者の人選がいい加減に行われるようになり、安倍長期政権の下でますますエスカレートしてきたのは間違いない。昭恵夫人の関与について菅官房長官は「(夫人の枠は)ありません」「推薦作業に一切関与していない」と述べたが、一方で大西証史内閣審議官は「安倍事務所で幅広く参加希望者を募るプロセスの中で、夫人の推薦もあった」と明らかにした。

どうも、「推薦推薦作業は別物と言いたいようなのだ。もちろん詭弁である。安倍首相自身も「推薦」はするが、とりまとめは内閣官房と内閣府が行うから、自分は「関与していない」のだと、飽くなき“ごはん論法を繰り広げている

しかし、安倍首相とその夫人が内閣官房に推薦した人を、官僚が審査して招待客から外すなどまず考えられない。総理の意向を忖度し、左遷されないよう、あくせくしているのが、幹部官僚の今の情けなき姿ではないか。

政府高官や与党首脳にも、中曽根内閣における後藤田正晴官房長官のように「直言できる実力者が見当たらない。かつて、日本の有権者は、選挙によって政治権力にお灸をすえ、やりたい放題できないようにバランスをとる術を無意識のうちに心得ていたものだ。それもはるか昔の話になってしまった。

寄らば大樹とばかりに群れ集う「桜を見る会」ツアー参加者の、あの無邪気な喜びの写真こそが、民主主義国・日本の、危機感なき危機を象徴しているように思えてならない。

image by: 首相官邸

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