先日掲載の「『桜』の文字すらナシ。またも露呈した読売の『官邸応援団』ぶり」で、内閣総辞職に値するとも言われる桜を見る会の「疑惑」を、11月22日付の朝刊でまったく報じなかった読売新聞の姿勢に疑問を投げかけた、ジャーナリストの内田誠さん。内田さんは今回も自身のメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』で、桜を見る会に招待されていた、反社会的勢力とみられる企業の元会長を巡る菅官房長官の答弁があったのにもかかわらず、12月2日朝刊で会に関する記事を一切掲載しなかった同紙について、「意図的に回避したのだろう」との批判的な見方を記しています。
「桜を見る会」問題で新事実、各紙はどう伝えたか
ラインナップ
◆1面トップの見出しから……。
《朝日》…「ドローン 登録義務化へ」
《読売》…「児童福祉司の増員 難航」
《毎日》…「終わらぬICBM処分」
《東京》…「受付女性メガネ禁止 『パワハラ』」
◆解説面の見出しから……。
《朝日》…「桜を見る会 疑念膨張」
《読売》…「研究・開発力 産学連携が要」
《毎日》…「桜を見る会 深まる疑問」
《東京》…「韓国 過酷な外国人労働」
プロフィール
国会もあと1週間。今最もホットな話題である「桜を見る会」問題で新事実が次々出てきている中、各紙はどんな扱いになっているのか。土日を挟み、論点整理をしたいという感じになってきているようで、きょうの参院本会議に向けてねじをまき直すところのようです。ところが《読売》ときたら…。
■参院本会議に向けた「論点整理」■《朝日》
■記事なし■《読売》
■Q&Aで論点整理■《毎日》
■官房長官発言は「不正確」■《東京》
参院本会議に向けた「論点整理」
【朝日】は2面の解説記事「時時刻刻」単独で、「論点整理」をしている。見出しを以下に。
- 桜を見る会 疑念膨張
- きょう参院本会議 首相答弁へ
- 首相・自民党など半数推薦 地元優先の「私物化」
- 名簿要求当日に内閣府が廃棄 重なる森友問題
- 夕食後 後援会の収支なし
uttiiの眼
3人の記者が分担して書いている。1人目は、問題が浮上してきた経緯についての概略的なまとめ。そもそもこのテーマが浮上してきたのは、総理主催の「会」の参加者が年々膨張していることに気付いた野党議員が調査を始め、共産党・田村智子議員の追及によって問題が広く知られるようになったということ。その過程で、地元有権者への「優遇」が明らかになり、安倍氏は急きょ来年の「会」を中止する。さらに自分も参加者に関して「意見」を言うことがあったと答弁を修正。招待者の選定には妻の昭恵氏も関わっていたことが明らかに。とどのつまり、招待者の半数以上、6,000人が官邸幹部と自民党による推薦だったことが分かり、「私物化」「公私混同」との批判が高まった。加えて、反社会的勢力とみられるジャパンライフの元会長に招待状が送られていたことが発覚。これも野党の追及材料に。
中盤、2人目の記者は資料の廃棄について。様々な疑惑について政府は「名簿を既に廃棄しているので確認できない」(菅官房長官)という対応を繰り返している。共産党・宮本徹議員が資料要求を行った5月9日に大型シュレッダーで裁断していたということについて、4月22日に使用願いを出していたが、各局の使用が重なって連休明けになったと内閣府は説明。しかし、「会終了後速やかに廃棄する」と言いながら、実際には4月の「会」開催から1か月近くたっていたこと、連休前にも細断する機会はたくさんあったこと、シュレッダーの能力は高く、それほど待たずに作業できたはずだという疑問があり、「資料要求を受けて証拠隠滅したのではないか」との疑惑が強まっている。電子データについても「削除した」と答弁しているが、復元できないのかと問われても菅氏は曖昧な答弁に終始している。そもそも安倍内閣では、森友問題などでも肝心の資料やデータが破棄される、改竄されるということが繰り返されてきた。
3人目は会計処理について。安倍氏の地元事務所が企画したツアーは7万円で、「会」前夜の夕食会は「安倍晋三後援会」主催で5,000円の会費だったというが、会場になった高級ホテルは立食パーティーの料金を1人1万1,000円からとうたっている。差額を安倍事務所が穴埋めしていたのではないかとの疑惑が存在し続けている。そうであれば、公職選挙法違反の寄付にあたる可能性があると。
問題を概観するには便利な記事になっている。まあ、最大の論点になりそうな「反社会的勢力」に集中して詳しく書く手もあっただろうが、《朝日》はその方法はとらなかった。
記事なし
【読売】はどこにも「桜を見る会」について書いていない。驚いた。ジャーナリストであれば、少なくとも菅官房長官の答弁に大きな問題があることは分かるだろうから、これは意図的に記事を回避したということなのだろう。
Q&Aで論点整理
【毎日】は3面全体を使って、「なるほドリワイド」の形式、つまりQ&Aの拡大版とでもいう形式で「会」の問題点を整理している。見出しを以下に。
- 桜を見る会 深まる疑問
- 安倍内閣で拡大 誰が招待された?
- 首相推薦枠1,000人 後援会からも
- 前夜祭の会費5,000円 相場通り?
- 不足分補充ならば公選法違反
- 招待者名簿 なぜ残っていない?
- 野党が資料求めた日に「廃棄」
「?」が末尾についているのが「Q」(質問)で、続く一行がそれに対する「A」(答え)になっている。この「3問3答」とは別に、3面の上段には「今年の『桜を見る会』を巡る経緯」と題して4月12日の「前夜祭」と翌日13日の「桜を見る会」、5月9日の共産党による資料要求と内閣府によるシュレッダー廃棄、11月8日の共産党・田村智子議員による追及について、模式図を含めた説明がなされている。
基本的には論点整理なので、特に記さなければならない特徴的な主張や強調点は見当たらない。敢えて言えば、次の一節。
Q 悪質なマルチ商法で知られたジャパンライフの元会長や反社会的勢力の人物も招待された疑いがあると聞いたよ。
A 元会長は自身の会社のチラシで15年の会に招待されたことをアピールしています。内閣府の資料から、元会長は首相か官房長官の推薦枠で招待された疑いも浮上しました。反社会的勢力が出席したのかは分からないままで、政府の説明不足は明らかです。
と。
官房長官発言は「不正確」
【東京】は2面に3本の記事。1本目は「論戦ファクトチェック」とのタイトルで「反社会的勢力」の定義について。2本目は首相の地元・下関での野党の聞き取りについて。3本目は立憲民主党福山幹事長のNHK番組での発言に関するもの。見出しを以下に。
- 桜を見る会の「反社会的勢力」 菅長官「定義ない」
実際は 安倍内閣が07年定義 - 首相の地元住民「優遇されすぎ」
野党、聞き取り調査 - ジャパンライフ招待 首相は国会で説明を 立民・福山氏
uttiiの眼
1本目。まさしく、「ファクトチェック」にふさわしい素材が出てきたわけで、この扱いが嵌まっている。菅長官が「反社会的勢力について、さまざまな場面で使われることがあり、定義は一義的に定まっていないと承知している」との会見での発言に対して、《東京》は「不正確」との判定を下して次のように書いている。
2007年6月に犯罪対策閣僚会議が策定した指針で、反社会的勢力を「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団または個人」と定義した。
問題は、この不正確で変梃な“解釈”が、「桜を見る会」に招待されていたジャパンライフの元会長が、反社会的勢力であるとかないとかについて安倍氏や菅氏が判断しない理由にされているというところだろう。ジャパンライフについては以前から国会で問題になり、消費者庁から行政指導を受けている。反社会的勢力の疑いが強いにも関わらず招待されたという事実の背後には、別次元での深いつながりが政府・与党関係者とジャパンライフとの間にあったのではないか、と想像する。実にスキャンダラスな事案であり、当然、安倍氏がどこまで認めるのかに注目が集まっている。
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