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安倍首相とマルチ商法「ジャパンライフ」を結んだ政治家の実名

さまざまな「疑惑」が噴出し続けている総理主催の「桜を見る会」ですが、マルチ商法で多くの被害者を出したジャパンライフの元会長に対し、「総理枠」での招待状が発送されていたことが大きな話題となっています。首相は「個人的なつながりは一切ない」としていますが、果たしてその言は信頼に値するのでしょうか。元全国紙社会部記者の新 恭さんは今回、自身のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』で、明らかとなっている事実をもとに総理と元会長の関係を改めて洗い出すとともに、説明責任を果たそうとしない首相の姿勢を批判的に記しています。

悪徳商法と政界の腐れ縁の象徴となった「桜を見る会」招待状

実体のない事業を、あるように見せかけて、カネを集める悪徳商法は、いつか自転車操業の資金繰りが限界に達して破綻する。それを見越したうえ、隠し口座などにだまし取ったカネをためておき、幕引きの直前に最後の荒稼ぎをするのが詐欺師の常套手段らしい。

磁気ネックレスなどの預託という詐欺商法で破綻したジャパンライフの山口隆祥元会長などはその典型といえよう。“最後の荒稼ぎ”にとって格好の宣伝材料になったのが、2015年の3月、「内閣総理大臣 安倍晋三から送られてきた桜を見る会への招待状だった。

この招待状については昨年1月30日の衆院予算委員会でも、政界とジャパンラフの不透明な関係という文脈で問題視されていたが、今回の騒動で、あらためてクローズアップされたかっこうだ。

山口氏に届いた封書の中には、招待状のほか、受付票が同封されていた。当日、受付に渡すものだ。この受付票の左下に「60-2357」とナンバーが付されている。

共産党の田村智子参院議員に内閣府が渡した「仕様書」とやらで、招待者を区分するのが目的の番号と判明した。

「総理、長官等」が「60、61、62、63」となっており、順番からみて「60は総理枠を示すはずだが、発送した内閣府は野党議員の問いに口ごもるばかりで、決して「そうです」とは言わない。それでも、「仕様書」が正真正銘、内閣府作成のものであることはしぶしぶ認め、総理枠であることを否定はしていない。総理枠でないのなら、間髪を入れず否定するはずだ。

「60-2357」の2357は、「60」で招待された人々につけられた整理番号だと「仕様書」に記載があり、総理枠の招待者がいかに多いかを推し量ることができる。これまで菅官房長官は総理枠1,000人と発表してきたが、どうやら大嘘のようである。

ジャパンライフの山口元会長は、この招待状を受け取った時、どんなに喜んだことだろうか。被害を国民生活センターに訴える声が続出し、同社の経営は行き詰まりつつあったのだ。

高齢者をターゲットにしたビジネスだった。たとえば、100万円のネックレスタイプ磁気治療器を販売し、元本は償還期日が来れば返すと約束したうえ、それを預託させ、レンタルユーザーへの貸し出しで得られる年6%のレンタル料を配当として顧客に支払うというふれこみだった。

事業の実態はなくとも、新規顧客がどんどん増えているうちは、その販売収入を配当にあてることができるので、顧客はすっかり信用してしまった。老後資金を銀行に預けているより、こちらのほうがいいと考えた顧客は、100万から始めても、やがて数千万、人によっては億単位で投資するようになった。

消費者庁は2013年ごろから、ジャパンライフを問題視していた。共産党の大門実紀史参院議員が11月29日の消費者問題特別委員会で明らかにしたところによると、消費者庁取引対策課の2013年10月の資料にこう書かれている。

取引対策課の担当職員から山下隆也課長に「ジャパンライフは被害が甚大になる可能性がある。本調査に移行すべきだ」と報告があった。

調査した結果、「経営が悪化しており早く対処しないと被害者にお金が返せなくなる」と判明、山下課長は2014年5月、部下に対策を急ぐよう命じた。

ところが7月4日に山下課長が異動し山田正人課長に替わったとたん、方針が変更された。「立ち入り検査を行うほどの違反事実はない。注意するだけでいい」という新方針。それが決まった会議で配布された文書の末尾に「政治的背景による余波を懸念する」と書かれていた。

政治的背景とは何を指すのか。消費者被害への対処に影響を及ぼすほどのものとは。

この方針転換がなければ、被害の拡大は防げたかもしれない。14年秋から形ばかりの行政指導がはじまったが、そのころにはかなり多数の顧客が配当金を受け取ることのできない状況だったと思われる。

それから数か月後に届いた安倍首相からの招待状なのである。山口元会長にしてみれば、これを利用しない手はない。招待状、受付票、安倍首相の顔写真に、「安倍晋三内閣総理大臣から山口会長に桜を見る会のご招待状が届きましたとコメントをつけたチラシとスライドを作成した。

山口会長はこの後、ひんぱんにパーティーを開き、スライドを見せながら、誇らしげに総理や有名政治家たちとの関係の深さを強調して販売攻勢をかけたという。

野党追及チームのヒアリングで、携帯電話を通じて証言した被害者は、安倍首相の招待状の効能”を口々に語った。

「桜を見る会の招待状が来るほどの組織なんだと言われ、何の心配もなく、お金を足してゆき4,200万円すべてなくなり、途方に暮れている」(東北地方の主婦)

「招待状が最高の判断材料になった。安倍さんや麻生さん、下村さんら、つねに政治家と情報のやりとりをしてると言って信用させてきた」(東北地方の男性)

それにしても、なぜ安倍事務所は山口元会長を推薦者リストに入れたのであろうか。

その一つの手掛かりは、山口元会長と、安倍首相の側近として知られる下村博文元文部科学大臣の関係だ。下村氏が代表を務める政党支部は2014年12月25日付でジャパンライフから10万円の献金をもらっていることが政治資金収支報告書に記載されている。

先述した通り、消費者庁が初めてジャパンライフに行政指導したのは14年10月~11月だから、ちょうどそのころの政治献金だ。

山口氏はマルチ商法の草分け的存在で、1983年、「健康産業政治連盟」という政治団体を旗揚げし、多くの国会議員に献金をばらまいて政界に顔をきかせた。国会の質疑で、中曽根康弘、山口淑子、村上正邦、二階堂進、山口敏夫といった有力政治家の名前が献金先としてあがっていた。

そうした政界工作は第二次安倍政権に至るまでずっと続いていて、下村氏だけでなく安倍首相に近い政治家とは、何らかの方法で関係を取り結ぼうとしていた可能性がある。大門議員によると、ジャパンライフ社の「お中元リスト」に、安倍首相、麻生太郎財務相、菅義偉官房長官らの名前が並んでいたらしいが、お中元、お歳暮ていどで済ませていたかどうか疑わしい。

「政治的背景による余波を懸念する」と記された参考資料でもわかるように、政権中枢とジャパンライフの関係に官僚たちが気を遣っていたのは確かである。

関連して不思議なことが一つある。2014年4月から15年2月まで消費者庁取引対策課の課長補佐としてジャパンライフを担当していた水庫孝夫氏が、その後、同社に天下りしたという事実である。

国民民主党の大西健介衆院議員は昨年1月30日の衆院予算委員会でこう指摘した。

「2014年の8月にこの課長補佐はジャパンライフに接触をして、定年後の再就職をお願いしている。同年9月、10月に行政指導をやって、まさにそのときに、担当しながら自分の定年後の職をお願いしている。こんなことで公正な取締りができるはずがない。初動で手心を加えた疑いがあるんじゃないか」

消費者庁は内閣府の外局である。内閣府は内閣官房を助ける行政機関であり、その職員が、狭量で鳴らす総理や官房長官の不興を買わないよう細心の注意を払うのは、ある意味仕方がない。つまり、消費者庁は政権トップの意向に逆らえない基本構造を持っている。

もし、正常に取り締まり機能が働いていれば、ジャパンライフに対して文書による行政指導だけではすまされず、行政処分がなされていただろう。であれば、たとえ安倍事務所の推薦があったとしても、山口元会長への招待状発送は食い止められたかもしれない。

ジャパンライフの被害者は約7,000人、被害額は1,800億円にのぼるといわれている。自転車操業を続けるなかでも、山口元会長はせっせと自分の懐にカネを貯め続けていただろう。

政治裏面史をひもといてみても、金のニオイのするところに政治家は集まるものである。有名なタニマチが思い浮かぶ。

かつて政界と大手石油会社をつなぎ、巨額のコンサルタントフィーを稼いでいた泉井純一氏は自著で「山崎拓へ2億7,700万円、渡辺美智雄へ1億円…」など政治家への多額献金の実態を明らかにしている。

焼き鳥屋チェーンのオーナー、中岡信栄氏は、大阪から上京すると、ホテルオークラの最高級スイートルームに大金を持ち込んで宿泊。それを目当てに安倍晋太郎、竹下登ら大物政治家やエリート官僚らが続々とやってきた。北海道拓殖銀行が倒産した原因は中岡氏への巨額融資だったとさえいわれる。

むろん、安倍首相や菅官房長官、下村博文氏がコソコソとよからぬ付き合いをしていたと決めつける証拠はない。のちに「山口会長が会食し、ジャパンライフの取り組みを非常に高く評価していただきました!」と宣伝文に名を使われた加藤勝信厚労相も、彼の弁明する通り、一億総活躍担当大臣時代の勉強会と称する食事会に山口氏が参加していただけなのだろう。

だが、「60の総理枠で山口氏が桜を見る会に招待されたという事実は、重く見なければならない。安倍首相の知らないうちに、永田町に名がとどろく札付きの人物を総理枠に含めたとすれば、よほど秘書たちが低脳ということになる。安倍首相の了解を得ていたと考えるほうが自然だ。

山口氏がらみで脛に傷を持つ政治家は、山口氏を無碍に扱えないに違いない。安倍首相がこの問題に関する集中審議の要求に応じようとしないために、ますます首相への疑惑が高まっている。

山口元会長は「桜を見る会」の招待状を信用の証として、2015年の春以降に、大々的に販売攻勢をかけた。それは、被害のさらなる拡大を意味した。

ようやく消費者庁が行政処分、業務停止命令に踏み切ったのは2016年12月のことだった。これ以降、2017年3月、11月、12月と、計4回の業務停止命令を受けた。

この間にも山口元会長は、ジャパンライフに権力のお墨付きがあるかのごとく見せるよう、腐心していた。2017年会社案内の役員一覧に、中嶋元特許庁長官、永谷元内閣府国民生活局長らの名が並んでいる。

稀代の詐欺師は、悪徳商法で巨万のカネを集め、被害者が増えていくのを横目に、政官界へ食い込んで、消費者庁の対応を遅らせ、ジャパンライフの延命をはかった。今年4月25日、特定商取引法違反容疑で、警察の家宅捜索を受け、破綻したが、私財を隠し持っている疑いはぬぐえない。当然、老後資金を奪われた被害者たちは全国各地で損害賠償請求訴訟を起こしている。

山口元会長への「桜を見る会」招待は、政官界とジャパンライフの腐れ縁の象徴である。私的な宴ではなく、公的行事である以上、招待した「内閣総理大臣 安倍晋三」は、ぶら下がり会見や本会議の官僚文書読み上げですませるのではなく、“一問一答形式”の予算委員会で誠実に説明責任を果たすべきである。

image by: 首相官邸

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