人前で話すあらゆるシーンに役立つプロの技を伝えてくれるメルマガ『話し方を磨く刺激的なひと言』の著者で、アナウンサー歴30年の熊谷章洋さんによる「話し方の表現力を上げる5つのアプローチ」シリーズ。今回は、凝ったパワポに頼るより一段と魅力的なプレゼンを可能にする、聞き手との距離を意識し、その空間を利用する話し方を教えてくれます。
話す時の空間の使い方
話す時の体の動きの見せ方で、表現力を上げる方法として、
- 聞き手の人数と距離を意識し、それを利用すること
- その動きが、話の意味、話し手の感情とリンクしていること
この2点を挙げて解説しています。
生配信されるような、著名人やCEOなどの演説や記者会見での話し方が凡庸に見えてしまうのは、これらが足りないからです。
まず、体の動きと話の意味をリンクさせるとは、頭(頭脳)や心、手足、目鼻口…などの体の部分、形容詞や形容動詞などの修飾語や、比喩、ものごとの状態を表すような擬音擬態語を動作で表現してみる、ということでしたね。具体的にどういうことかについては、前回記事をご覧ください。
要するに、見せる話にして、聞き手を巻き込むわけですが、そのためには、言葉の繰り出し方も随分違ってくるものです。ですから、台本もそのようになっていて然るべきなのですが、現状ではそこまで考えて台本を書く習慣もないでしょうし、ましてや、他人が用意した台本を読むだけの発表ではなおさらでしょう。
見せる話を作る方法を教えてくれる人も少ないでしょうし、第一、その観点に気づいている書き手の人数も少ないのだと思います。脚本家的な観点ですね。
これが、見せながら話すことに重点が移ってきている、これからの時代に必要とされる、話し手(台本の書き手)の能力です。
モノと情報が益々世界中にあふれ、かつ、誰でもできる仕事は、ロボットとAIがやってくれることになる近未来、間違いなく最も重要な能力になってくるのは、発信者の「人としての魅力」であり、見る側にとっては「共感」、そのバロメーターが「人気」です。
人気ユーチューバーが莫大な利益を得ていることは、ご存知かと思いますが、この流れはもはや、確定的です。だって、同じ情報を得るなら、あるいは、娯楽用のコンテンツを視聴するなら、好きな人を選ぶでしょう。
人で選ばれる時代。当然、経営者やそれに類する立場の人も、そういう資質が求められることになります。そのための、動きで見せる話し方、ということです。
そして今回は、聞き手の人数と距離を意識し、それを利用すること、について。聞き手の人数と距離の関係については、前々回、お伝えしましたが、今回は、その距離を、聞き手との共有空間として利用すること、YouTubeでの生配信で言えば、あなたと私の間を、どう使うか、です。具体的には、カメラレンズと自分との間にある空間のことです。
ステージ上の自分と聴衆のみなさんとの間なら、空間はだいぶ広くなりますね。ごく簡単に表現するならば、話し手はその空間を、立体的なモニターのように扱え、ということです。その3D空間を、聞き手に見せて、イメージさせて、考えさせる、ということです。
具体的には、例えば、体の動きと話の意味をリンクさせて、高い目標と低い結果を動作で表現したら、その高いと低いの間にある空間は、何だろう?何故だろう?と問いかける。その空間のイメージを、聴衆の考える対象にするわけです。
別の例で言えば、滑らかで、頬ずりしたくなるような、流線形…と、自分で指先を動かせば、その指先の位置や形と、その動作を自分で見る視線の向かう先によって、空間が形成されますよね。これが、話し手と聞き手双方にとって、共有できる立体的なモニターになるわけですね。
これこそ、パワーポイントでの表現や、実物を見せることではできない、話し手の表現力、人としての魅力、ということになります。パワーポイントなどを平面のプロジェクターの画面に映し出したり、実物を登場させたりするのは、そのあとのほうがいいでしょう。
なぜなら、話し手が先に空間にイメージを描ければ、まさしくそれは、話し手が描く理念や、強調したい真意のように聞こえるのに対し、モニターに映し出される映像が先行してしまうと、どうしても「しゃべらされている」感が出てしまうからです。
数値や事実を見せるだけでは、話がちっぽけになってしまうものですし、どんなにカッコつけて話しても、所詮、操り人形のように見えてしまいます。
理念を語る。考えさせる課題を提示する。微妙な心の動きを表現できる。それこそが、誰でもできる話ではない、その人だからできる話に必要な要素であり、そういう言葉に、動作を付けよう、ということです。このような、話を見せる動作は、話し手に魅力、カリスマを付与します。
いっぽう、本当に実務的に事実や要点などを報告するような話であれば、もちろんそのような動作は不要です。話し手が魅力的になる必要自体が無いのであれば、です。
例えば重要な発表をしたいときに、説明者は、淡々と話し、動作を見せる話し方ができる魅力的な出演者を、別に用意する、という手はあると思います。
最後に、これは身振り手振りの動作とは違いますが、体の動きで、話し手の印象を演出する方法として、目を合わせる時間を長くする、という手があると思います。
目を合わせる、といえば、過去記事で、目線を合わせると話が伝わりやすくなる、という主旨の解説をしましたが、それ以外の効能として、相手から見える話し手の印象が、ちょっと変わるんですね。
理由は簡単。目が合う時間が長くなる、ということは、聞き手である相手の中における、話し手の存在感が増すからです。だから、実際に見た目が変わるわけではありませんが、なんだかちょっと変わったように映る。これが、目を合わせる時間を長くすることによって、印象を変えるということです。
もちろん、相手の人数その他の環境によって、効果は違ってくると思いますが、こんなちょっとしたこと、特に難しい技術ではなく、肉体的、物理的に何かを変えることで、話している自分を変えて見せる方法は、けっこうたくさんあるものです。
ここに例示したものだけでなく、自分なりの必殺技を編み出すのも、いいかもしれませんね。
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