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なぜ箱根駅伝は盛り上がる?マーケティング視点で考える10の要素

令和初の箱根駅伝は、青山学院大学の2年ぶり5度目の総合優勝で幕を閉じました。関東地区の視聴率は往復平均で28.1%と伝えられ、箱根駅伝の人気の高さを証明しています。何がこれほど視聴者を惹きつけるのでしょうか?メルマガ『j-fashion journal』の著者でファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さんが、マーケティング視点から分析。競技の特性や繰り上げスタートなどのルール、さらには開催日程など10の要素を取り上げ解説しています。

箱根駅伝が盛り上がる10の要素

1.大学の伝統と陸上的序列

箱根駅伝に参加するのは、駅伝の伝統校だけでない。様々な大学が予選を勝ち抜いて出場する。それらの大学が対等に競い合う。もし、駅伝が東京六大学だけに限定されていたら、今日のような隆盛はなかっただろう。様々な大学が出場するので、入試の話が出たり、芸能人の出身校の話題が出たりと、それだけでも楽しい。これだけ多くの大学が同時に勝負するスポーツは駅伝しかない。我々は、大学を入試の偏差値で判断しがちだが、駅伝では陸上の偏差値が重要だ。評価軸は一つではない。それを正月から目の当たりにするのも良いことだ。

2.正月2日、3日の気分にフィット

昔は、大晦日、元旦と酒を飲み続け、深夜まで麻雀する人も多かった。正月2日の朝はドンヨリと雑煮を食べている。そんな情景があちこちで見られた。最近は、朝から酒を飲むことも少ないが、それでも暴飲暴食で疲れている人は多いだろう。そんな気分でテレビをつけると、大学生が生き生きと疾走している。駅伝を集中して見れば、選手の心理まで伝わってくる。しかし、ボーット見ていても飽きることはない。どんな状態にも対応しているのが駅伝中継だ。駅伝中継はかなりの長時間番組だ。これだけの長時間をテレビの前で過ごすのは、一年の中でも正月2日3日くらいのものだろう。駅伝中継は最適の日時を選んでいる。最早、駅伝中継の裏番組で勝負をかけてくるテレビ局はない。この時間帯は駅伝中継が独占している。

3.正月、富士山に向かって若者が走る

西宮神社の開門神事、通称「福男選び」は、1月10日の朝6時に一番太鼓が打ち鳴らされると共に、赤門の扉が開き、参拝者が一斉に参道に駆け出す。先頭で拝殿に駆け込んだ者が、男女を問わず「福男」となる。箱根駅伝は、大学生が東京から富士山に向けて一斉に走り出す。その道中には常に富士山の姿がある。初夢でも「一富士、二鷹、三茄子」と言われるように、富士山は縁起の良い筆頭だ。正月は乾燥して晴れる日が多い。東海道は変化に富んでいる。海と富士を見ながら走る東海道。そして、5区の山登りは、正に神社に向かう長い階段を上がっていくようだ。箱根駅伝は、東京から箱根の山までタスキでつなぎ、最終的に福男を決める壮大な神事なのではないか。

4.花の2区のゴボウ抜き

2区は各校のエースが集う最長の区間である。特に、アフリカ系の留学生が2区ではゴボウ抜きを演じることが多い。ゴボウ抜きができるということは、1区の順位が低いということであり、チームとしてはあまり褒められたものではないが、テレビの視聴者にとっては見応えがある。

5.高低差が勝負を決する

箱根駅伝のコースには絶妙の高低差がある。上り坂でスパートをかける選手もいれば、下り坂で一気に引き離す選手もいる。選手の駆け引きは、道路の高低差がきっかけになるのだ。全体のコースを俯瞰すれば、5区の山登り、6区の山下りは、陸上競技としては異常だ。あれだけの急勾配を登ったり、一気に駆け下りることは危険だが、それだけ大きなドラマも生まれる。上り坂のペース配分を間違えてブレーキがかかることもあるし、下り坂で飛ばし過ぎて足を痛めることもある。箱根駅伝の高低差は、通常のマラソンには見られないドラマを引き起こすのだ。

6.監督と学生、学生間の絆

監督車が選手の後ろを走り、選手に声をかける。後ろから追い上げられている時、区間記録が出そうな時、スタミナ切れで止まりそうな時、監督が大きな声で選手を励ます。このやりとりを聞いていると、普段の監督と選手の関係が見えてくる。また、給水ポイントでは、控えの学生が選手に駆け寄って水を渡す。この時の短いやりとりや互いの表情で、選手間の絆が垣間見える。箱根駅伝では、選手同士の競争だけでなく、選手と監督、選手と控え選手とのやりとりによって、より深いドラマを演出されるのである。

7.個人の区間賞と団体の優勝

駅伝は基本的に団体戦だが、区間賞に関しては個人が競い合う。この団体戦と個人戦が入り交じった競技が駅伝である。チーム全体の成績はいま一つでも、圧倒的に速い選手がいれば、区間賞を取ることができるし、区間記録を更新することもできる。駅伝では、個人もチームも目標を設定し、それに向かって競い合うことができるのだ。しかし、タスキがつながらなければ、チームの成績はカウントできない。そこに、駅伝の奥深さがある。

8.繰り上げスタートのドラマ

駅伝には繰り上げスタートがある。先頭から一定以上の時間が経過すると、強制的に繰り上げスタートしなければならない。後ろから来る選手が見えているのに、繰り上げスタートする選手も残念だろうが、時間以内に中継所に着けなかった選手の方がもっと辛い。自分のせいで、伝統のタスキがつながらなかったことに責任を感じて、涙を流すことが多い。選手には申し訳ないが、視聴者にとっては、最大の楽しみと言ってもいいだろう。

9.気の毒だけど、ブレーキで盛り上がる

更に選手に気の毒なのが「ブレーキ」だ。気温が高かったり、ペース配分を間違えると、選手の足が止まってしまう。これをブレーキというが、ブレーキで棄権してしまうと、チームの記録は残らない。各選手はブレーキになることだけは、絶対に避けなければならない。しかし、選手にとって最大の悲劇は、見ている人にとっては最大のドラマでもある。ブレーキもまた、駅伝の魅力の一つでもある。

10.シード権争いで二度美味しい

駅伝の勝負は優勝争いだけではない。上位10位までは、シード権が与えられ、翌年の駅伝に出場する権利が得られる。復路は、優勝校が独走していることも多い。そうなると、優勝校争い以上に、シード権争いが熾烈を極める。しかし、繰り上げスタートの選手も混じっているので、見ている順位と本当の順位が異なることも多い。かなり複雑だが、それもまた駅伝中継にはプラスに働いているのだろう。単純に画像を観るだけでなく、解説がないと順位が分からないからだ。こうした複雑なルールは面倒な反面、慣れるとより深い感動を体験することができる。サッカーのJ1昇格争いにも似た優れたシステムである。

編集後記「締めの都々逸」

「箱根八里は 馬でも越すが 越すに越されぬ シード権」

箱根駅伝をマーケティングの視点で見てみよう、というのが今回のテーマです。これをどのようにビジネスに応用するのかは、皆さんで考えましょう。

でも、本当に正月の2日3日の午前って、最高のタイミングだと思います。他のコンテンツにも、ふさわしいタイミングというものがあるのでしょう。どんなビジネスでも、タイミングって大切ですよね。(坂口昌章)

image by:Ned Snowman / Shutterstock

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