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計算方法の違いで厚生年金は多くなったのか?少なくなったのか?

厚生年金は支払っているけど、言われるがままに収めて、特に気にしていないという人が多いと思います。でも、毎月安くはない金額が給料から天引きされているのですから、その中身はきちんと理解しておいた方が良いでしょう。そんな厚生年金の計算をする時、よく出てくる数字があることを知っていますか?それは「7.125」と「5.481」という数字。でも、突然出てきても「何の数字?」と混乱してしまいますよね。そこで、無料メルマガ『年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座』の著者hirokiさんが、気になるこの二つの数字について解説。知らなかった事実を教えてくれますよ。

厚生年金を計算する時はなぜ平成15年3月までと平成15年4月以降で分けるのか

僕の記事は大抵は年金額の計算をするのですが、その中で書きながら気になる事があります。それは厚生年金の計算時です。計算する時にその数字の中で、7.125とか5.481という数字をよく使います。計算時には当たり前のように使うものですが、もしかしたら読者様の中には「いきなり何の数字!?どこから引っ張ってきた数字なの!?」と混乱してる方もいるのではないかと思うからです。

僕も日常で数字が出てきたら、どこから導き出された数字なのかを考える事がよくあるので、突然どういう理由で出てきた数字なのかという事がわからないとストレスになる事があります^^;よって、同じような気持ちになられてる読者の方がいたらと思うと心配になります。

さて、7.125とか5.481という数字は、結論から言うと厚生年金の給付乗率です。給付乗率だから大体この数字で厚生年金の計算を用いれば大丈夫です。もちろん制度上で例外はあり、この乗率だけしか知らないと年金相談の現場では金額が合わない事になったりします。

とはいえ、この給付乗率が用いられるまでの経緯というのは昭和60年から話さないといけないので、その辺はこの記事では割愛します。それは過去の有料メルマガで経緯を書きましたが、その辺については有料メルマガバックナンバーをお求めください。

事例と仕組みから学ぶ公的年金講座バックナンバーリスト 2018年09月

厚生年金乗率を10から7.125まで大幅に引き下げなければならなかった経緯等(2018年9月有料メルマガバックナンバー) 第51号に書いてます。

後この辺のバックナンバー。

事例と仕組みから学ぶ公的年金講座バックナンバーリスト 2019年04月

平成の時代と年金(2019年4月有料メルマガバックナンバー)

7.125の乗率は平成15年3月までの厚生年金期間に対して用いる乗率で、5.481は平成15年4月以後の厚生年金期間に対して用いる乗率です。下記のような感じになります。

平成7年8月から平成22年11月までの184ヶ月間厚生年金に加入したものとします。
で、この時に平成7年8月から平成15年3月までの92ヶ月間と、平成15年4月から平成22年11月までの92ヶ月間でわざわざ分けます。

何が違うのかというと、平成15年3月以前と4月以後では、賞与が入るか入らないかの違いです。平成15年4月からの期間は賞与も年金額に反映するようになったから計算を分けてるのです。しかし、7.125から5.481に引き下げるという事は、平成15年4月以降の場合は年金額が下がる事になりますよね。もちろんこれには訳があります。

給付に賞与が入るようになるという事は、賞与が反映する期間というのは年金額がアップしますよね。加入した期間の違いで年金額に不公平が出てしまいます。もし、乗率を7.125にしたままで賞与を年金額に含める事になれば、必然的に平成15年4月以降の期間に対する給付のほうが高くなります。これじゃ不公平ですよね。だから、平成15年3月以前と4月以前での給付が不公平にならないように、つまりは年金額が平行になるように配慮されてるわけです。

厚生年金に加入してる間は毎月給料を支給されてると思いますので、例えば毎月50万円支給されてたとします。で、7月と12月に各90万円ずつ賞与が支払われていたとします。平成7年8月から平成15年3月までの92ヶ月間は賞与は関係ないので、給与(標準報酬月額)50万円(年収600万円)だけが厚生年金に反映します。

年金計算に使う時は(92ヶ月間×50万円=4,600万円)÷92ヵ月=50万円として平均給与(平均標準報酬)を使います。あ、平均しても50万円ですね^^;だから50万円×7.125÷1,000×92ヵ月=327,750円の厚生年金額になる。

ところが、平成15年4月からは賞与年間180万円も入るようになったから、平成22年11月までの92ヶ月間の年収としては600万円+180万円=780万円になりましたよね。780万円を月単価に直すと、780万円÷12ヵ月=65万円。65万円を平均として、65万円×5.481÷1,000×92ヵ月=327,764円。

少し誤差はありますが、平成15年3月以前と4月以後の年金額がほぼ一致しましたよね。

※ 参考

少し誤差がありますよね。これは四捨五入しない7.125÷1.3=5.48076923の数字を使えば誤差が縮まる。

65万円×5.48076923÷1,000×92ヵ月=327,749,999…円。

数字のからくりを知る

このように、賞与が含まれても年金額は平行になるようにされているわけです。

なお、7.125を1.3で割ると、5.481になります。賞与が含まれる事で1.3上がった分を省くため。給与を1として、賞与が3.6ヶ月分支払われる事を基準としている。こうするとさっきの月給与50万円に対して、50万円×3.6ヵ月=180万円が年間支払賞与額ですよね。給与が年間50万円×12ヵ月=600万円と、賞与180万円の合計780万円になる。つまり、600万円×1.3=780万円(月平均65万円)となる。

このまま旧乗率の7.125で計算してしまうと、65万円×7.125÷1,000×92ヵ月=426,075円。しかし計算過程にて1.3で割ると、65万円×(7.125÷1.3=5.481)÷1,000×92ヵ月=327,764円になる。

そうすると賞与を含めない平成15年3月以前のやり方である、「50万円×7.125÷1,000×92ヵ月=327,750円」と給付がほぼ同じになり、平成15年3月以前と4月以降で平行になる。まあ賞与分年金額が増えちゃうから、その分下げちゃおうという事ですね。

いやいやいや、賞与からも保険料取るようになったのに年金引き下げたら何のために、賞与も含み始めたんだ!って話ですよね。賞与からも保険料を徴収するまでは、以前こういう事があったんですね。会社側としては負担の大きい厚生年金保険料をできるだけ安く支払いたいから、給与(標準報酬月額)を低く支給して、その代わり賞与をドカンと支払って保険料徴収を逃れようと。こういう事もあったので賞与からも保険料を徴収すれば逃れられなくなる。

とはいえ…現代は非正規雇用者が2,000万人ほどに急増(昭和60年頃は650万人くらい)したため賞与が支払われない従業員や、支払われても少額という場合だと、給付乗率の引き下げは実質的な年金額の引き下げのようなものではありますが…^^;

※ 後記

平成15年4月から賞与にも保険料率を掛けて徴収するようになったが、それまで月給与(標準報酬月額)にのみ掛けていた17.35%の保険料を、賞与が含まれても月収ベースにするために13.58%の保険料率に下げた。

なお、厚生年金保険料は平成10年頃の金融大不況の影響で平成8年10月から引き上げは凍結されていたが、平成16年10月から毎年0.354%ずつ引き上げながら平成29年9月で上限の18.3%を迎えて現在に至る。

image by: Shutterstock.com

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佐賀県出身。1979年生まれ。佐賀大学経済学部卒業。民間企業に勤務しながら、2009年社会保険労務士試験合格。
その翌年に民間企業を退職してから年金相談の現場にて年金相談員を経て統括者を務め、相談員の指導教育に携わってきました。
年金は国民全員に直結するテーマにもかかわらず、とても難解でわかりにくい制度のためその内容や仕組みを一般の方々が学ぶ機会や知る機会がなかなかありません。
私のメルマガの場合、よく事例や数字を多用します。
なぜなら年金の用語は非常に難しく、用語や条文を並べ立ててもイメージが掴みづらいからです。
このメルマガを読んでいれば年金制度の全体の流れが掴めると同時に、事例による年金計算や考え方、年金の歴史や背景なども盛り込みますので気軽に楽しみながら読んでいただけたらと思います。

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【著者】 年金アドバイザーhiroki 【発行周期】 不定期配信

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