MAG2 NEWS MENU

月給50円の時代に年金を払っていた人が今現在もらえる年金額は?

今のような、保険料を支払い将来年金を貰うという年金制度がはじまったのは昭和17年の戦時中でした。そう聞くと遠い昔のように思いますが、今もその頃に払った保険料で年金を貰っている人がいます。払っていた金額も違えば、貨幣価値すら違うその時代。受給するとなると、果たしてどのくらいの年金額になるのでしょうか? 無料メルマガ『年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座』では、著者のhirokiさんが事例を用いて詳しく紹介しています。

戦時中に働いた分の著しく給与が低かった時の年金額計算と、過去の記録が年金にならない人

保険料を支払って、将来は年金を貰うという年金制度が始まった時はまさに戦時真っ只中でした。昭和17年6月に厚生年金の前身である労働者年金保険法が始まり、昭和19年10月に厚生年金保険法が施行されました。丁度、昭和17年6月というのはアメリカとの戦いで、ミッドウェー海戦により日本が敗戦に向かう転換となった時期です。この頃の労働者年金保険の被保険者は肉体労働者の男子に限られていました。

昭和19年10月はあの有名な神風特攻隊が行われ始めたころ。この時から女子や、事務系の男子労働者も被保険者となりました。当時は女子を被保険者とする事には強い反発がありましたが、昭和18年の女子挺身隊による14歳から25歳までの独身女性を病院や看護業務、民間の軍需工場に従事させたりする勤労奉仕が義務付けられるようになったから被保険者とした。似たようなものに学徒動員というのがありますが、軍から学校に在学中の生徒に軍需工場で働くように指示された。授業が終わったら、どこどこの工場に行きましょうと指示された。なお、動員というのは軍隊用語であって男子に使う言葉であり、女子は挺身隊という用語で分けられていた。

さて、そもそもなんでそんな国の非常事態時に年金制度なんか作ったのかというと、国民の士気を高めるためです。戦費調達のためだったともいわれますが。老後や死亡、大けがした時は国が保障するから、心配せずに国のために働いてくれという事でした。まあ、軍人でなくとも、軍需工場なんかに徴用されて働く人が多かったからですね。

昭和14年の国家総動員法で日本のモノカネだけではなく、人も国の命令一つで動かせるようになった。強制的に国の命令で働く事になったから、何らかの保障しないと暗い話ばっかりですよね。戦時中は暗いニュースが多かったですが、この年金制度のニュースは唯一の明るいニュースだったともいわれる。軍人は年金というか、恩給というもので保障されていた。

昭和20年の8月になると敗戦して、戦争のための会社って無くなりますよね。軍需産業とかは。でも、働いてきているから年金記録として年金額になりますよね。今の90歳くらいのお年寄りの方に聞いてみるといいですが、結構な割合で徴用された経験をお持ち。とはいえ年金額に反映したりしなかったりする。かなり昔の事なので、平成19年に判明した記録漏れの対象になってる事も多いので気を付ける必要もある。

まず、軍人だった人は恩給。陸海軍工廠だったという人は戦時中だけに存在した共済組合。主に、旧陸海軍共済組合とか、朝鮮総督府、台湾総督府において、雇員、傭員、工員などの身分で働いていた人。敗戦とともにもう無くなった共済組合ですが、厚生年金で一部年金額になる事がある(旧令共済期間という)。軍需工場で働いていたという人は民間会社であったなら厚生年金になる可能性がある。学徒動員は厚生年金にはならないですが、引き続き卒業後に雇用されたら厚生年金になる場合がある。女子挺身隊は給料の支払いが国からだったなら旧令共済で、民間だったなら厚生年金となる。

ということで、一応簡単にどのくらいの年金額になるか計算してみましょう。

1.昭和2年2月6日生まれの女性(今は93歳)

(令和2年版)何年生まれ→何歳かを瞬時に判断する方法!
絶対マスターしておきたい年金加入月数の数え方。

昭和17年6月から労働者年金保険が始まるが、女子の加入は昭和19年10月からだった。昭和19年10月からは女子挺身隊として昭和20年8月までの11ヶ月間民間軍需工場で働いた。この11ヵ月の当時の給与(標準報酬月額)は50円だった。昭和20年9月から何の年金にも加入しないが、昭和36年4月から国民年金制度が施行され加入。昭和36年4月から昭和61年3月までの300ヶ月間は国民年金保険料を納める。

さて、60歳(昭和62年2月)からは老齢厚生年金が貰えるようになりました。老齢厚生年金は給与平均(平均標準報酬月額)を取って計算しますよね。まあ…毎月50円くらいの給与だったから、平均もそのくらいになるのか。

…もちろんこんな道端で拾った数円程度の給付はしません^^; まず、過去の給与である標準報酬月額は1万円未満の場合は1万円に直します。次に過去の給与を現在価値に直す再評価をします。そして給与を平均して平均標準報酬月額を出します。平均した際でもすごく低い場合は、平均標準報酬月額の最低保障というのがあります。この年代の人は「69,125円×改定率」。ちなみに昭和12年4月2日以降の人は最低でも70,477円×改定率…というのが設けられています。

改定率というのは毎年の物価や賃金に変動しますが、令和2年度は1.001(令和元年度は0.999でしたが、令和2年度は0.2%の年金上昇だったため、0.999×1.002=1.001)。なので、平均標準報酬月額は69,125円×1.001=69,194円。つまり、この女性の老齢厚生年金支給額は、69,194円×10÷1,000×11ヵ月=7,611円となる。さらに差額加算は1,630円(令和2年度価額)×11ヵ月=17,930円となる。

老齢厚生年金(報酬比例部分7,611円+差額加算17,930円)=25,541円。国民年金からの老齢基礎年金は781,700円(令和2年度価額)÷300ヵ月(この女性の加入可能年数。いつも使う480ヵ月ではありません)×300ヵ月=781,700円。よって、年金総額は老齢厚生年金(報酬比例部分7,611円+差額加算17,930円)+老齢基礎年金781,700円=807,240円(月額67,270円)。

夫(大正15年4月2日以降生まれとします)に配偶者加給年金が付いていたならば、65歳以降この女性の老齢基礎年金に振替加算224,900円(この女性の生年月日による。令和2年度価額)も付いている。

さて、この女性は11ヶ月分の厚生年金が貰えていますが、人によっては年金に繋がらない場合があります。その場合はいくつかありますが、参考として一つの例を挙げます。

2.大正15年4月1日生まれの男性(現在は93歳ですが今年94歳になる人。令和2年を大正に直すと大正109年になるから、大正15年を引くと94歳になる)

(令和2年版)何年生まれ→何歳かを瞬時に判断する方法!

昭和26年9月から民間企業にて昭和27年7月までの11ヶ月間厚生年金に加入する。平均標準報酬月額は22万円とします(再評価するとすれば)。退職して農業に従事していたが、昭和36年4月から国民年金保険料を納めなければならなかったので昭和46年3月までの10年間国民年金保険料を納めた。

今の年金制度は保険料納付済み期間+免除期間+カラ期間≧10年で老齢の年金を貰えますよね。この男性なら10年の国民年金と11ヵ月の厚生年金があります。見た感じ…普通に貰えそうですよね。ただ、この人は厚生年金は1円も貰えません。この男性の生年月日を見ると現在の年金制度の前の年金制度の人だから、条件を満たしてない部分がある。


※ 参考
昭和61年4月1日から現在の新しい制度(基礎年金制度)ができましたが、昭和61年3月31日までに60歳になる人は従来の旧制度。だから、大正15年4月1日以前生まれの人は必ず旧制度の年金になる。


どういう事かというと、従来の制度は国民年金や厚生年金、共済年金は独立した存在でした。で、昭和36年4月に国民年金ができた時に「そういう他の制度である厚生年金と共済と手を組んで期間を満たそうじゃないか!そうすれば年金が貰いやすくなる」という「期間の通算」をするようになりました。すべての期間を繋ぎ合わせて10年(平成29年8月までは25年)あれば、年金を出そうと。

ところが通算はするけど、旧制度はせめて一つの制度で少なくとも1年間は加入期間を持っててねっていうものでした(現在の新法は全体で10年以上あるなら1ヵ月の厚年でも年金になる)。この男性は厚年期間が11ヵ月しかないから、通算して手を繋げない。よって、厚生年金の11ヵ月は年金にはならない。

それでは今日はこの辺で!

image by : Shutterstock.com

年金アドバイザーhirokiこの著者の記事一覧

佐賀県出身。1979年生まれ。佐賀大学経済学部卒業。民間企業に勤務しながら、2009年社会保険労務士試験合格。
その翌年に民間企業を退職してから年金相談の現場にて年金相談員を経て統括者を務め、相談員の指導教育に携わってきました。
年金は国民全員に直結するテーマにもかかわらず、とても難解でわかりにくい制度のためその内容や仕組みを一般の方々が学ぶ機会や知る機会がなかなかありません。
私のメルマガの場合、よく事例や数字を多用します。
なぜなら年金の用語は非常に難しく、用語や条文を並べ立ててもイメージが掴みづらいからです。
このメルマガを読んでいれば年金制度の全体の流れが掴めると同時に、事例による年金計算や考え方、年金の歴史や背景なども盛り込みますので気軽に楽しみながら読んでいただけたらと思います。

無料メルマガ好評配信中

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座 』

【著者】 年金アドバイザーhiroki 【発行周期】 不定期配信

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け