WHOにより「COVID-19」と名付けられた新型コロナウイルス感染症。その蔓延速度は衰えを見せず、中国だけでも患者数は6万人にも上っています。すでにサプライチェーンにも影響が出始めていますが、この先どのような推移を辿るのでしょうか。台湾出身の評論家・黄文雄さんは今回、自身のメルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』で、中国と貿易関係を強めるリスクを強調するとともに、「世界の中国離れは加速する」と断言しています。
※本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2020年2月12日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:黄文雄(こう・ぶんゆう)
1938年、台湾生まれ。1964年来日。早稲田大学商学部卒業、明治大学大学院修士課程修了。『中国の没落』(台湾・前衛出版社)が大反響を呼び、評論家活動へ。著書に17万部のベストセラーとなった『日本人はなぜ中国人、韓国人とこれほどまで違うのか』(徳間書店)など多数。
【台湾・中国】次々現れる「中国との関係を見直すべき」のサイン
台湾は馬英九政権時代の2010年6月に、中国との間で「海峡両岸経済協力枠組協定(ECFA)」という経済協定を結びましたが、これが今年で10年を迎え、終了するかどうかという議論が台湾で起こっています。
このECFAは二国間の関税引き下げと自由貿易を目的とする自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)に相当する、台湾と中国のあいだの協定です。すでに「アーリーハーベスト」(本妥結に至る前段階で、先行して限られた物品について関税の低減)対象品目」として、台湾側は267品目、中国側539品目の関税がゼロとなっています。
サービス貿易についても自由化を目指して、台湾は研究開発や銀行など9業種、中国は病院、銀行、保険などのサービス11業種が開放されています。同時に2012年8月には、投資の保護や利便性の向上を目指した「両岸投資保障および促進協定」や、知的財産権や金融、電子商取引などの分野での経済協力をうたう「両岸税関協力関係」を結んでします。
ただし、両国でサービス分野での市場開放を進めようという「両岸サービス貿易協定」については、2013年6月に締結したものの、台湾の市場が奪われることに危惧を抱いた台湾学生たちが猛反発して立法院を占拠、協定締結は白紙に戻ったことは、記憶に新しいところでしょう。こうした馬英九および国民党の中国接近姿勢に批判が集まり、2016年には民進党への政権交代が起こったわけです。
さて、この中国とのECFAですが、「海峡両岸物品貿易協定」の交渉が中断していることから、優遇を享受できる範囲はアーリーハーベスト品目のみに限られており、ジェトロによれば、2018年の台湾の中国からの輸入額は、538億ドルですが、うちアーリーハーベスト品目の輸入額は59億ドル、減免された関税額は9,100万ドルしかありません。
また、中国からの輸入額に占めるアーリーハーベスト品目の構成比は11.0%にとどまるとのことです。
台湾にとって中国は最大の輸出先(構成比:28.8%、2018年実績)、輸入先(18.8%、同)という数字に比べて、貿易全体への影響は限定的です。
問題は、今回の新型肺炎の流行で実際に起っていることですが、中国に拠点を置いたり、中国からの輸入に頼っていると、部品の確保が難しくなり、製品を作成することができなくなる可能性があります。
すでに韓国では、現代自動車が中国からの部品供給が滞り、2月4日以降、韓国国内3箇所にある全工場の稼働を順次停止することが報じられています。いま世界は、「世界の工場」中国と貿易関係を強めてきたことによる、サプライチェーンのリスクに直面しているわけです。
ただでさえ、中国という国は政治的思惑によって、経済を人質に取引相手国を脅迫するような国です。蔡英文政権の誕生後、台湾への中国人の観光旅行を禁止し、韓国では在韓米軍へのTHAAD(高高度防衛システム)の導入が決定されると中国国内の韓国企業を営業停止に追い込むなど、さまざまな嫌がらせをしてくる国なのです。
もともと台湾は日米とのトライアングル貿易でアジア・NIESの優等生だったのですが、中国のトウ小平が改革開放路線へ猪突猛進するに際し、台湾でも西進(中国)か南進(東南アジア)かといった、進出をめぐる論争がありました。西進、つまり中国へ進出(投資)する場合には、産業の空洞化が避けられないという予言・警告がありましたが、結局、そのとおりとなりました。
1990年代に入ると、台湾のIC、IT企業をはじめ、食品産業などが西進したため、台湾産業の空洞化が現実となり、債務国家だった韓国にも追い越されることになりました。台湾経済の不振により、日本の失われた20年に近いかたちで、カネ、ヒトが中国市場に吸い込まれて行ったのです。
しかも、情報統制や言論統制を強めているので、官製報道ばかりで正確な情報が入らないし、一度、進出してしまうと撤退も難しい。チャイナリスクはますます高まっているわけです。
中国に7店舗を展開しているワタミは、今回の新型肺炎を受けて、中国完全撤退を発表しました。ユニクロは中国の370店舗、無印良品は半数以上の店舗を休業とせざるをえませんでした。
● ユニクロ、中国370店休業=無印良品も半数に拡大―新型肺炎
経団連など大企業の連合団体は、つねに中国の顔色を伺い、日本国首相が靖国参拝することも反対してきました。日本人の誇りよりも金儲けのほうを選んだということなのでしょうが、中国共産党一党独裁の国と手を組むことの恐ろしさをもっと理解するべきでしょう。
前回の「新型肺炎の流行で世界が気づき始めた『チャイナリスク』の巨大さ」でも述べましたが、一党独裁の国だから、正確な情報は出てこないか、官僚の忖度によって遅れるわけです。民主主義の国であれば、言論の自由は必要不可欠ですが、一党独裁国家にとっては言論の自由は決して容認できないものです。政権批判が革命につながる可能性が高いからです。
そのため、疫病や災害が起こっても、なかなか実態が表に出てこないのです。ずさんな対応、対処の遅さなどが批判の的になるとまずいからです。
今回、習近平が初動体制に誤りがあったと、過ちを認めた発言をしたかのような報道がありました。しかし、実際に原文を見てみると、どこも自らや共産党の過ちなど認めていません。それどころか、「世論操作強化」すなわち言論統制をさらに強めるように指示しています。
なぜこのような報道が出るのか不思議です。日本のマスコミにはまだ中国への憧れを抱いている記者がいるということでしょうか。中国共産党は「絶対無謬」でなくてはならないのです。そうでなくては、一党独裁の正当性がなくなるからです。
WHOは新型肺炎の名称を「COVID-19」としました。台湾などでは「武漢肺炎」という名前が一般的でしたが、やはり中国に配慮してのことでしょうか。
新型肺炎はもともと2018年12月に報告されていたにもかかわらず、中国は事実を隠蔽し、感染拡大を放置してきたわけですが、名称に「19」と、あたかも2019年に始まったかのような印象操作も、中国への忖度が伺えます。今回の件で、WHOはかなり国際的な信頼を落としました。
いずれにせよ、2018年から米中貿易戦争がはじまり、2019年後半には香港で反中デモの嵐が吹き荒れ、さらに2020年には台湾では総統選挙で蔡英文が大勝し、ECFAが期限を迎え、加えて新型肺炎により世界でチャイナリスクが再認識されるようになったという、この一連の流れは、決して偶然ではありません。
世界の中国離れはこれからますます加速していくことでしょう。
※表記に間違いがあり、本文の一部を訂正しました。(2020年2月20日)
image by: pixiaomo / Shutterstock.com
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