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4月末までに新型肺炎の完全収束がなければ東京五輪は絶望的な訳

感染拡大に歯止めがかからない新型肺炎。政府は2月25日にようやく基本方針を発表しましたが、遅きに失した感は否めません。なぜ安倍政権の対応は、ここまで後手に回ってしまったのでしょうか。ジャーナリストの高野孟さんは今回、自身のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』で、このような事態を招いた根本に政権の「緩み」があったと指摘。さらに厚労省の医系技官がダイヤモンド・プリンセス号の「隔離失敗」の原因となったとして厳しく批判しています。

※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2020年2月24日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール高野孟たかのはじめ
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

4月一杯に新型肺炎を完全終息させないと五輪開催が危うくなる!──なのに何の危機感もない安倍政権の緩みっ放し

東京五輪の開会式は7月24日で、その2カ月前の5月半ば、大型連休明けになってもまだ新型肺炎に収まりがつかず燻っているようであれば、五輪そのものの開催が危うくなる。

第1に、その時期には早くも、各国のチームが続々と来日し、ホストタウンとなる全国約480の市町区に散ってトレーニング・キャンプに入る。その前に安心して来日できる環境を整えておかなければ、急遽キャンプ地を自国かアジア近隣で新型肺炎から安全なところに振り替えるとか、それも難しいので五輪参加そのものを諦めるチームが出てくるとか、大混乱が始まる。

第2に、事前のキャンプ入りを予定していないチームや選手も、7月までに本当に収まっているのかどうか、正確な情報を得た上で参加するかどうかの判断を迫られる。有力なチーム・選手であるほど、そしてプロ選手であればなおさら、選手生命を絶たれることになりかねない疫病には敏感になるだろう。

第3に、発生源となった中国がその時点でどういう状況となっているか分からないが、自国と日本とそれぞれの終息度を見極めた上で、場合によっては中国選手団全体が参加を見合わせることをも含めて、この時期には最終判断を下さなければならないだろう。少なくとも、中国は大丈夫だが日本はまだ危ないので中国選手団が来られないというみっともない事態は、絶対に避けなければならない。

第4に、五輪目当ての外国人観光客も、2カ月前にはツァー予約をキャンセルするかどうかの決断を迫られる。

2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)の場合は、終息までに8カ月を要した。今回の新型肺炎も同じだとすると、昨年12月12日に武漢市で最初の症例が出ているので、今年8月9日の閉会式あたりまでが8カ月間に入ってしまう。しかも、発症しないままの人からも感染してしまうという今回の特殊性を考えると、いったん収まったかに見えてもまたどこか思いもかけない所からポコッと出てくるといった格好で、一層長引くこともあり得るだろう。少なくとも、8カ月より短くて済みそうだと見る根拠は何もない。

だからこれは、8カ月を少し繰り上げて、7月の開会式までに収まっていれば何とかなるだろうというものではない。8カ月かそれ以上と予測される感染蔓延期間を半分以下に折り畳んで、4月一杯に世界に向かって完全終息宣言を発せられないようであれば、五輪は数千万人が濃厚接触する究極のマス・ギャザリングの場と見做されて、5月から“崩壊過程”に入ることになるだろう。

小泉進次郎が対策本部会合をサボッたのは無理もない?

先週の国会では、小泉進次郎環境相が16日(日)に開かれた政府の新型コロナウイルス感染症対策本部の第10回会合を欠席し、地元後援会の新年会を優先してそこで酒を飲んでいたことが暴露され、謝罪させられた。さらに森まさこ法相と萩生田光一文科相が似たような理由でその会合に出ていなかったことも判明した。

何ともあきれ果てた大臣たちで、もちろん彼ら1人1人の危機感の欠如は指弾されるべきであるけれども、実はこの対策本部そのものが、最初から形骸化していたと言っていいほどお粗末なもので、安倍首相自身の危機感のなさが小泉らに伝染したというのが物事の実際の順序だろう。

安倍晋三首相を長とするこの対策本部は、1月30日に創設されて第1回の会合を開き、以後2月8日までに11回を重ねている。それだけ聞くと、政府もけっこう熱心に取り組んでいるじゃないかと思うかもしれないが、官邸ホームページの記録を見ると、その11回すべてが短くて10分間、長くて15分間で終わっていて、中身は、厚生労働省をはじめ他の関係省庁からデータなどをまとめた紙が1~2枚配られて説明があり、それを受けて安倍首相が役人が書いた挨拶の原稿を2~3分程度読み上げて終わる。何のためにこんなことをしているのかと言うと、回数を多くし、その都度の安倍首相の挨拶をビデオに撮って官邸ホームページにアップすることで「やっているフリ」を演出するのが目的なのである。

これを新聞の「首相の一日」で見ると、16日は「4時3分、新型コロナウイルス感染症対策本部。5時1分、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議。38分、私邸」となっていて、これを見ると、日曜日にもかかわらず4時から1時間半ほど、熱心に対策に取り組んだような印象を受ける。しかし、4時3分に始まった会合は4時15分には終わっていて、その後の45分間はたぶん休憩して、5時1分に新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の第1回会合に出席はしているけれども、別の記録によると1時間ほど続いたその会合で安倍首相は挨拶だけして、たぶん15分ほどで退席して、家に帰ってしまった。

この2日前、14日には対策本部の第9回会合が開かれていて、これも「首相の一日」で見ると、「5時26分、新型コロナウイルス感染症対策本部。6時39分、東京・内幸町の帝国ホテル」となっていて、約1時間、対策に取り組んだかのようだが、記録によればこの会合も15間で終わり。一休みしてから帝国ホテルに行って何をしたかと言えば日本経済新聞社の会長、社長、論説フェローら幹部と2時間半ほどもかけた会食で、そのまま私邸に帰っている。

つまり、安倍首相自身が新型肺炎にほとんど関心を持っておらず、せっかく第1回の会合に集まってくれた専門家の話に耳を傾けるでもなく中座し、マスコミ大幹部の追従笑いに囲まれて美酒美食に酔うことの方を大事だと思っているのである。総理がそんな風なら自分も地元後援会の会合を優先してもいいんじゃないかと、たぶん進次郎は思ったのだろう。

厚労省の「危機管理担当審議官」は一体誰でしょう?

この内閣にまともな危機感がなく、ましてや4月中に何としても終息させないと五輪が潰れるという国家的一大事になるという切迫感もないことのもう1つの現れは、厚労省の危機管理担当審議官としてダイヤモンド・プリンセス号に乗り込んで指揮をとっているのが、あの大坪寛子だという悲惨な事実である。

審議官にも厚労省の場合は3種類があって、

(1)いちばん偉いのは「厚生労働審議官」。これは官僚No.1の「厚生労働事務次官」に次ぐNo.2で、審議官も次官と同様、たいていは東大法学部出身の文系事務職と決まっている。

(2)その次がNo.3に当たる「官房長」で、その両脇の局長級ポストとして2人の「総括審議官」がいる。

(3)さらにその下に〔上に何も付かない単なる〕「審議官」がいて、これは局次長級の、民間で言えば担当役員という役回りになる。厚労省では15人も居て、その筆頭にあるのが大坪寛子。「危機管理、科学技術・イノベーション、国際調整、がん対策、国立高度専門医療研究センター担当」と職掌が明記されている。

さて、厚労省には「医系技官」という系列があり、その頂点は(1)の事務次官に職階上で匹敵すると言われているが実際にはNo.1.5という感じの「医務技監」、(2)の「総括審議官」のうちの1人は医系だが、国際保健機関との連絡担当に仕事は限られているようだ。その下に(3)のヒラの「審議官」がいるのだが、その中でも筆頭に位置して危機管理とかイノベーションとか国際調整とかの包括的な分野をいくつも任されているのが大坪で、彼女がそこまで上り詰めたについては愛人の和泉洋人総理大臣補佐官のバックアップによるところが大きかったとされている。その彼女が、厚労省の職階上、危機管理の最高責任者としてこの事態に立ち向かっていて、途中からは自らプリンセス号の船内の同省対策本部に入って指揮していると言われるのだが、そんなことで大丈夫なのか。

今更語るのも恥ずかしいことだが、公費による内外同伴出張でコネクティング・ルーム(という言葉を今回初めて知ったが)を現地大使館などに用意させたり、京都でかき氷をアーンと口に入れてやるところとか、銀座で酔って手を繋いで歩いているところとかを週刊誌に写真に撮られたりして、自分の危機管理すらまるでなっていないような人が、どうして国家の危機管理を担当できるのか。そもそもこれだけの不潔としか言い様のない男女関係スキャンダルで和泉と大坪に何の処分も加えないことが政権の腐朽の証左だし、それどころかその大坪をこの国家的危機の現場責任者にしてはばからないというのが、もうこれは世も末である。

とはいえ、これはこの危機的事態の時にたまたまこのポジションにいた彼女の個人的な資質の問題で、根本は、組織体制の問題である。この危機管理担当審議官が誰であろうと、厚労省の医系技官というのは、確かに医学部出身で医師免許を持っているとはいえ、ほとんど、あるいはまったく、臨床経験もなく、ましてや世界中の感染症対策の現場で命懸けで戦ったことがある人など皆無である。そういう人たちが官僚制度の職階上でだけ偉くなって、その中には安倍首相や菅義偉官房長官に近い補佐官を愛人にしたおかげで何階級か特進して上の方に行ってしまったというような人もいたりして、そういう連中がこういう緊急事態の際にすべてを取り仕切る権限を握ってしまうことの悲劇である。

岩田健太郎医師の告発にほぼ問題は浮き出ているのでは

ダイヤモンド・プリンセス号への対処を中心として、日本のこの問題への対応が世界中の非難対象になるほど酷いことになったのかの総括は、すべてが一段落した後に詳しく論じられることになろう。

今の時点で直感的に判断する限り、この国が危機管理ができない致命的な原因は明らかで、9・11では経産省のとりわけ今井尚哉=現首相補佐官を筆頭とする原発官僚であったのと同様に、今の厚労省では大坪を象徴とする医系技官の無為無能のためである。

神戸大学の岩田健太郎医師のYouTube映像を通じての告発が話題になり、余りの反響の大きさと、恐らく彼が指摘した問題点のいくつかを改善するとの厚労省側からのアプローチもあったのではないかと推測されるが、彼は問題提起の目的は果たしたと言ってそれをYouTubeから削除した。

根源的には「そもそも常駐しているプロの感染対策の専門家が1人もいない」「やっているのは厚労省の官僚たち」にすぎないということである。そのため、何が船内で起きているかというと、「レッドゾーンとグリーンゾーンと言って、ウイルスがまったくない安全なゾーンと、ウイルスがいるかもしれない危ないゾーンをキチッと分けて、レッドゾーンではPPEという防護服をつけ、グリーンゾーンでは何もしなくていい。こういう風にキチッと区別することによって、ウイルスから身を守るのが我々の世界の鉄則。ところが、ダイヤモンド・プリンセスの中はグリーンもレッドもぐちゃぐちゃで、どこが危なくてどこが危なくないのか、もう、どこの手すり、どこのじゅうたん、どこにウイルスがいるのか、さっぱりわからない」という状態に陥っていた。

どうしたらいいのかと言うと、「日本にCDC(疾病管理予防センター)がない」ということに行き着く。米国のそれは、本部7,000人、地方と海外の支部8,500人、計1万5,500人の様々な分野の専門家を常時抱えていて、予算も日本円で1兆5,000億円。それに対して日本のそれに当たる国立感染研究所は人員306人、予算41億円。もう涙ぐんでしまうようなお粗末な現実である。しかし専門家の中には、今から別途に日本版CDCを作るよりも、感染症研究所と各県・主要都市にある衛生研究所を巧くネットワークして活用すれば、日本の医師や専門家たちの力量からすればいかなる危機にも対応可能だという主張もある、

今それを判断するだけの材料を持ち合わせないが、要するに、厚労省の医系技官が何でも分かっているかのような顔をして権限を振るっているのを許していると、この国は滅びに向かうののではないかという予感に取り憑かれる。

ちなみに、中国には米国を模倣したと思われる中国版CDCがある。それがどれほどのものであるかはこれから調査しようと思うが、その名の組織があるだけ日本よりマシなのではないか。

image by: 首相官邸

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早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。

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