本気かポーズか。「100年マンション」を目指す管理組合の不合理

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マンションの寿命を左右するとされる「給排水設備」。最近ではマンション管理組合が、こうした設備を一時的な修理で済ますか、新しいものに交換するのかの判断を迫られるケースが増えてきているようです。今回の無料メルマガ『まんしょんオタクのマンションこぼれ話』では著者でマンション管理士の廣田信子さんが、多額の修繕積立金が動くであろう「給排水設備の工事内容」を巡り、揺れるマンション管理組合の実態を記しています。

「100年マンションを目指す」というスローガンを上げても…

こんにちは!廣田信子です。

マンションの長寿命化に欠かせず、高経年マンションの市場価値に直結する給排水設備の更新に対する関心がようやく高まってきていると感じています。

長寿命化を目指すのであれば、昭和のころ建築され、当時採用されていた短命配管には早めに見切りをつける方が合理的だと言われます。概ね30年以上前の給排水設備の材料や工法は、今使われているものとは違って、いつかは取り換えるしかないのです。で、一度取り換えれば、半永久(建物の寿命まで)は取り換えずに済むので、早ければ早いほどいいと専門家は言います。

先日相談があったマンションは、「100年マンション」を目指していると言います。しかし、給排水管の更新工事(新しいものに変える)は、お金もかかるし、露出配管になるので更生工事(管の内壁をライニング)を重ねてできるだけ今のものを長持ちさせるつもりだ…と。

「更生工事」は、30年ほど前から、ビルやマンションの配管の劣化が問題になって、その対応策として幅広く行われてきたものです。費用も工事期間も負担が少なく、もちろんそれなりの効果はあります。

このマンションでも、劣化が始まったころの配管材では、更新しても、また取り換えなければならなかったので、今の配管を、「更生」によって、できるだけ長持ちさせようというのは、合理的な考え方だったと思います。

しかし、100年マンションを目指すのであれば、応急措置的な改修には限界があります。「築45年のマンションが築100年目指すのなら、今度は『更新工事』を検討した方がいい。いつかは、更新しなければならないのだから」とお話ししましたが、これまで「更生工事(ライニング)」で乗り切れたし、ラインイング工事の業者はまだ大丈夫だという。それなのに、桁違いにお金が掛かり、工事もたいへんな「更新工事(取り換え)」は必要ないと言われるから、更新は難しい…と。

住民が運営も改修工事も主体的に行ってきて、修繕積立金もそれなりにあるマンションです。どうも、過去の修繕委員で、採用した「更生工事(ライニング)」のシンパの方がいるようです。その当時は、それがベストだったとしても、配管材や工法は進化していますし、100年を目指そうというのですから、長期的な視点で今後を考える必要がありますが、なかなか変えるのが難しいようです。

「100年を目指すと決めたのだから、そのために必要なことは、今、やってしまった方が将来のためじゃないかと、話し合ってみたら…」という話をすると、「自分たちは、せいぜいあと10年だから、その後のことは後の人に考えてもらうしかない」…と。「100年マンションを目指す」といっても、長期的視点で修繕・改修計画を考え、実行することがいかに難しいことなのかを改めて実感しました。

「100年マンションを目指す」というスローガンを上げても、管理組合運営や修繕・改修工事が行き当たりばったりでは、ただの「この先ずっとこのマンションは壊させないぞ宣言」という呪縛になってしまいます。過去の「成功体験」をリセットして、自分がいないであろう未来のマンションやそのときの住民のことを考えるということはやはり簡単ではないのです。

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【著者】 廣田信子 【発行周期】 ほぼ 平日刊

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