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「森友」改ざんで自殺職員の手記公開、読売の紙面から感じた意図

「森友学園」の公文書改ざんに関与させられたことを苦に自殺した元近畿財務局職員の妻が、国と佐川宣寿元理財局長を相手に大阪地裁へ提訴し、元職員の手記の内容が公開されました。メルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』で、ジャーナリストの内田誠さんが各紙の論調を詳しく解説。東京新聞が伝えた元同僚の「よく記録を残してくれた。よもや怪文書と見なさないと思うが、政権がどう対応するか注目したい」を引き、野党と各紙の追及を求めています。

自殺した近畿財務局職員の妻が国と佐川元理財局長を訴えた件を各紙はどう報じたか?

ラインナップ

◆1面トップの見出しから……。

《朝日》…国・佐川氏を妻提訴
《読売》…全世界対象に渡航注意
《毎日》…EU 30日間入域禁止
《東京》…佐川氏と国を提訴

◆解説面の見出しから……。

《朝日》…佐川氏の指示 再び焦点
《読売》…財政出動 各国足並み
《毎日》…バイデン氏 心は本選
《東京》…改ざん指示 多くは今も要職

【プロフィール】

■「今さら…」と冷ややかな政権■《朝日》
■「今後も適正に対応する…」?■《読売》
■「政治家の指示だったのではないか」■《毎日》
■今も要職にある「実行犯」たち■《東京》

「今さら…」と冷ややかな政権

【朝日】は1面トップに記者(大阪社会部)の「視点」がつき、関連で2面の解説記事「時時刻刻」、4面「焦点採録」、39面社会部記事まで。見出しから。

(1面)
国・佐川氏を妻提訴
森友文書改ざん 財務局職員自殺
「佐川氏指示」主張
究明不足 問われる政権

(2面)
佐川氏の指示 再び焦点
原告側、「主導的」と指摘
職員手記 改ざんの経緯記録
政権冷ややか「今さら」
財務省「報告書と齟齬ない」

(39面)
改ざん苦悩 震える字
夫の手記・遺書 妻「真実知りたい」

uttiiの眼

《朝日》は1面記事の末尾に大阪社会部の記者による「視点」が付いている。自殺した職員の妻が、改ざんの詳しい経緯を知りたいとの願いから起こした今回の裁判は、「これまでの真相究明が不十分な証」だとして、財務省の調査結果が曖昧なものだったこと、大阪地検が不起訴として操作内容をおおやけにしていないことを挙げている。

財務省が公文書を改ざんして国会に提出するという「民主主義の根幹が揺らぐ問題」であるにも関わらず徹底的な検証はなされぬまま、新たに「桜を見る会」の問題でも公文書の廃棄が問題になる始末。提訴に至った妻の思いに共感する国民は少なくないだろうと。さらに、この機に、国会でも説明を尽くすのか、政権の姿勢が問われていると。

「国会での再究明」ということについては2面の「時時刻刻」。後段の見出しに「政権冷ややか「今さら」」とある。首相や財務相を含む政権幹部たちは、一様に「ご遺族の気持ちを思うと言葉もなく…」というような愁傷の意を表しつつも、例えば佐川氏の国税庁長官への栄転を適材適所と言わんばかりだったり、赤木氏の手記について財務省の調査報告書と「大きな齟齬はない」と言い切ったり、さらに臆面も無く「再調査を行うことは考えていない」と強弁したりしていると。

公文書改ざん問題の“火付け役”でもある《朝日》だけに、大きな扱いになっているのは頼もしいが、財務省内で起こったことを結局は隠蔽している安倍政権の問題についての切り込みは弱い。特に、大阪地検特捜部が、近畿財務局は勿論、財務省本省にも「家宅捜索」(ガサ)を掛けずに捜査を終了してしまったことなど、キチンと指摘すべきだろう。行政中枢とそのコントロール下にある捜査機関の意図的な「国策不捜査」によって、壮大な隠蔽工作がなされたという捉え方が必要なのではないだろうか。

「今後も適正に対応する…」?

【読売】は4面にベタ記事。34面社会面に記事。見出しから。

(4面)
「森友」改ざん再調査せず
首相「今後も適切に対応」

(34面)
森友改ざん 自殺職員の妻 提訴
国と佐川元長官に賠償請求

uttiiの眼

4面にベタ記事の本記、関連で社会面に記事ということならば、ごく普通の対応のように見えるが、そこは《読売》、そうではない。

まず4面の記事は、厳密に言えばこの問題の本記ではない。本記ならば、週刊誌が遺書と手記を報じ、遺族が国と元高級官僚を提訴したという事実を端的に伝えるものでなければならないが、そうなっていない。この記事は、「財務省の官房長が森友学園に関する決裁文書改ざん問題について省内の再調査を行わない考えを示した」というもの。主語は茶谷官房長。官僚が何かについての方針を決めたという“ニュース”一般に価値がないとは言わないが、自殺した夫の無念を晴らすため妻が提訴したという、読み手の情動を揺さぶる要素を排除し、乾ききった信号のようなものを掲げていることからは、一連の情報の訴求力を可能な限り減じておこうという、編集サイドの意図が感じ取れる。

4面記事の後段は、安倍首相のリアクション。「大変痛ましい出来事で本当に心が痛む。改めてご冥福をお祈りしたい」に続いて、「麻生財務相の下で事実を徹底的に明らかにした。改ざんは二度とあってはならず、今後も適正に対応する」と述べているという。だが、「今後も適正に対応する」というのは、改ざんが発覚した後の調査や処分が十分であり適正なものだったという意味だろう。よく言えたものだ。

34面社会面の記事だけは、提訴の意味合いを最低限の表現で伝えるものになっている。余計なお世話かもしれないが、こちらを1面か2面に掲載すべきだっただろう。

「政治家の指示だったのではないか」

【毎日】は1面左肩と5面政治面。26面に手記の全文。31面社会面は関連記事。見出しから。

(1面)
森友改ざん 遺族が国提訴
手記に「佐川氏の指示」

(5面)
野党 森友改ざん再検証へ
自殺職員遺族提訴

(31面)
自殺職員、苦悩と批判
「理財局が人生壊した」
妻「佐川さんは真実を」

uttiiの眼

1面は本記。5面は野党がこの提訴をきっかけに、森友問題で公文書改ざん問題の再検証を行う動きがあることを伝えている。既に「森友問題再検証チーム」を野党4党で起ち上げていて、野党は桜を見る会の問題などと合わせ、政権の体質に迫りたいという。

早速、衆院内閣委では柚木道義議員が「官僚が独断で、クビが飛びかねないことをするわけがない。政治家の指示だったのではないか」と追及したという。菅官房長官は「私は知る由もない。少なくとも私ではない」と微妙な答え方をしている。それ以上、どんなやりとりがあったか書かれていないが、菅氏については、改ざん行為の直前、指示役や実行役の官僚たちとこの問題で会合を持っていたことが分かっている。2017年2月22日の官邸での会合については、キチンと追及されたのだろうか。

今も要職にある「実行犯」たち

【東京】は1面トップに2面の解説記事「核心」、4面に「手記の要旨」、31面社会面の記事まで。見出しから。

(1面)
佐川氏と国を提訴
自殺職員の妻 手記・遺書公表
森友文書改ざん「本省の指示」
「財務官僚 最後はしっぽ切り」
財務省、再調査せず 「新事実ない」

(2面)
改ざん指示 多くは今も要職
「主導」の佐川氏 遺族に謝罪なし

(31面)
どうか 真実を
森友文書改ざん 遺族が提訴
1人で抱え込んだ夫…「黒塗り」の死から2年
天の声 生々しく 赤木さん手記

uttiiの眼

1面は、トップ記事(本記)の下に、政府が改ざんの経緯などについて改めて調査をする考えがないことについて別建てで書いている。《読売》も、このように書くべきだった。

2面の「核心」は勘所をうまく捉えた記事になっている。まずはリードで、自殺した赤木さんが「最後はしっぽを切られる」と書き残していたことを取り上げ、これを「省の出先機関の職員が不正を強要され、追い詰められていく姿」とした上で、「一方で改ざんを指示した財務官僚の多くは、今も要職にある」と指摘。指示役も実行役も、自殺に追い込まれた赤木氏以外は、要職に就いてのうのうと暮らしているというわけだ。

このリードに対応して記事の冒頭には「理財局長は辞職、退官時は国税庁長官。理財局次長は横浜税関長。理財局総務課長は駐英公使…」と、財務省の茶谷官房長が参院財金委で読み上げた内容をそのまま引用している。また、記事の左肩には処分された主な財務省職員5名のフルネームと、処分の理由及び内容、現在の役職を一覧表にして晒している。タイトルは「「森友文書改ざんで処分された主な財務省職員」」とプレーンに書いてあるが、記者の気持ちは、全員の顔写真を添えた上で「公文書改ざん実行犯グループ」とでも書きたいところだっただろう。

さらに、最後段には、近畿財務局OBで、赤木さんの元同僚、田中朋芳さんの話が載っている。田中さんは「手記を読み、涙が出た。追い込まれてゆく中でよく記録を残してくれた」として、手記について「よもや怪文書と見なさないと思うが、政権がどう対応するか注目したい」と言っている。

【あとがき】

以上、いかがでしたでしょうか。赤木さんが残した遺書と手記のインパクトはかなりのものです。更なる情報、「二の矢」があるかないか分かりませんが、野党には追及を強めてもらいたいと思います。

近畿財務局OBの田中さんが言われるとおり、「よくぞ記録を残してくれた」と私も思いますが、しかし、赤木さんが自ら命を絶つのではなく、エドワード・スノーデンのような内部通報者になっていたらと思うと、残念で悔しい気がします。鬱病の発症に至るまで赤木さんが痛めつけられていたことに、改めて強い怒りを覚えます。

image by: Sasa Dzambic Photography / shutterstock

内田誠この著者の記事一覧

ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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