今週もメディアの関心事は、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大に関連したことが中心となりそうです。各紙それぞれの視点で何を伝えたか、メルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』で、ジャーナリストの内田誠さんが解説。内田さんは、トランプ大統領の支持率上昇について、「危機は権力者にとって支持率を上げる絶好の環境」と論評。東京新聞が報じた選手村の問題については、目処がついての五輪延期言及と推測するものの、開催時期の決定は非常に難しい判断になると結んでいます。
新型コロナの世界的な感染拡大を日本の新聞各紙はどう報じているのか?
ラインナップ
◆1面トップの見出しから……。
《朝日》…米国からの入国制限へ
《読売》…五輪開催 4週間で判断
《毎日》…米、対中「港湾リスト」
《東京》…ポスト選手村 補償問題に
◆解説面の見出しから……。
《朝日》…「矛」の役割 模索する日本
《読売》…介護の質 保てぬ危機
《毎日》…中国封じか 取り込みか
《東京》…点検「桜を見る会」
【プロフィール】
新型コロナウイルスの感染拡大は、世界大で見れば既に「爆発的」といっていいレベルに達しているように思われます。10万人までは最初の3カ月かかっていたのに、20万人までは11日、そして30万人を突破するのに4日しか掛かりませんでした。息を呑むような速さです。日本を含む各国は、かなり厳格な水際対策、入国規制を掛けつつありますが、どこまで持ちこたえられるか。既に国内に入り込んでいるものがどこまで拡がるかに掛かっているのでしょう。というわけで、きょうも「新型コロナウイルス」の種々相について拾っていきます。
■外出禁止令■《朝日》
■新型コロナ対応を55%が支持■《読売》
■大統領は何を考えているのか■《毎日》
■選手村という問題■《東京》
外出禁止令
【朝日】は1面と4面で、静まりかえる世界の大都市について写真付きで報じている。見出しから。
(1面)
静まるNY「9.11」より恐怖感
(4面)
世界の街 静寂
欧州 消えた人影■「自由」制限 抵抗も
FB創業者も在宅勤務
聖地・観光地ひっそり
uttiiの眼
1面はニューヨークのタイムズスクエア。写真は夜のもので、電光掲示だけが煌々と輝き、舗道に照り映えているのが不気味。記事に書かれているのはグランドセントラル駅で、1日75万人が行き交う巨大ターミナル駅だが歩いている人はほとんどおらず、「時が止まったかのように静まりかえっていた」と。
NY州の感染者数は1万人を超え、地下鉄利用者は6割減ったという。16日には店内の飲食が禁じられていて、さらに22日夜からは知事令によって原則として在宅勤務が命じられている。公共の場では6フィート以上距離を取るよう求められていて、市長は「必要があれば逮捕する」とも。食料品店には行列ができていたという。
4面は、人影が消えたパリのシャンゼリゼ通り。それでも自由を求め、散歩しようと公園に人が集まってきていたので、パリ警視庁は週末の公園への出入りを完全に禁止したという。ドイツでは店舗や娯楽施設が閉鎖された。
中東や中南米でも。イスラエルでは拘束力のある命令として7日間の「外出禁止令」を発表。イラクでも全土で「外出禁止令」、インドネシアのジャカルタでは非常事態宣言。外出禁止令はペルーやアルゼンチンなどでも。アルゼンチンでは命令を守らず、2日で1200人以上が逮捕されたという。
新型コロナ対応を55%が支持
【読売】は2面に、米国の世論調査についての記事。見出しから。
「対応を支持」55%
新型コロナ 前週より上昇
uttiiの眼
ABCニュースなどによる調査で、トランプ氏の新型コロナウイルスへの対応を支持する人は55%となり、前週から12ポイントも上昇。《読売》は「危機時の指導者として一定の評価を得たものとみられる」としている。不支持は43%。1週間で支持と不支持が逆転した形になっている。
当初、楽観的な見方を繰り返したとして批判されていたトランプ氏が、この間、経済対策などを発表し、また「私は戦時下の大統領だ」と語り、「国民に結束を促す手法が奏功した」という。
マクロン仏大統領も支持率を大きく上げたという。思うに、危機は権力者にとって支持率を上げる絶好の環境でもあるということだろう。失敗すれば支持の失い方も大きなものになるのだろうが…。世論調査で見る限り、トランプ氏は危機をうまく利用して支持率上昇を勝ち得たことになる。
ただ、《読売》の認識は、トランプ氏が非科学的な話を振りまくのを止め、経済対策など着実な政策で点数を稼いだように書いているが、実のところ、トランプ氏のトンデモ発言は止まっていない。55%という数字は何を意味するのだろうか。
大統領は何を考えているのか
【毎日】は《読売》の記事内容と鋭く対立する内容。6面にはトランプ米大統領についての「懸念」が書き綴られている。見出しから。
米大統領誇張 混乱に拍車
識者「改憲 生中継すべきでない」
uttiiの眼
大統領のこれまでの発言の中には「虚偽説明」や「科学的根拠に基づかない楽観論」があり、最高責任者が混乱に拍車を掛けているとする。そのことを20日の対策本部会合後の会見で「不安で脅える国民に何と言いますか」と問いかけた記者がおり、トランプ氏は「私のメッセージは、君が酷い記者だということだ」と切り返し、会見が大荒れになったという。
《毎日》は、現在のトランプ氏の動きについて分析を試みている。まず、ハッキリしているのは、トンデモ発言は止まっていないということだ。この日も、マラリアの治療薬「クロロキン」がすぐに使用可能になり「ゲームチェンジャーになる」などと言ってしまい、同席したファウチ博士(国立衛生研究所)に「事例証拠はない」と訂正されている。
そして、このところ連日のように記者会見を開いているのは、陣頭指揮を強調する姿勢に転じたためで、その中で誇張や先走りなどのトンデモ発言を連発している状態だという。トランプ氏にとってテレビ会見は「支持者に向けての演説」という意味合いがあり、大規模集会が打てない今、テレビ会見をその代わりにして、虚偽の「成果」を強調し、悲観的シナリオを否定して見せているのだと。さらに、新型コロナウイルスを「中国のウイルス」と呼び、「外敵と戦う指導者像を強調」することも忘れていない。
専門家は、現在の危機下では大統領が国民に誤った情報を伝えることが「生死につながる」と指摘。「メディアは演説や記者会見をそのまま生中継すべきでない」とまで言っている。米国の大統領は、自分の再選のためにはどんなことでも平気で口に出してしまう「危険人物」ということだろう。
選手村という問題
【東京】は1面トップに、五輪延期の際の選手村についての記事。見出しから。
ポスト選手村 補償問題に?
東京五輪 延期なら…
分譲・入居遅れ懸念
1万2000人の街づくり 影響
uttiiの眼
五輪が延期となれば、選手村が問題になる。大会後にマンションとしてリフォームされ、2023年春には入居が始まる予定のため、入居時期の遅れと補償問題が発生する可能性が高い。周囲の商業施設もあてが外れることになるなどの問題も。
選手村は21棟の宿泊棟などからなり、大会期間中、最大で2万6000人が暮らす町となる。選手村は、建物を所有する開発業者から都が借りる形で、年末には返還期限がやってくる。既に第1期分890戸が完売しており、大会が1~2年延期されれば、入居時期は確実にずれ込むことになる。今月末には第二期販売が始まる予定で、入居時期が決まらなければ売れ行きにも影響が出ると。
選手村一帯は「晴海フラッグ」という人口1万2000人の街に生まれ変わる予定で、区立の小中学校は選手村のメインの食堂跡に立てる予定。他の食堂の建物は改装して商業施設が入る計画。こうした計画がすべて予定に間に合わないことになる。
想像だが、様々な調整が済むまでは、責任がある立場から「延期」を口にすることはできないのだろう。延期せざるを得ないことはとっくの前に分かっていることで、要は調整待ちだったのだろう。今朝、国会で安倍総理は「延期の可能性」について初めて公式の場で言及したので、延期しての開催にメドが立ちつつあるのかもしれない。
【あとがき】
以上、いかがでしたでしょうか。延期はあっても中止はあり得ないと言われる東京五輪ですが、オーバーシュートの恐れが言い立てられる中、今年の秋には開催できるのか、それとも1年経てば大丈夫なのか、2年必要なのか…。パンデミックが収まって、世界中からアスリートが集まってこられるようになるまでの時間…これこそがすべてを決定づける要素なのだと思います。今の段階では条件が余りに複雑で、誰にとっても判断は難しいことでしょう。もしも4年延期せざるを得なかったら、それは中止とほぼ同義になるのでしょうね。
image by: Evan El-Amin / shutterstock