貧しいデフレ生活を脱却「幸せになるビジネスモデル」を考える

 

3.日本独自のアート作品

インバウンド消費の増大は、国内小売業の売上増大だけでなく、「日本の魅力」の再発見につながった。日本人が知らない観光名所やユニークなお店、カフェ、お土産品等をインバウンドが発見し、世界に広めてくれた。

これまではインバウンドが偶然発見したケースが多かったが、今後は日本人側が仕掛けるべきだろう。日本独自のコンテンツやデザイン、価値観を世界に訴求する。そして、アート作品のような高額商品として販売するのである。

アート作品は、日本の産業界が得意とした中流向けの廉価品とは正反対に位置している。従って、既存の企業が取り組むのは難しいかもしれない。しかし、アーティストやクリエイターとして活動している個人であれば可能だろう。

マンガ、アニメ、ゲーム、ビジュアル系バンド、ゴシック、ロリータ、コスプレ等、日本人向けのコンテンツが海外で評価されたものも有望だ。これまでとは正反対の方向にこそ、次世代の可能性があるのだ。

4.超実用品、非実用品、美実用品

今後、日本が発信していく商品は、「脱・中流の実用品」だと思う。日本企業が得意としていた「中流の実用品」から発想を転換した商品である。

第一は、包丁のように、職人の手が作り出す、抜群の実用性と美を兼ね備えた「超実用品」である。ここで重要なのは、装飾的ではないこと。究極の実用品。侘や寂の精神にも通じるミニマリズムである。

第二は、たとえば招き猫やだるまのような歴史的ストーリーのある「非実用品」。これはインバウンドのお土産ニーズにも応えるものだ。

第三は、「美実用品」だ。実用品だが、アート作品のように美しい商品。装飾で美しいわけではなく、素材や卓越した技術が生み出す造形が美しい商品。世界の富裕層に向けた商品でもある。

以上の三つに共通しているのは、顧客ターゲットが絞られていること。そして、国産品であり、比較的高額で利益率が高いことだ。誰もが購入する実用品ではなく、マニアが購入する脱実用品であることが重要である。そうしないと、価格も通らないし、利益も確保できない。

最早、日本の国内生産で薄利多売を追求することはできない。量は少なくても、しっかり利益を確保するビジネスが必要だ。また、自らの生活を犠牲にしてまで安売りする必要はない。経営者は、安売りは、社会に貢献するどころか、社会を貧しくするという意識を持ってほしいと思う。

■編集後記「締めの都々逸」

「ニッポンよいとこ 一度はおいで 職人仕事の おもてなし」

中国生産から国内生産に戻すには、商品価格を上げなければなりません。価格を上げるには、経営者も消費者も意識を転換しなければなりません。

価格は上がるけど、豊かな暮らしを実現する。そして、生産者も消費者も幸せになる。そんなビジネスモデルが成立しない限り、デフレスパイラルは歯止めが掛からないでしょう。(坂口昌章)

image by: shutterstock

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