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『半沢直樹』ロケ地で脚光、あの老舗居酒屋のコロナ生き残り戦略とは?

新型コロナウイルス流行の直撃を受け、一時休業や時短営業等、苦しい展開を強いられている外食各社。もちろん手をこまねいているばかりではなく、消毒の徹底や「3密」を避ける取り組みに注力したり、通販に活路を求めたりと、その試みは多岐に渡っています。そんなアイディアや施策を、フリー・エディター&ライターでジャーナリストの長浜淳之介さんが紹介。苦境に喘ぎながらも消費者に安心感を届けたいという各社の努力をレポートしています。

プロフィール:長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)
兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)、『バカ売れ法則大全』(SBクリエイティブ、行列研究所名儀)など。

3密を回避。コロナショックを乗り切るため懸命な対策を行う外食各社

新型コロナウィルス感染症の影響が、外食を直撃する中、いわゆる「3密(密集、密閉、密接)」を回避し、安心・安全な空間で食事を取ってもらおうとする、前向きな動きが出てきている。

席と席の空間を離し、空気清浄機を導入、アルコール消毒の徹底など、コロナショックを乗り切るための懸命な対策を行う、バイキング形式の飲食店を取材した。

飲食店に新型コロナの影響が本格的に出だしたのは、2月末に小中学校、高校の一斉休校の要請が安倍晋三総理から発表されてから。密閉空間の濃厚接触を避けるため、3月、4月の歓送迎会の宴会のキャンセルが相次いでいて、パーティー需要の多い居酒屋、中高価格帯のレストランに甚大な影響をもたらしている。

その1ヶ月前の1月末に中国政府が海外への団体旅行を全面禁止にして、インバウンド消費に注力する飲食店は大打撃を受けていた。現在は、日本人の団体観光客もほとんどいない状況だ。

具体的な感染の起こりやすい場所として、バイキング形式のレストラン、屋形船、ナイトクラブ、バー、ライブハウス、カラオケ店、などが政府、東京都から名指しされており、最も苦境に立たされている。

バイキング形式のレストランでは、江戸一(本社・東京都足立区)が経営する焼肉・寿司・デザートのバイキング「すたみな太郎」チェーンが、3月5日から系列を含め、全国約150店の営業を自粛。13日より順次再開しているが、12店がそのまま閉店となった。

また、ホテルに多い、バイキングの店は帝国ホテル東京にある日本初のバイキングレストラン「インペリアルバイキング サール」が休業するなど、大半の店が一時休業。ランチやモーニングのみバイキングの店も自粛している店が大半である。立食のバイキング形式のパーティーも同様だ。

東京都中央区のJR浅草橋駅、馬喰町駅に近いビジネス街にある、創業して37年になる海鮮が売りの老舗居酒屋「おさかな本舗 たいこ茶屋」では、3密の回避に熱心に取り組んでいる。

「たいこ茶屋」外観

主な改善点は次の6つだ。

  1. スタッフのマスク着用・ゴム手袋の徹底
  2. 小まめなテーブル、椅子のアルコール消毒
  3. ランチバイキングで使用するトングやお玉、しゃもじなどの定期的な交換(15分ごとを目安に)
  4. 入口ドアを開放し常に換気をする
  5. コロナが落ち着くまで暫くの間、他のお客様同士でのご相席はさせない
  6. コロナウィルスにも効果的なプラズマクラスター大型空気清浄機を店内各所に設置をし、常に店内の空気が綺麗な状態を保つ

たいこ茶屋の新型コロナ対策

店内に空気清浄機を導入

同店は、お昼は山盛りに盛り付けられた刺身などが食べ放題のバイキングのランチ、夜はほぼ毎日開催するまぐろの解体ショーやじゃんけん大会が人気で、昼も夜も150席ほどある大箱が常時満席になるような繁盛店だ。まぐろの解体ショーは、商業施設の出張イベントに呼ばれるほどの名物である。

お刺身バイキングの豪快な盛りつけ

人気ドラマ『半沢直樹』や、映画『ヲタクに恋は難しい』のロケ地にもなった。

ドラマ「半沢直樹」の撮影に行われた「半沢席」。新シリーズでも撮影に使われている

浅草に距離的に近いので、日本人や中国をはじめ海外のインバウンドによる団体ツアーの観光客も受け入れてきた。

つまり、同店はランチにバイキングを行っていて顧客が減少しているうえに、まぐろの解体ショーのようなイベントは自粛となり、インバウンドはもとより日本の団体客や宴会の客も来なくなっている。普段は集客に寄与している様々な賑わいを生む施策が、新型コロナの流行という緊急事態において、複合的にマイナスへと作用しているのが実情だ。

既に3月までで、宴会のキャンセルなどにより500万円以上の損失が出てしまっているという。

「新型コロナの影響が出始めたのは2月中旬くらいで、団体のランチがキャンセルになり、イベントの自粛要請で出張まぐろ解体ショーができなくなりました。貸し切りの宴会も次々とキャンセルになって、2月の下旬に一斉休校が決まり、一般のお客様も少なくなって半分以下に減ってしまいました」(経営するYTフーズ代表取締役 井上多恵子氏)。

ランチのバイキングは、新鮮なまぐろの刺身をはじめ、旬の魚の刺身、日替わりの煮物、ご飯、味噌汁、サラダ、生卵、フルーツポンチなど約20種類が提供され、50分で1,500円となっている。普段は朝10時から整理券を配布するほどの人気なのだが、一時期は空席が目立つほどにまで客数が減っていた。

やはり、新型コロナの感染リスクを恐れて、顧客が敬遠していると感じた同店では、先述した6つの改善を行い回復に努めた。

その結果、ランチには再び行列ができるようになったが、3月25日の記者会見で、小池百合子東京都知事が新型コロナの感染を防ぐ対策として、夜間や週末の不要不急の外出自粛、平日もなるべく自宅でのテレワークを推奨する要請がなされて以来、また集客が厳しくなっている。

しかし、取材に訪れた日には朝の10時から整理券を配布し、11時のオープン前には行列ができていた。12時を過ぎるランチの最盛期にはほぼ満席となった。

換気を良くするためにオープン前の準備時間から、出入口の扉を開けっ放しにし、店内には空気清浄機を要所に3台配置。店員はマスク、手袋を着用し、トングなどはこまめに交換。

出入口は開けっ放しにして換気に努めている

顧客は入場した時に前払いで支払いをして、アルコール消毒液で手を消毒して、席に着く。退場した後には、店員が必ずテーブルと椅子をアルコール消毒、といった流れになっている。

お皿の取り口にアルコール消毒液が置かれている

ご飯コーナー。しゃもじの横にアルコール消毒液を置いて対策

また、通常のランチタイムでは顧客は4人掛けのテーブルで相席となるが、現在は1人分の席を空けて座るように変更されている。これならば密接感はなくなり、店内の密集感も抑制されている。但し、3人、4人の小グループで来店した場合は、同席ができるように配慮されている。

1つ席を開けて、顧客を座らせている

バイキングで料理を取る顧客。間隔を取るように各自が気をつけている

同店は、政府の外出自粛要請に伴い、顧客の安全面を考慮して、3月31日からランチ営業のみの営業に切り替えている。1日~3日は休業した。当面は、営業の短縮や休業も実施していくが、同店のホームページで告知する。

店舗営業が難しくなっているため、通販にも力を入れている。休校中のお母さんたちを応援するため、同店の人気メニュー「ガッツらーめん」と炒め野菜と合鴨肉をセットにした「ガッツらーめん肉野菜セット」を6食セット2,820円(税込、以下同)、9食セット4,140円で販売。送料は890円となっている。

1人前540円で食べられるお得な「たいこ茶屋特製お刺身セット」は、ミナミマグロ刺50gと炙りサーモン刺50gで、4人前2,160円、8人前4,320円、別途送料1,200円となっており、温かいご飯に乗せて海鮮丼にする食べ方を推奨している。

今後は、テイクアウトやデリバリーも考えていく方針で、コロナ禍を乗り切ろうとあらゆる手を尽くしていく。

席と席の間を開けて3密を回避していく、ソーシャルディスタンスの考え方は、大手では、スターバックス コーヒー ジャパンが採用している。

全国のスターバックスコーヒーの店舗で、4月1日より、座席数を減らし、座席間に一定のゆとりを持たせる持たせる配置に変更。

既に、3月2日より、マグカップ、ステンレスフォーク/ナイフの使用、タンブラーによるドリンク提供を一時休止し、紙カップ、プラスチックフォーク/ナイフに順次変更するなど、コロナ対策のオペレーションを実行している。

他にも、イベント、サンプリングの中止やミルク、はちみつ、パウダー類の一時引き下げなど。衛生面では店員のマスク着用、出勤前の検温、テーブルやドアノブなどの頻度の高い消毒、顧客が使える消毒用アルコールの設置など。オフィスでは、モバイルワークや時差通勤の導入、入社式や研修の中止など、多方面でコロナ感染抑止に取り組んでいる。

オデオクリエーション(本社・東京都中央区)が経営する、銀座のスペイン料理「アフェリス」では、3月5日から、隣接している顧客からの飛沫感染を防ぐため、テーブル間を3mと広く取っている。これは一般的に飛沫が飛ぶ距離が1~2mと言われているため、感染を防ぐ措置。

1日に、ランチ、ディナーともに10組限定とし、テーブルを間引いて営業。ランチのブッフェは当面休止している。

また、特別サービスとして、抗酸化作用があるビタミンEや豊富な植物繊維が入っているスーパーフード“タイガーナッツ”で作った、スペインの「オルチャータ」というドリンクを、全ての顧客に無料で提供している。

さらに、オビエッティーヴォ(本社・渋谷区)が経営する、渋谷の地中海に浮かぶサルディーニャ島をテーマとした、イタリアン「タロス」では、3密防止のため、原則で大人数による団体の予約を取らない。シーリングファンを回し、次亜鉛酸(HCIO)を多く含む酸性電解水で加湿した空気を常に循環。間近での会話や大声での発声、過度なスキンシップをしないように、入店直後にアルコール消毒をお願いする際に、声掛けをしている。

酸性電解水は殺菌力が高く、衛生面に効果があると言われ、食材や食器を洗うのに、同店では活用している。

そのほかにも、殺菌力を高めるために赤ワインより白ワインをおすすめしたり、免疫力を高めるために肺呼吸より腹式呼吸をおすすめしたり、といった取り組みを行っている。

東京都の感染者拡大で、4月4日にはついに1日の判明感染者数が100名を超えた。首都や大阪のような大都市の封鎖、さらには国家非常事態の宣言もあり得る状況になってきた。そうなると、飲食店は開いていても集客がほとんど見込めず、多くは閉めざるを得ないだろう。

外食チェーンの「塚田農場」などを経営するエー・ピーカンパニーの全店184店が4月2日から最短で10日、最長で21日まで、「鳥貴族」直営店394店を4日から12日まで、「串かつ田中」直営店116店も4日から12日まで、それぞれ営業自粛に踏み切っている。

たとえ、封鎖、非常事態が解除された後も、飲食店はしばらくコロナ対策を取っていくことになり、3密を防止する取り組みが収束するまで重要になってくるに違いない。

※ 政府発表の情勢などによって営業時間および休日などが変更される場合があります。詳細は下記の公式HPをご参照ください。

おさかな本舗 たいこ茶屋

image by: 長浜淳之介

長浜淳之介

プロフィール:長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)

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兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)など。

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