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中国「アビガンがコロナに有効」論文の取り下げは政治的意図か?

世界中で猛威を振るう新型コロナウイルスに対して効果があるとされる、富士フイルム富山化学が開発した「アビガン」。各国からの提供要請に無償供与の方向で調整している日本政府ですが、その有用性を確認したという中国の論文が突如取り下げられるなど、未だ不明な点も多々あるのが実情のようです。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、アビガンを巡る動きを紹介するとともに、さらに同じく効き目が期待されている喘息治療薬についての情報を記しています。

中国が新型コロナ論文を取り下げたアビガン薬は期待できるか

ようやく、安倍首相は緊急事態宣言を出した。遅きに失したというもっぱらの評判である。アベノミクスが崩壊寸前だからといって、アベノマスクでごまかしている場合ではない。

すでに、この国の医療は音を立てて崩れかけている。一刻も早く軽症者、無症状感染者用の隔離施設を、緊急事態の名のもとに設け、今後増え続けるであろう中等症、重症者のベッドを長期的に確保できる体制を整えるべきだ。

対策の初動が鈍く、事ここに至った以上、緊急事態宣言によっていったん感染者の増加が抑えられたとしても、規制を緩めれば次の波がやってくる。ワクチンが完成するか、特効薬が登場するまでは、収束のメドが立たず、経済への打撃はきわめて深刻だ。

アベノミクスと東京オリンピックに彩られる総理像にとらわれ、新型ウイルスの脅威を軽く見ようとした安倍首相の責任は重大である。

そもそも8割が軽症というのを、甘い見方の材料としてしまったところに問題がある。最近でこそ、「中等症」という表現も用いるようになったが、流行当初は、ほとんど軽症なのでさほどの心配は無用と能天気に公言していた専門家がかなりいたと記憶する。

実は、軽症に分類されてきた患者のなかには中等症以上もかなりの割合で含まれているはずなのだ。

そのものずばりのタイトルの記事をForbes JAPANのサイトで見つけた。タイトルは「これで『軽症』と言うのか。新型コロナ感染で入院中、渡辺一誠さんの手記」。

新型コロナ感染で入院したGlobality CEO、渡辺一誠氏がフェイスブックに書き綴った3月28日から4月1日までの記録だ。3月28日20時21分から記述は始まる。

知りたい人たくさんいると思うので、公開(情報発信)します。まず、私、コロナ&肺炎で昨日から入院しています。

これうつしたら、間違いなく恨まれるであろうほど辛いです。インフルエンザが30倍くらいマシです。

症状が出たのは3月22日だった。書店で、風邪の引きはじめのような感覚になり、その後、在宅ワークにきりかえた。頭痛があり体温は朝こそ低いが夜になると39.5度まで上昇。そんな日々が続いたので、コロナを疑い、検査を思い立った。

検査にたどり着くまでは簡単ではなかった。保健所に指示された病院でもほとんど相手にされず、長時間待たされた挙句、「まだ時間かかりますがどうします?」と聞かれるしまつ。

いったんは、あきらめて帰宅したが、鼻が詰まってないのに山椒が効いた麻婆豆腐を食べてもまったく辛さを感じないので、ますます異常を感じ、再び保健所に必死になって頼みこんだところ、ようやく保健所が本気で取り合ってくれ、紹介された病院で陽性と判定されて、入院した。

<3月29日午前7時11分> 
今まで、朝になると熱が下がり、午後から上がっていくという状態でしたが、その不敗神話が崩れました。事態は辛くなる一方です昨晩、2度の投薬後も39.8℃。もう、がくがく震えるわ、頭は熱いわ、なんのこっちゃかわからず、『もういい加減にしてくれよ』と、声に出てしまいました。

<3月29日20時35分>
大した接触もしていないのに感染した人が、周りだけで私を含めて3人。…凄まじい感染力。…僕は昨日からいよいよ食欲がなくなりました。…午後以降どんどん熱が上がってくる症状も8日目。…40度近くなると、震えたり、熱くなったり、さらに咳が止まらないので苦しかったり。…熱と頭痛と咳で、ほぼ水しか受け付けない状態です。…この状態を『軽症』と表現されています。

熱が出る前日の3月21日に打ち合わせがあり、4人の仲間と食事を「回し食い」したという。そのうちの一人が感染していたらしい。

<3月30日朝>
昨晩は熱も上がりきらず…次の問題は咳。が、熱と頭痛が収まってれば、咳止めで対処できそう。…僕は手厚い医療が受けられる状態でかかったということは、ある意味ラッキーかもです。

<4月1日朝>
昨晩の熱は、マックスでも37.6度。…しかし、政府は動きませんね。賢者は歴史に学ぶ。他国の例がこれだけあるのに、何を見ているのか。

以上は、Forbes JAPANサイト上の渡辺氏の手記のごく一部にすぎない。全文(「これで『軽症』と言うのか。新型コロナ感染で入院中、渡辺一誠さんの手記」)を読むと、新型コロナウイルス感染症にいったんかかると、どれだけ大変かが、より切迫感をともなって伝わってくるだろう。

それにつけても、軽症のうちに投与すれば新型コロナにも効能が期待されるといわれる新型インフルエンザ薬「アビガン」(一般名:ファビピラビル)が、今後急増が予想される患者の重症化を抑え込む切り札となりうるのかどうか、たいへん気になるところだ。効いてくれ、と祈るような気分と言い換えてもいい。

そんなさなか、ちょっと気になるニュースが飛び込んできた。「アビガン」の新型コロナに対する有効性を確認したという中国の論文が取り下げられたというのだ。

アビガンは富士フイルム富山化学が開発した薬。取り下げられたのは、中国の科学誌に掲載された中国深センの第三人民病院、南部科学技術大学第二付属病院などのチームの論文。

厳密にいうなら、富士フイルム富山化学とライセンス契約を結んだ中国浙江海正薬業の製造によるジェネリック薬品を使用した臨床試験で、治療効果が得られたという内容である。

これがなぜ取り下げられたのかという理由は定かでない。「この記事は、著者および編集者の要求により取り下げられました」とあるだけだ。世界の学術雑誌などにアクセスできるウエブサイト「サイエンスダイレクト」で、それは確認できる。

中国浙江海正薬業からこの薬の提供を受けて武漢大学もまた臨床試験を実施しているが、こちらは研究論文が医学雑誌に掲載されているかどうかなど、詳細はわかっていない。

つまり明確に論文が発表されたことが確認されているのは深センの第三人民病院、南部科学技術大学のグループによる臨床試験結果であり、これにより有効性が確認されたことをもって、厚労省は2月22日、「アビガン」の投与を一部医療機関で始め、富士フイルム富山化学は承認を得るための治験を進めるとともに、政府の要請を受けて増産の体制を整えているのだ。

また、ドイツなど30か国から外交ルートでアビガンの提供要請があり、菅義偉官房長官は「日本政府から所要の量を無償で供与すべく調整を行っている」と表明している。アビガンを提供して投薬データを共有し、治療効果の確認を急ぐ狙いもあるらしい。

それだけに、今になって、中国のチームが論文を取り下げたのは意外だし、背後に何があるのだろうと勘繰りたくなる。

中国・浙江大学の研究チームが治療薬の開発に成功したと中国国営テレビが伝えたというが、その詳細は報じられていない。中国独自の治療薬に効能が確認されたなら、そこに何らかの政治的意図が働かないとは限らない。

中国の論文撤回については、理由が不明なだけに気味が悪いが、少なくとも効果が明確に否定されたわけではないと日本政府はみているようだ。

「アビガン」は奇形を生む副作用が懸念される薬剤のため、厚生労働大臣の要請がない限りは製造できないが、新型インフルの流行にそなえて200万人分の備蓄があるという。これを新型コロナに使えば、必要量の差により70万人分となる。

安倍首相は緊急事態宣言をした4月7日の記者会見で、「アビガンは、すでに120例を超える投与が行われ、症状改善に効果が出ているとの報告も受けています。観察研究の仕組みの下、希望する患者の皆さんへの使用をできる限り拡大していく考えです。そのために、アビガンの備蓄量を現在の3倍、200万人分まで拡大します」と述べている。

筆者が知る限りでは、アビガンは軽症の段階で使えば効くが、重症患者には向かない。だから、疑いがあれば早く検査し、妊婦を除く軽症患者に投与できるようにしてもらいたいものである。

この点について、安倍首相はこう語った。

「先生にアビガンを使ってもらいたいと言って、その病院において、倫理委員会において使えるということになっているとすれば、それは使っていただけるようにしていきます。治験のルートではありませんが、観察研究という形で、使っていただきたい」

病院の倫理委員会が認めていれば、患者が医師にアビガン使用を申し出ることで投与してもらえるという。実施に厳しいルールが定められている「治験」ではなく、「観察研究」という形で行うというのだ。名目はどうでもいい。国のトップが約束しているのだから、どこの病院でも使ってほしい。

なにしろ軽症だった人が急変して重篤化する恐ろしい感染症なのだ。英国のジョンソン首相がその典型であろう。

2月22日の記者会見で加藤厚労相はこう語っている。「(アビガンが)今後広く患者さんに利用されていく時期はいつごろか」という問いに対してだ。

「いま2つの医療機関と申し上げましたが、更に手を挙げられるところが、医療機関の中での審査手続きが終われば、可能になります。そこに対して私どもが、備蓄をしているこのアビガンを提供するというかたちで逐次広がっていく。患者を抱えられているところが必要とのことであれば、病院内の手続きをしっかり踏んだ上で、私どもの持っているアビガンを供与していきたいというふうに思います」

安倍首相や加藤厚労相の話を総合すると、どうやらアビガンを使うかどうかは、病院と患者しだいということのようだが、実際にはどうなのだろうか…。

週刊雑記

アビガンとともに、新型コロナウイルスに効き目があるのではないかと期待されているのが、吸入ステロイド喘息治療薬「シクレソニド」(製品名:オルベスコ)だ。シクレソニドは、帝人ファーマが2007年から製造販売しており、このほど厚労省の要請を受けて2万本を供給することになった。

神奈川県立足柄上病院などの研究グループによると、重症患者3人に使用し、良好な結果が得られている。シクレソニドには抗ウイルス作用があるらしく、ふつうの喘息薬が重症患者に効くとなれば朗報だ。

3月16日に日本感染症学会から「シクレソニド使用上のご注意」という文書が出され、その後、治療現場でおそらく使われていると思う。いまのところ、足柄上病院以外での使用状況、効果についての報告はないようだが、いい知らせが届くことを期待したい。

image by: PETCHPIRUN / Shutterstock.com

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