このままでは「医療崩壊」不可避。中途半端な対策が招く感染拡大

 

マスクを届けるべき場所はどこか?

「アベノマスク」の愚劣については先週号「剥がれた化けの皮。安倍首相『やってるフリ』で逃げ切り図る賭け」で述べたが、「全国民に布マスクを配れば不安はパッと消えますよ」と発案したのは、今井本人ではなくその腰巾着の佐伯耕三首相補佐官だったようだ。どちらにしても、目先の困難を何とかかわすための小賢しさのみが発達して、全局を見渡して大きく物事を動かしていく戦略的理性を欠いた経産官僚仲間であることに変わりはない。まさに「戦術で勝って戦略で負ける」典型であり、そうなってしまうのは現実を冷徹に分析せず、それを行うことに伴うリスクに予め目を向けて第2、第3の選択肢を用意することを怠り、そのため一度始めたら引き返すことはなく突き進んでしまうという行動パターンである。

いまの日本の局面は、米国大使館のホームページが正しく指摘しているように、「医療崩壊」寸前というか、すでに部分的にそれが始まっている状態と言える。とりわけ東京都を見れば、ニューヨーク州がちょうど1カ月前に、毎日の新規感染者数が3月11日=156人が12日=358、13日=621と倍々ペースに突入、1週間後の20日には3,818人に達したというのに似た、地獄の入り口にある。これを何としても回避するには、まずは医療関係者のマスクや手袋や防護服が足りず使い捨てができずに使い回さざるを得ないために医師や看護師の感染が拡大しつつある事態を、決定的に食い止めることである。

そういう時に、医療用高機能マスクはもちろん一般用不織布マスクよりも遙かに性能的に劣る布マスクを全家庭に配ってどうするんだ。12日付読売新聞が1ページを使ってマスクの手作り方法を図解しているし、我が家の周辺では南房総市が広報を通じて型紙まで図示して自作を呼びかけていて、それで十分ではないか。しかも、先週になって明らかになったのは、その費用が郵送費用などを含めると466億円に及ぶというビックリ仰天。「アエラ」4月20日号は「この額があれば医療用マスクを1億枚前後買える計算だ」と指摘、「1億枚ぐらいならすぐに集められる。50億枚集めろというなら集めます」という某ブローカーの発言も紹介している。

いまマスクについて政府がやらなければならない最優先はこれで、医療関係者自身が次々に感染して仕事を離れなければならず、しかもそのクラスター化が疑われるその病院を直ちに閉鎖しなければならなくなって感染が爆発的に広がったニューヨークのような状態に東京が転がり込まないようにすることである。

安倍首相の「やってるフリ」演出で人気上昇を図るという政治的な狙いと、医療最前線で命懸けで戦っている人たちを全力を挙げてバックアップするという戦略的な勘所を取り違えた結果、安倍首相の人気は陰り医療現場は崩壊するという虻蜂取らずに陥る可能性が大である。

ところで、上掲「アエラ」の記事は、安倍首相が3月初めに公約したマスク6億枚、4月には7億枚はどうなったのかについて、「中国からも大量のマスクが連日入荷している」にもかかわらず政府調達による医療機関への配布が間に合わないのは「ある政治家の秘書からは『中国産は使わないという話になっているので』」と説明されているという奇怪な記述がある。同誌はそれ以上解説していないので、取材して確かめようとしたが、今号の締切には間に合わなかった。

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