このままでは「医療崩壊」不可避。中途半端な対策が招く感染拡大

 

緊急にお金を届けるべき相手は誰か?

安倍首相が「世界最大級」と自賛する緊急経済対策108兆2,000億円の一環として、休業で収入が減ったり失ったりした従業員、中小企業、個人事業者・自営業者に対して現金給付をするというのだが、これがまた中途半端。感染拡大を抑え込むには企業・店舗の休業やテレワーク化が必要で、それを徹底しようとすれば手厚い損失補償を用意して安心して休めるようにしなければならない。ところが日本の場合は、原則として「損失補償は難しい」(安倍首相)。

どうしてそうなのかと言えば、これはあくまで政府の「命令」ではなく「自粛要請」であって、国民はその要請に応え自ら粛(つつし)むのであるから、政府がその補償をしなければならない理由はないとう訳なのだ。西村康稔経済再生相は4月9日の会見で「法律上、規定はないので、一定割合を損失補償することは困難だ」と言い、11日の7都府県知事とのテレビ電話会談では「休業補償として一定割合の損失補填を行っている国は世界で見当たらない」とも述べたが、本当だろうか。

まず、法律がないないなら、安保法制がそうだったように、作ればいいではないか。それが間に合わなければ、お得意の閣議決定乱発でもいいだろう。強制命令にしてその結果を背負い込むのが嫌だからそうしないだけのことである。

また、世界のどこの国でも損失補償が行われていないというのは理解不能の発言で、新聞等で報道されている限り次のような例がある。

英国

  • 休業補償:業種を問わず従業員賃金・フリーランス収入の8割を補償、上限は月2,500ポンド(約34万円)
  • 中小支援:資金繰りを支援し、最初の6カ月の利子は政府負担

 

フランス

  • 休業補償:一時帰休の従業員に給与の84%を補償
  • 中小支援:企業倒産を防ぐため基金を作り零細・個人事業者に1,500ユーロ(約18万円)を支給

 

ドイツ

  • 休業補償:育児で在宅する保護者に賃金の67%を補償
  • 中小支援:零細・個人事業者に従業員5人以下は最大9,000ユーロ(約100万円)、10人以下は1万5,000ユーロ(約170万円)を補償

 

スイス

  • 中小支援:官民一体で120銀行が参加する中小支援制度を立ち上げ、50万スイスフラン(約5,600万円)まで政府が100%保障し銀行が無利子・無審査で即日融資

 

米国

  • 休業補償:年収7万5,000ドル(約810万円)未満の世帯に大人1人当たり1,200ドル(約13万円)、典型的な4人家族で3,400ドル(約40万円)の家計支援
  • 中小支援:500人未満の企業に最大1,000万ドル(約12億円)の融資。雇用維持や給与支払いに使う場合は返済不要

 

韓国

  • 休業補償:全世帯のうち富裕層を除く約7割の世帯に、1世帯当たり最大100万ウォン(約9万円)給付
  • 中小支援:ソウル市が14日以上休業した施設に最大100万ウォンを支援。ナイトクラブなど遊興施設は除外

 

香港

  • 休業補償:8歳以上の市民に1万香港ドル(約14万円)給付

こうして見ると、たいていの国は日本よりよほど分かりやすくスピード感のある補償制度をすでに実行していることが分かる。西村は何を言っているのか分からない。

日本のこうした制度は総じて、役人がお上の事情に基づいて机上の空論で組み立てるので、困窮している下々の事情から出発していないので条件が厳しすぎ、しかも不正受給や過剰請求などが発生し(て役所側の責任が問われることの)ないよう、迷路のごとく複雑な手続きを設定するので、何度も窓口に足を運んで書類の不備を指摘され突き返されたりしているうちに1カ月も2カ月も経って、間に合わなくて倒産したり、根負けして「もういいや」と諦めたりすることになりやすい。上記の表のスイスなど、メールで申し込むと翌日にはもう振り込まれているという迅速さで、こうでなければ非常時には役に立たない。

結局、感染拡大は防ぎたいが経済破綻は困る、休業命令を出したいがそれによる補償で財政がパンクするのも困るのでどうしようという中途半端の二乗が今の施策である。

このやり方では、補償が行き届かないから休業も外出規制も徹底せず、従って感染爆発の危険がなかなか去らないまま事態が長引き、結果として経済全体のダメージが大きくなりかねない。最初にドーンと打って出た方がよほど効果的で短期に終息させられる可能性があったのに、ウジウジと対策を小刻みにして中途半端を重ね、傷口を広げてしまった。その結果、ニューヨーク並みの医療崩壊に転がり込む危険が高まっているのである。

image by: 首相官邸

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早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。

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