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軍事アナリストが提案。チャーターによる野戦病院型の「病院船」

3月末、ニューヨークのハドソン川に米国の病院船が姿を現した様子をニュース映像で目にした人も多いのではないでしょうか。日本でも病院船の必要性の議論がようやく起こり始めましたが、「新造船にこだわっていては進まない」と指摘するのは、メルマガ『NEWSを疑え!』を主宰する軍事アナリストで危機管理の専門家でもある小川和久さんです。小川さんは、以前から中古貨物船活用モデルを提言していて、今回はさらに簡易で迅速に投入できる貨物船をチャーターしての「病院船」化を提案しています。

チャーターによる野戦病院型の病院船

4月11日の朝刊を見ていたら、事件を報じる記事の中に病院船という文字が飛び込んできました。

「武田良太・防災担当相は10日の閣議後会見で、緊急事態宣言が出される前日の今月6日夜、同僚議員と会食していたと明かした。この直前、安倍晋三首相は緊急事態宣言を翌日に出すと記者団に表明。不要不急の外出を控えるよう国民に求めていた。

 

武田氏によると、自民党の衛藤征士郎衆議院議員から、災害時に負傷者などを収容する『病院船』のあり方について話がしたいと誘われ、指定された店へ出かけたという。『お酒はほとんどやっていませんが、食事はどこかでしなければならない』と話した。衛藤氏は病院船建造を目指す超党派の議員連盟の会長。(後略)」(4月11日付朝日新聞)

どうも新型コロナウイルス感染症の抑え込みについて、危機感や自覚がない人が少なくないようですが、衞藤さんを先頭にして病院船の議論は動き出しているようです。

しかし、これまでにもお伝えしたとおり、日本で病院船が実現しないのは、新造船にこだわるからです。そこで私は、中国のように3万トン級の中古の貨物船に医療モジュールコンテナを搭載する構想(標準タイプで200ベッド)のほうが、実現可能性が高いと主張してきました。

今回はもうひとつ、貨物船のチャーターの場合をご紹介したいと思います。これは2010年1月に起きたハイチ地震後の国連平和維持活動(PKO)に陸上自衛隊を派遣するとき、日本屈指の船会社の協力を得て、実際に当時の鳩山由紀夫首相にも提案したものです。当時のメモには次のように記されています。

チャーター船の候補は次の3船種でした。
●RO-ROモジュール船(1万313トン)
船形は平ら。前方に船橋(ブリッジ)があるが、海自のヘリ護衛艦「ひゅうが」の吃水を下げたような船形で、ヘリを発着させるスペースを確保できるプラントやガントリークレーンなど重量物を運ぶ用途だが、コンテナも搭載できる。貨物をおろしたあとは船内を病室に使える。本来RO-RO船である(岸壁から車両が自走して船内に出入りする)。貨物は後部からランプウエーを渡して出し入れする。チャーター可能期間は現時点で6カ月。

●新多目的重量物船(1万9400トン)
大型クレーン(150トン)3基を装備しており、クレーンは1基300 トンまでの重量物を運べる。ヘリは運用できない(クレーンが邪魔)。海自の大型ホバークラフト(LCAC)も運べる。甲板にコンテナを搭載できる。船体内部に何層かの中敷を入れてRO-RO船にできる。貨物をおろしたあとは船内を病室に使える。チャーター可能期間は現時点で3~4カ月。

●新多目的船(多用途コンテナ船)(1万7500トン)
クレーン(40トン)2基を装備。ヘリを運用できない(クレーンが邪魔)。本来コンテナ船である。船体内部に何層かの中敷を入れてRO-RO船にできる。貨物をおろしたあとは船内を病室に使える。チャーター可能期間は現時点で3~4カ月。フィリピン、マレーシアの泊地にコールド・レイアップ(無人)で保管されている。

ちなみに、RO-RO船(roll-on/roll-off ship)は、フェリーのようにランプ(岸壁と船の間に渡す収納可能な橋)を備え、トレーラーなどの車両を収納する車両甲板を持つ貨物船のことです。一方のLO-LO(lift-on/lift-off ship)船のほうは、船舶に装備されたデリック・クレーンやクレーンで貨物を吊って揚げ下ろしする方式の船です。

以上の3船種をもとに検討した結果、理想的なのはRO-ROモジュール船と新多目的重量物船を1隻ずつ派遣し、それぞれの特色を活かした運用をすることだが、1隻だけ派遣する場合は第1候補にRO-ROモジュール船、第2候補として新多目的重量物船を考えるのが、「病院船」としては望ましいのではないかということになりました。

具体的な運用について、メモは次のように記しています。

これまでご紹介してきたような貨物船に医療モジュールコンテナを積むものより、災害救援を主眼としている関係で「野戦病院」のようなイメージではありますが、迅速な投入が可能というメリットには捨てがたい魅力があります。このようなチャーター船を病院船として使う場合、基本的な設備・装備を国際緊急援助隊と一緒に準備しておけばよいだけです。

頭の固い病院船の議論をほぐすのに、ちょっと余計なことを言ってみました(笑)。(小川和久)

image by: Robert V Schwemmer / shutterstock

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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