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新型コロナは「正しく恐れる」渋沢栄一の教えから学ぶ現状考察

新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない中、これから世界はどうなってしまうのでしょうか?多くの人が不安になりながら日々の生活を営んでいますが、このような状況になったことで、いくつかの気付きが生まれたこともあるでしょう。世界の金融の舞台で活躍する渋澤健さんがこの現状を考察。「シブサワ・レター」をご紹介していきます。

プロフィール:渋澤 健(しぶさわ・けん)
国際関係の財団法人から米国でMBAを得て金融業界へ転身。外資系金融機関で日本国債や為替オプションのディーリング、株式デリバティブのセールズ業務に携わり、米大手ヘッジファンドの日本代表を務める。2001年に独立。2007年にコモンズ(株)を設立し、2008年にコモンズ投信会長に着任。日本の資本主義の父・渋沢栄一5代目子孫。

新型コロナウイルスがもたらす影響

謹啓 ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。

「紀元前BCの時代」(Before Corona)と比べると「紀元後ACの時代」(After Corona)は大きく変わってくると予感しています。

終息が見えず、世の中で数え切れないほどの人が困窮に陥っている現在、ACの時代を考えるのは時期尚早でしょう。しかし、暖かい春の陽光が必ず訪れるように、想像を絶する現状はいずれ終息します。一方、母なる地球の警告に耳を貸さなかった人類にとってBeforeとAfterの世界は大きく変わっているでしょう。

今年の1月に本レターで、日本社会が明治維新以降に繰り返してきた「破壊の30年」「繁栄の30年」という周期性の持論をお示ししました。この時代のリズム感が継続しているという前提では、2020年は時代の節目であり、日本は「繁栄の時代」に入ることを示唆しています。

ただ、気になっていたこともありました。1990年から30年の「破壊の時代」の過程では多くの前の時代の常識や慣習の変化の実感はあるものの、過去の時代の「破壊」と比べるとスケール感が小さいということでした。

しかし、新型コロナウイルスのパンデミックにより、地球規模の「破壊」が起こりました。今までの利潤追求のために効率性・生産性を高めるグローバル・サプライ・チェーンは、人の集会や活動によるモノの自由な移動を大前提にしていた盲点が明らかになりました。

image by: StreetVJ / shutterstock  

より求められる働き方改革

一方、インターネット・テクノロジーは、情報収集等の救いになっていますが、実際に移動や集会が遮断されると社会の経済活動だけではなく、文化活動も阻害されてしまいます。つながりや交わりがない社会には、感染症に伴う恐怖や不安は抑制できても、喜びがありません。

BCからACへの過程で、本当の意味での「働き方改革」を余儀なくされました。社内の朝の会合に集まることだけを理由に、通勤地獄の時間帯に列車に押し込まれて非人道的な扱いを受けていたということに皆さん気づいてしまったと思います。報告事項を共有するための会合であれば、WEB会議で十分です。やらなくても良い不要な業務や作業の発見も多々あったでしょう。

そして、本当に日本は、特に大企業の場合、人手不足だったのでしょうか。もしかすると日本社会において「人手」という資源の最適な分配に課題があったことが、今回の世界的危機を経て見えてくるかもしれません。V型回復への望みが多いと思いますが、同じところへ戻ることはないでしょう。いや、戻してはなりません。

世界各国の現状から比べると、日本の新型コロナウイルス対策に関して内外から色々な批判が聞こえてきます。全く人影がない世界各国の街と比べると、日本では比較的、平穏に人が移動をし、カウンターで並んでラーメンを食べている姿が見えてきます。

これは、日本人が緩いから? 危機に対して平和ボケだから? それとも、足るを知る、分を守るという行動指針を日常の生活慣習に取り入れて、自然と共生できているから? 

「検査、検査、検査」が世界の常識となっている中、日本の検査数の低さが目立ち、ガラパゴス化しているようです。陽性が判明した場合は、無症状でも隔離することで感染の拡大を抑制する措置は重要です。

ただ、検査とは疾患の重症化を予防し、死亡を阻止するものだと理解しています。一方、不安が不安を煽り、無症状者・軽症者が一気に医療機関へ診療に訪れたら、現場のキャパシティを超えて、重症者へのケアが出来なくなり、死亡者が増えるかもしれない。このような医療崩壊は社会として何よりも避けるべき状態です。

私は、感染症や公衆衛生の専門家ではありません。ただ、パンデミックで最優先すべきことは重症者・死亡者の抑制だと思います。このような観点から、各国の死亡者データを人口対比で比較してみました。その国の全員が感染しているという仮定の致死率です。

image by: shutterstock  

日本の「基礎は強固」

4月4日の時点で、人口百万人あたり、日本は0.6人でした。それと比べると、新型コロナウイルスが発祥した中国は2人で、検査数が多い韓国は4人です。他のG7先進国の人口百万人対比の死亡者を比べると米国は26人、ドイツは17人、英国は64人、フランス116人です。

やはり、深刻に突出しているのはイタリアの254人です。G7で日本の次に低いのは人口密度が低いカナダの6人です。イタリアと同じラテン系のスペインは256人であり、且つ、現在の重症者数は約6,500人でイタリアより多いので、新型コロナウイルスで死者が絶対数でも、一番多い国になるかもしれません。

社会福祉国家として憧れの声が日本でよく上がるスウェーデンは37人で、人口あたり死亡者数は日本の約52倍です。当初、爆発的に感染者が増えているというニュースになったイランは41人に抑えていますが、重症者数が約4,100人なので、これから増える可能性があるでしょう。

一方、アジアで新型コロナウイルス感染症に優れた対応力を見せているのは台湾の0.2人で、あっぱれです。シンガポールは1人で人口対比では日本より多くなっています。

データは過去から今までの現状しかわからず、これからの現状を正確に当てることはできません。毎日ジワジワと増えている数値なので、急増するかもしなく、予断を許されません。ただ、何か理由があって、日本人の重症者・死亡者数が比較的に低いとしか思えません。その「何か」はACの時代の「繁栄」に重要な要素であるのかもしれません。

□ ■ 付録:「渋沢栄一の『論語と算盤』を今、考える」■ □
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『論語と算盤』道理ある希望を持て
この信の一字を守ることができなかったなら
我々実業界の基礎は強固ということはいえない

信用はその企業の規模を問わず、最も重要な資本です。そして、その信用の本源とは、企業が掲げている看板やブランドではなく、そこで働いている人たちです。ただ人がいるから、ウイルスは人へと感染します。

だから人は自らの行為や慣習で感染を抑制しなければなりません。日本の人口対比で死亡者が少ないことは、その証ではないでしょうか。今回のパンデミックの総括の際には日本の信用にさらに高めるものになるかもしれません。

渋沢栄一の言葉を借りれば、日本の「基礎は強固」であるということでしょう。

『論語と算盤』大丈夫の試金石
 足るを知りて分を守り、これは如何に焦慮すればとて、
   天命であるから仕方ないとあきらめるならば、
      如何に処しがたき逆境にいても、
        心は平らかなるを得る。

「自然的逆境に立った場合」の渋沢栄一の教えです。要は、自分が何かを失ったことにより、何が有るかに気づき感謝する。やるべき(例えば、うがい、手洗い、マスク着用、人混みを避ける等)をきちんとやって身を守る。そして、ジタバタするより、場合によっては思い切って断念する。

これらは、新型コロナウイルスの感染が日本で広まった当初、知人の医者がSNSで教えてくれた「正しく恐れましょう」という行動指針に通じるものがあると感じています。

どうぞご自愛くださいませ。

謹白 渋澤 健

image by: shutterstock

渋澤 健(しぶさわ・けん)

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