MAG2 NEWS MENU

中国の不気味な動き。コロナ禍に浮上した金正恩「重体説」の裏側

今なお多くの人々が苦しめられている新型コロナウイルスによる感染症ですが、そんな中にあっても「ポスト・コロナ時代」を見据え、不気味な動きを見せている国もあるようです。元国連紛争調停官で国際交渉人の島田久仁彦さんは今回、自身のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』で、新型コロナウイルスが明確にした「2つの真実」と中国の動向を冷静な筆致で記しています。

国際情勢の裏側、即使えるプロの交渉術、Q&Aなど記事で紹介した以外の内容もたっぷりの島田久仁彦さんメルマガの無料お試し読みはコチラ

 

コロナ時代の地政学:世界はこれからどうRestructureされるのか?

WHOの事務局長テドロス氏の出身地エチオピアは、予てから“スーパー親中国”で、その周辺国にもその影響が及ぶほど、中国からの支援漬けに遭っていますが、隣国ジブチ、ソマリア、ケニア、スーダン、そしてエジプトにまで、中国の支配は及ぶに至りました。

COVID-19を“克服した”経験を活かして、各国に医療支援と物資、そして資金援助を投入し、リーダーシップの誇示を確立に尽力しています。

そして国連安全保障理事会の常任理事国という立場を最大限使い、“従属する国々”に対するいかなる制裁も潰すという外交上のカードも惜しみなく切ることで、その支配を確立してきています(2009年のスーダンの例のように)。

同様の事態は、強権化を進めるハンガリーをはじめ、私もなじみの深いセルビア共和国、チェコ、スロバキアなどでも起きています。

「中国による欧州への影響を懸念するドイツやフランス、オランダ」に代表されるEUの方針とは異なり、遅々としてEU加盟が進まないか、西側のEU加盟国から見下されていると感じる中東欧諸国も、中国の脅威を理解しつつも、実を取る政治的な戦略に出たと言えるでしょう。

結果、今回のCOVID-19へのEUとしての対応の不一致と、中東欧からの不満の増大によって生まれた修復不可能なEU統一におけるひびは、中国からの“働きかけ”と庇護によってより拡大され、欧州は本格的に地政学上のゲームにおけるメインプレーヤーグループから脱落することになります。

もちろん、これにアメリカのトランプ大統領は猛反対しています。COVID-19をChina Virusと呼んだのは序の口として、その後は、「中国の初期対応の著しい遅れがパンデミックを招いた」と非難したり、「WHOは中国の手下だ」と拠出金の停止を宣言したりと、中国に傾きかけている地政学上の覇王としての地位を取り戻し、必死に死守しようとしているように見えます。

アメリカのジャーナリストであり、多数の著書を持つカプラン氏と話した際にも同じような見解を持っていました。

現在、アメリカ合衆国は全土でコロナウイルスの感染拡大に苦しめられ、まだ出口が見えませんが、大統領選対策のみならず、トランプ大統領に経済活動の再開という大きなギャンブルを打たせようとしているのは、この中国の動きに対する焦りと牽制と受け取ることが出来ると考えます。

アメリカは、軍事的なプレゼンスでは、普段は、世界すべての海に海軍基地を持ち、地球上どこでも即時に作戦展開できる唯一のスーパーパワーですが、現在、COVID-19の感染が軍部に拡大することで、“すべての海に展開中”の艦隊の作戦能力を著しく低下させるか停止を余儀なくされており、軍事的な重しが効いていない状況といえます。

ゆえに、南シナ海での中国の野心的な覇権へのチャレンジにも効果的な対抗が出来ていませんし、エチオピアおよびその周辺の“中東と北アフリカをにらむ対テロ作戦の基盤”においても、中国の進出に対抗できていません。

実際に米中が交戦すれば、まだアメリカに圧倒的な優位があると言われていますが、両国間での直接戦争が非現実的である状況下では、作戦能力と抑止力の低下は大きな戦略上の痛手となり、アメリカの地政学上の支配能力への疑念を拡大する結果になりかねない事態です。

それゆえに、経済力での対応力を一刻も早く回復させるために、都市封鎖や活動制限を緩和するような圧力を各州知事にかけているのだと考えます。

ドルはこのような状況下でも世界の基軸通貨として君臨していますし、NYSEも世界最大の株式市場として、株価のパフォーマンスが即時に他国のマーケットを揺らすという構図は変わっていませんが、COVID-19の感染拡大は、製造を止め、物流を止め、人の移動を制限し、雇用を大幅に失い、米国経済基盤を脅かしており、その悪影響が世界経済に広がる震源地になりつつあります。

国際情勢の裏側、即使えるプロの交渉術、Q&Aなど記事で紹介した以外の内容もたっぷりの島田久仁彦さんメルマガの無料お試し読みはコチラ

着々と育つ新たな争いと災いの種

通常であれば、このような事態下では、米国の地政学上の支配下にがっちりと入っている世界第3位の経済国日本との協調で、経済的な覇権の維持と増大を迅速に図るのですが、その日本も今、COVID-19の感染拡大の最中で、収束の見通しが立たない状況であり、同時に日本経済を支える企業と雇用が大打撃を受ける中、支配国アメリカからの要請にフル回答することはできません。

よく例えに出される2008年のリーマンショックあたりまでは、まだ“日本株式会社”と言われたように、官民一体となって一致団結したアクションを講じることが出来たのですが、2020年の日本の現状は、One Teamやオールジャパンという標語ばかりが叫ばれる中で、全く一枚岩の対策を取れない状況です。

日本も、地政学上のリーダーになることが出来るポテンシャルがあったにもかかわらず、COVID-19の感染拡大とコントロールのまずい対応は、コロナ時代の地政学におけるリーダーシップグループからの脱落へと導かれることとなるでしょう。

ではロシアはどうでしょうか。国内ではCOVID-19の感染拡大が深刻化し、強権的なプーチン大統領の施策をもってしても抑え込めていない状況ですが、地政学上の支配トライアングルの一角を担う国としてのintegrityと面目は何とか保っているようです。

拡大する中国の影響力については、警戒はしつつも、真っ向から対立することは避け、代わりに【国家資本主義体制の拡大】という旗印の下、中ロでがっちりと組み、覇権の拡大に二人三脚で挑んでいるように思います。

中国がアフリカ大陸での勢力拡大に勤しむ中、ロシアはシリアとイランを足掛かりにして、中東地域での影響力拡大に勤しんでおり、この国家資本主義体制での支配を目論んでいるように思われます。

ロシアをさらに地政学上の支配国として君臨させるきっかけとなっているのが、今、世界経済を大混乱に陥れている【原油価格のコントロール能力】です。

OPEC Plusでの協調減産を突如やめるというチキンレースを仕掛けて、アメリカのシェール企業つぶしに臨んだわけですが、サウジアラビアからの想定外の対抗を受け、その後、原油価格が著しく下落することで双方血を流しつつも、元々の目的は達成する方向に進めてきました。その後、業を煮やしたトランプ大統領からの圧力もあり、4月9日にOPEC Plusで合意された日量約1,000万バレルの減産合意と、それを受けた域外の米国を含む産油国が約束した日量400万バレル相当の協調減産という好材料があるにもかかわらず、原油価格の上昇には至らない状況になっています。

これは、先週号でも触れましたが、コロナウイルスの感染拡大の下、一気に低下した経済と生産活動、そして運輸部門などでの需要が大幅に減少したことで、大幅な減産をしてみても、一気に減少した需要をまだ上回る供給量となったことで、先週も触れた日量にして2,000万から3,000万バレルと言われる供給余剰が、各国の貯蔵能力に限界をもたらしつつあります。

「供給過剰を解決する術を見つけられず、また世界的な需要レベルが戻る兆しがなければ1バレルあたり15ドルも冗談ではない」と先週号で申し上げたところですが、早くも4月20日にそのレベルに達し、その後も下落が止まりません。

「これが大きなエネルギーの転換、特にクリーンエネルギーへの投資と転換につながるのではないか」との楽観的な意見(IEAのBirol事務局長)も聞かれますが、それ以前にエネルギー産業を破壊しかねない状況が迫っています。

エネルギー安全保障の確保は、実際には国際安全保障の確保に直結するため、世界各国がアプローチを間違えると大きな争いの勃発は避けられない事態が予想できます。さらに、COVID-19の世界的な災禍により国内回帰が進む中、どれだけ各国に国際協調の下、問題を協力して解決する力と気持ち(will)が残っているかは分かりません。

ここでも、新たな争いと災いの種が着々と育っている気がしてなりません。

国際情勢の裏側、即使えるプロの交渉術、Q&Aなど記事で紹介した以外の内容もたっぷりの島田久仁彦さんメルマガの無料お試し読みはコチラ

「平壌の完全封鎖」が意味するもの

その“新たな争い”のフロントラインに立ち、エネルギー安全保障上の覇権を確実にしようとしているのがロシアです。元々欧州に対してはエネルギー上の覇権は確立していましたが、OPECに圧力をかけ、かつアメリカのシェール企業の息の根を止める動きを見せることで、エネルギーを材料にした地政学上の支配構造の確立に動いています。

しかし、これはCOVID-19のパンデミックで世界経済の基盤が大きく傷んでいる状況下では非常に危険な賭けだと考えます。マイナスさえ記録した原油先物価格の著しい下落は、金融市場はもちろん、株式・債権・外貨取引に非常に大きな動揺と混乱を与え、世界経済の回復スピードを大幅に遅延させることにもなりかねません。

米国経済や日本経済、欧州各国の経済といった“先進国の経済”への悪影響はもちろんのことですが、産油国通貨が大幅な下落を続ける中、産油国の財政破綻を連発させかねませんし、産油国の信用リスクを著しく上げることにもなり、それが格付けの低下を招き、各国の資金調達条件を悪化させ、デフォルトの連発という事態へとつながる予測もあります。

そして、元々のロシアの狙いであったアメリカのシェール企業も多くがデフォルトに追い込まれますし、OPECの雄として長年原油価格のスイングプロデューサーとして君臨してきたサウジアラビアも影響力を失うことで、原油市場がuncontrollable(制御不能)に陥ることにもなりかねません。

そのような中、自ら仕掛けた喧嘩をいかに収めるかが、ロシアがコロナ時代の地政学における支配力を保つカギかと考えます。

そんな中、地政学上の構図を変えかねないジョーカー的な存在の一つが北朝鮮です。今週CNNが速報で伝えた【金正恩氏危篤・重体】とのニュースは、さまざまな憶測を呼び、世界に衝撃を与えました。韓国政府は即座に「そのような事実は確認されない。また金正恩氏は通常通り、スタッフと共に地方で活動している」と否定しましたが、情報部の高官は「20日月曜日から21日にかけて、首都平壌が完全封鎖されたことから、何らかの混乱が生じていることは確か」と述べるなど、火種はくすぶったままです。

事実は謎のままですが、23日には米軍統合参謀本部議長が「金正恩氏が軍のコントロール失っているという兆しは全くない。現在でも全軍の統率・コントロールを掌握している」と述べていることから推察すると、クーデターなどの急変は起きておらず、まだ金一族による統制は効いていると考えますが、その統制が金正恩氏によるものなのかは不明だと考えます。

金正恩氏の生存や健康状態にかかわらず、今回のニュースで関心は「ポスト・金正恩氏」に移り、特に注目は実の妹である与正氏の動きに集められています。4月11日の会議では政治局員候補に推挙されていることから、確実に政権のナンバー2になっており、異例のスピードの昇進は、金正恩氏の体調が思わしくなく、金王朝を維持するために与正氏にバトンタッチするのではないかとの憶測を呼んでいます。

そのまま移譲が進めば、好む好まざるにかかわらず“安定”は保てますが、ここでもCOVID-19の感染拡大が大きな暗い影となります。

国際的には公表されることはないですが、北朝鮮も例外なくCOVID-19による大損害を受けており、多くの死者を出しているようです。また感染が発覚すると、強制的に収容したり、処刑したりしているという情報もあり、その行き過ぎた対応は人民の我慢の限界を超え、確実に金王朝の支配の基盤が危うくなってきているようです。

国際情勢の裏側、即使えるプロの交渉術、Q&Aなど記事で紹介した以外の内容もたっぷりの島田久仁彦さんメルマガの無料お試し読みはコチラ

中国の不気味な影と日本の未来

ここで不気味なのが、中国の影です。COVID-19感染拡大を防ぐため、北朝鮮政府は中朝国境を閉鎖し、それを中国も黙認してきましたが、北朝鮮国内での災禍の拡大と金王朝の基盤の弱体化を見て、北朝鮮に対する実効支配を目論んでいるようです。

日米(韓)へのバッファーとしての北朝鮮はキープしても、実質的には中国の支配下に入れ、北朝鮮のミサイルや核も中国が管理するという絵図が描かれているとの情報もあります。

あくまでも憶測にすぎないかもしれませんが、これが実際に起きると、中国の地政学上の支配は、さらに東に延びてくることになります。

その時、日本はどうするのか?アメリカの核の傘の存在を過大評価して「いざというときは」と高を括るのか、それとも自国の存続に対する危機と認識して、新しい地政学上の位置付けを本気で模索するのか。その決定に与えられた時間はあまりないように思われます。

COVID-19の感染拡大は確実に各国の人々や経済を蝕み、グローバリズムの終焉をさらに確実にする中、まだ感染が収まっていない状況にもかかわらず、すでに国際情勢はポスト・コロナ時代の世界秩序へと動き出しています。

今回のCOVID-19が明確にしたのは、【国際政治は偽善のかたまりであり、かつ残酷である】ということと、【グローバルな問題を目の当たりにし、その解決のためには国際協調が必要だと叫ばれる中、実際には各国は自己の利益しか見ていない】という事実です。

そのような事実が暴かれたコロナ時代の地政学において、どのように生き抜くのか。

COVID-19の感染拡大によって物理的な動きを封じられ、各国の人々の中にエゴが強く根付いていく中で、自らを守り、かつ可能な限り輝くための術や戦略をしっかりと意識し、実行に移し始める必要があると感じています。

皆さんはどうお考えになりますか?

国際情勢の裏側、即使えるプロの交渉術、Q&Aなど記事で紹介した以外の内容もたっぷりの島田久仁彦さんメルマガの無料お試し読みはコチラ

 

image by: Massimo Todaro / Shutterstock.com

島田久仁彦(国際交渉人)この著者の記事一覧

世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

有料メルマガ好評配信中

    

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』 』

【著者】 島田久仁彦(国際交渉人) 【月額】 ¥880/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎週 金曜日(年末年始を除く) 発行予定

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け