MAG2 NEWS MENU

世界で失業者16億人も。コロナ禍は、先進国も途上国も平等に潰す

全世界の人々に不自由な生活を強いている新型コロナウイルスですが、仮に収束を見たとしても、もはやこれまでの日常を取り戻すことは困難のようです。元国連紛争調停官で国際交渉人の島田久仁彦さんは今回、自身のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』で、ポスト・コロナの世界をプロフェショナルの知見で大胆に予測。コロナを生き延びた先にどのような未来が待ち受けているのでしょうか。

国際情勢の裏側、即使えるプロの交渉術、Q&Aなど記事で紹介した以外の内容もたっぷりの島田久仁彦さんメルマガの無料お試し読みはコチラ

 

ポスト・コロナの世界の政治・経済・社会の行方

「どこの国がぬかるみからいち早く抜け出せるかの競争だ」

ノーベル生理学・医学賞受賞者の本庶教授がポスト・コロナの見通しについて述べた言葉です。

まさに今、世界はその言葉の通りに動こうとしています。

4月中旬には経済活動の再開を強行した中国の習近平政権。COVID-19の発生地とされる湖北省武漢市とその周辺の都市封鎖も解き、製造と物流を再開させました。

また、「コロナを克服した!」と宣言し、「その知見を世界のために役立てる」と医療スタッフを各国に派遣したり、マスクや感染防止衣をはじめとする医療物資を【支援物資】として欧州各国やアフリカ諸国などにばら撒いていますが、支援物資が不良品であったりするケースが相次ぎ、支援外交によってポスト・コロナの世界で主導権を取りたいとの思惑は、惨めなまでに躓いています。

代わりにアメリカのトランプ政権はもちろん、欧州各国からも非難の対象にされ、その矛先は、事務局長が中国をかばったWHOにまで向けられています。そのせいで、アメリカはWHOへの支出をストップさせ、欧州各国もWHOの機能不全を認める事態に発展し、国際機関を通じた中国の覇権拡大の目論見も外れています。

5月22日に、3月から延期されていた全人代が開幕することになりましたが、そこでどこまで中国の面子を取り戻すような提案ができるのか、非常に見ものです。

目を欧米各国に向けてみると、同じく【経済活動の再開による自国経済の正常化】を早める動きが目立つようになってきました。

4月中旬に経済活動の再開を始めたドイツや、下旬に一部産業セクター(特にインフラなど)に対する制限を緩和したスペインに続き、日本のゴールデンウイーク中には、欧州で最も酷い被害を記録したイタリア(5月4日)、そして11日にはフランスも経済活動の一部緩和に乗り出します。【段階的な経済活動の再開】と謳われていますが、消費者たちの購買意欲を掻き立てる外食産業や旅行産業(航空産業含む)の再開はまだで、実質的な消費者心理の向上による消費拡大と経済回復にはなかなか至らないのが実情です。

イタリアを抜いて世界トップの感染者数と死者数を記録しているアメリカでも、州によっては外出制限の一部緩和に乗り出すケースが出てきました。最大の感染者数を記録したNY州や、第二の規模の州であるカリフォルニア州は、まだ制限を緩める動きは目立ちませんが(NY州については、緩和を一部検討)、感染拡大がまだコントロールできているとは言い切れない状況下で、今、封じ込めの手を緩めるのは得策ではないとの意見も多く聞かれます。

欧州、そしてアメリカで拭うことが出来ない大きな懸念が感染の第2波の可能性です。すでに東南アジア諸国(シンガポール、タイ、マレーシア、インドネシアなど)では感染の第2波が襲っており、再度感染が拡大しています。

第1波の流れを辿るとすれば、その次には欧州で感染の第2波が広がり、そのままアメリカに流れてくるということになります。その場合、再度のLockdown(都市封鎖)は人々の心理に非常に重いプレッシャーを与えることになり、ジョンズホプキンス大学によると、「人々はそのプレッシャーに対して心理的に脆くなり、恐らく耐えることが出来ない人が急増するだろう。その場合、各国の経済に与える影響は計り知れない」という状況が待っている恐れがあります。そうなると、欧米各国の国民の心理はさらに冷え込み、それにより消費が控えられ、経済状況はさらに悪化するという負のスパイラルを辿ることになるでしょう。そうなると、すでに落ち込んでいる世界経済に対して、さらなる本格的な恐慌が襲い掛かる可能性が囁かれています。

その本格的な恐慌は、個人消費に高く依存する構造が特徴のアメリカ経済を襲うことになり、その影響は、確実に世界各国経済を襲うことになります。

すでに発表されているアメリカのGDPの4月から6月の落ち込み予測は年率にして40%とも言われ、それは、さらなる大量失業と消費行動の停滞、心理の悪化を招くのみならず、政府からの経済活動の再開要請を受けても、GMやボーイングといった大企業はフル再開を見送るとの情報が入っていますし、すでにコロナウイルスの感染拡大の影響で大損害を被ったアメリカの畜産業(特に豚)は壊滅的な影響を受けるとされています。11月の大統領選までにV字回復を!と謳うトランプ大統領の狙いは、恐らく叶えられることはないかと考えます。

国際情勢の裏側、即使えるプロの交渉術、Q&Aなど記事で紹介した以外の内容もたっぷりの島田久仁彦さんメルマガの無料お試し読みはコチラ

新興国の一部は国家破綻も

では、その対極にある中国はどうでしょうか。すでに先ほどお話ししましたが、粗悪品の医療物資を送りつけたつけは、世界各国における反中国感情の爆発を招き、そこに「品質保証のために輸出の許可制を取る」とした中国政府の決定が、「弱みに付け込んだ輸出制限なのではないか」と各国からの怒りの火に油を注ぐ結果になり、外資、特に欧米の外資の製造拠点を中国から移転させるべきとの見直しの動きが加速しているようです。

その動きは、もう発生から3年ほど経つ米中貿易戦争にも波及し、相剋は医療物資にも拡大しています。しかし、コロナウイルスの感染拡大との戦いの真っ最中にあるアメリカの医療現場では、とにかく医療物資が足りない状況で、現時点で中国からの供給を止められるようになってしまえば(現時点では、8割弱が中国からの輸入への依存)大変なことになると悲鳴を上げていますが、トランプ政権は耳を傾ける兆しはないようです。コロナウイルスの感染拡大が少し収まってきたら、恐らく中国からの供給を見直し、同盟国からの供給に移行するという動きを取るのだと思われますが、現状での必需品を巡る対立は、余分な犠牲をアメリカ国民に強いるようなことになるかもしれません。

冷え切った消費者心理、広がる第2波の感染拡大、大失業の発生…そのようなネガティブな要因のオンパレードで11月の大統領選をどう戦うのか。トランプ大統領もバイデン前副大統領も、じっくりと計画を練っておかないといけないでしょう。

日本については、今後、緊急事態宣言が1か月ほど延長されることでどのような影響が出てくるかは予測できませんが、ポジティブな要素は見つからないでしょう。こちらは、今後、どのような展開になるのか、国民としてしっかりと見つつ、自ら動かないといけないと考えます。

先進国は、非常にネガティブな状況に直面することになりますが、それでも恐らく何とか持ちこたえるものと思われます。しかし、新興国を含む途上国経済は、国家が破綻する可能性が出るほど危機的な状況に陥るでしょう。

例えば、中国と並んで新興国におけるEconomic giantとして君臨し、13億人を超える人口とIT人材の豊富さから世界第4位か5位の経済国となりつつあるインドですが、3月25日から3週間にわたって全土封鎖を敢行するというモディ首相の策も、見事に的外れだったようです。コロナウイルスの感染拡大防止のための策だったはずが、ヒンドゥー教の宗教行事や貧困層の非常に狭小な生活スペースによる3密状況に加え、元々乏しい衛生習慣が災いして、感染者数は全土閉鎖前の40倍以上に膨れ上がってしまいました。そのことで、全土封鎖と相まって、インド経済が実質上停止したといえ、そのことが食糧安全保障の崩壊へと繋がりかねない状況になっています。

新興国としてラテンアメリカ諸国の雄ともいわれたブラジルも、ボルソナロ大統領がコロナウイルスの感染拡大封じ込めよりも経済活動を優先したことで、国民と経済を大きな危機に直面させています。

「どうせ皆感染しているんだし、私たちは食っていかないといけないのだから、経済を封鎖するわけにはいかない」

こう主張して極右と貧困層の支持を取り付けているボルソナロ大統領ですが、自身の閣僚からは反旗を翻されました。それは、コロナウイルスの感染拡大防止の先頭に立っていた保健大臣を解任したことに始まり、その後、政権のクリーンなイメージの象徴とされていたモロ法務・公安大臣の辞任を招きました。また、ボルソナロ大統領に近いとされてきたアセベド防衛大臣の「コロナとの闘いが最優先」との反旗を受け、ボルソナロ大統領の支持層であるはずの国軍も距離を置くようになっています。

それに加えて、再三、大統領にCOVID-19封じ込めのための都市封鎖を進言してきた各州知事もことごとく大統領を非難し、州民の生き残りをかけて独自の対策を取り始める事態です。

また議会も大統領を激しく非難する状況になっており、ハッキリ言ってブラジル政治は崩壊していると言っても過言ではありません。

それを受けて、通貨レアルも対ドルで最安値を更新し続けており、経済的な危機も迫っているとされています。

その影響でしょうか。アルゼンチンをはじめ、ラテンアメリカ諸国からは激しい非難を浴びており、すでに地域でのリーダーシップポジションを失っていると言えるでしょう。そうなると、ラテンアメリカ諸国全体の安定にも影響が出るため、コロナウイルスの感染拡大が収束の気配を見せだすころには、大きな争いの種があちらこちらにまかれているのではないかと非常に懸念しています。

国際情勢の裏側、即使えるプロの交渉術、Q&Aなど記事で紹介した以外の内容もたっぷりの島田久仁彦さんメルマガの無料お試し読みはコチラ

世界を襲う深刻な食糧危機

そして、新興国でのコロナ渦の拡大と激化は、世界の食糧事情への懸念を増大させています。いわゆる食糧安全保障の危機です。

G20(サウジアラビアが議長国)の農相が先週揃って懸念を表明し、コロナの影響を理由とした食糧の輸出制限を控えるべきとの声明を出しましたが、すでに制限の兆しがあちらこちらで出てきています。

例えば、ロシアとウクライナは(外交・安全保障上では対立していますが)、すでに小麦の輸出制限に乗り出しました。狙いは小麦価格の高騰を食い止め、価格を安定させるためとのことですが、実際には、世界の供給量に大きな変化がないにもかかわらず、心理的な要因もあり小麦の価格は上がっています。また、2007年にも起こったコメの輸出制限(ベトナムなど)という前例もあるように、コメの価格にも影響が出てきていますし(東南アジア諸国経済を締め付け)、鶏肉や鶏卵などもつられて価格が上がってきています。

現時点では、FAO(国連農業機関)やWFP(世界食糧計画)などの発表によると、世界の穀物市場の供給量自体は安定しており、かつ在庫も潤沢にあるとのことですが、この声明がプラスに働く(安心につながる)のは、先進国のみで、途上国については何ら希望につながらないという分析もあります。

WFPの別の報告では、「2020年末には、このままいくとコロナの影響で2億6,500万人が食糧不足に陥る」とのことで、2019年の1億3,500万人の約倍に膨れ上がる予測です。

そして、仮に新型コロナウイルス感染症の拡大の影響が長期化した場合、つまり感染の第2波や第3波に襲われた場合、先進国も悠長なことを言っていられるか微妙です。

ロックダウンの再実施などにより、国内外での移動制限によって農業従事者の確保や農作物の物流網に大きな悪影響が出ることになります。

例えば、アメリカですが、農業労働者の多くをメキシコ人労働者に依存していますが、国境封鎖などによる移動制限の厳格化により、アメリカの大規模農場における農産物・畜産物の生産そのものが大きなリスクに見舞われることになります。

ヨーロッパもよく似た状況になります。中東欧や北アフリカ諸国からの労働者に重度に依存しているEU の農業ですが、コロナの影響で移動が制限されることで、労働者不足が起き、域内での農業生産が立ち行かなくなります。

生産のみならず、輸送とロジスティクスも成り立たないという危機的な状況が農業を襲い、それがそう遠くないうちに食糧安全保障に直結しかねません。

そして、それがそのまま他のセクターにまで広がり、生産・加工・物流(流通)における労働力を確保できなくなり、経済活動がマヒしてしまいます。

日本はどうでしょうか?やっと4月30日に1人当たり10万円の支給や中小企業支援などに充てられる補正予算が可決されましたが、緊急事態宣言の期間の延長不可避となった今、果たして日本経済は成り立っていくのか、個人的には非常に不安です。

では、このような状況に直面して各国の政治そして国際政治はどのように変わるでしょうか。

残念ながらCOVID-19のような世界的な危機に直面しても、各国の政治は変わらないだろうというのが私の見解です。

国際情勢の裏側、即使えるプロの交渉術、Q&Aなど記事で紹介した以外の内容もたっぷりの島田久仁彦さんメルマガの無料お試し読みはコチラ

世界に溢れる16億人の失業者

それは、どの国のリーダーも政府も、自らの判断を正当化する「確証バイアス」を強化するだけだからです。

自らの判断ミスとCOVID-19の威力を甘く見て対応が著しく遅れたか、全くとらないトランプ大統領やボルソナロ大統領のようなエゴ満載のリーダーや、ハンガリーのオルバン首相やカンボジアのフン・セン首相のように、COVID-19という国難を逆に利用して自らの権限拡大に踏み切ったような強権的な国家リーダーは、「国際的な協調などうまく行かない。WHOを見てみろ!」と国際協調と国際機関による統制を糾弾するでしょう。

逆に欧州に多い国際統治を尊重する国々のリーダーは、「WHOの機能が中途半端で、かつ権限を十分に与えられていなかったから、新型コロナウイルス感染拡大に対して国際的なunited actionsが取れなかった。ゆえに、WHOなどの権限強化をするべき」と謳うでしょう。

何よりも怖いのが、そのどちらの見解も“正しく”、その“正しさ”は、新型コロナウイルス感染拡大による世界的な災禍を経験した後でも、国際政治の様相や特徴を変えることはないという事実です。先週号(「中国の不気味な動き。コロナ禍に浮上した金正恩『重体説』の裏側」でお話しした地政学のお話しとつながりませんか?

新型コロナウイルス感染拡大によって、ILO(国際労働機関)の試算では、世界で16億人以上が雇用を失い、生計を立てる手段を失うことになるようです。それは先進国・途上国の別なく。

結果どうなるのか。紛争の現場に何度も赴いた経験と、戦争の調停に携わってきた身としては、社会不安の増大が引き起こす新たな紛争の各地での同時勃発を非常に懸念しますし、それによりコロナを必死で生き延びた人たちも、さらなる災禍に見舞われることになってしまうかもしれません。

皆さんはどうお考えになりますか?

国際情勢の裏側、即使えるプロの交渉術、Q&Aなど記事で紹介した以外の内容もたっぷりの島田久仁彦さんメルマガの無料お試し読みはコチラ

 

image by: Jennifer M. Mason / Shutterstock.com

島田久仁彦(国際交渉人)この著者の記事一覧

世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

有料メルマガ好評配信中

    

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』 』

【著者】 島田久仁彦(国際交渉人) 【月額】 ¥880/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎週 金曜日(年末年始を除く) 発行予定

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け