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日本人の患者にだけ共通するセリフに、米国の医師が驚いた理由

新型コロナウイルスの感染拡大への対応の仕方と国民の行動は、国によってさまざまですが、緊急事態宣言を発出しながらロックダウンの措置を取らないわが国の対応は、諸外国からは違和感があるようです。NY在住20年、『NEW YORK ビズ!』CEOの高橋克明さんは、自身のメルマガ『NEW YORK 摩天楼便り-マンハッタンの最前線から-by 高橋克明』で、日本人の独特の考え方を指摘するアメリカの医師の話を紹介。その指摘とは、科学的エビデンスと心情的側面をごっちゃにするという耳の痛いものでした。

日米間で違う、緊急事態宣言の懸念

以前、友人のアメリカ人医師とごはんを食べに行った際の話です。彼はスコットランド系のユダヤ人。ニューヨークで開業医をやっているので、患者は世界中の国籍と人種に渡ります。そんな彼が「日本人の患者ってさ、(診察時)必ず決まっていうセリフがあるんだよ」と僕に面白いことを教えてくれました。

「『そうは言っても、先生!!少しくらいのお酒は、逆に身体にいいですよね。たま~に食べるケーキ・ブッフェくらい、そんなに悪くないですよね』って、日本人は必ず、みーーーんな言ってくるんだよ」と、ちょっと驚いた顔します。

「少しくらいのお酒は身体にいい」「たまのデザートくらい問題ない」何がおかしいのか。僕だってそう思います。なぜ、彼が驚いた顔をしてわざわざ報告してくるのか、その意図がわかりませんでした。

「オレも日本人だし、そう思うよ。日本では“酒は百薬の長”って言葉があるくらいで、飲み過ぎなければ、ストレス解消にもなるし、むしろ健康にいいんじゃないかな。いつもいつも大量の砂糖を摂取するのは、さすがに問題あると思うけど、たとえば女の子たちが仲の良い友達とたまにケーキブッフェ行くのは、幸せを感じることだろうし、長い目で人生の幸福度を計った場合、それくらいはいいいじゃん。むしろ、健康にいいという理由だけで美味しくもないものばかりを食べる生活って、それだけでストレスが溜まって、むしろ健康に悪い気がするけどな」と答えました。

すると彼は、「もちろん!そのとおりだよ!僕も医師の立場から言って100%そう思うよ」と同意します。「じゃあ、何が問題なの?」と聞く僕に被せるように彼は続けました。「だから、彼ら(患者)もそう説明してくれればいいのに!」と。意味がわかりませんでした。日本人の患者の言ってることと、彼が今、100%同意した僕の意見は同じです。「いや、同じじゃない」と彼は言います。

「いいかい。少しくらいのお酒がストレスを緩和したり、たまのスイーツが幸福感をもたらしたり、それらの事実がQOL(クオリティー・オブ・ライフ、つまり人生の質)を上げるのは間違いない。長い目でみたら、健康にいいとも言えるかもしれない。さっきも言ったように僕も同意見だよ」
「うん」
「それと、“お酒や砂糖が健康にいい”というのは全く別問題なんだよ」
「言ってることがわからない」

「お酒やデザートがストレス発散になり、長い目で見て幸福への手助けになるという価値観と、医学的に人体にとってアルコールや精製されたシュガーが悪質に働く、という問題はまったく別なんだよ」
「あったりまえじゃん、そんなことはわかってるよ」
「違う、わかってない。日本人はそのあたりをぐちゃぐちゃにしがちなんだよ」と言います。そして、その感覚は日本人特有のものだと彼は続けます。世界中で日本人だけのもの、だと。

「ハッキリ言って、アルコールも精製された砂糖も人体にはまったく必要ない。悪い、ものなんだよ。その事実は変わらない。シュガーは、悪い。それ以上でも以下でもない」
「うん」
「で、その上で、そうは言っても、たまには食べたいよね。身体には悪くても、幸せを感じるから、少しくらいはいいよね、っていう意見には個人的に賛成する」
「どう違うの?」このあたりから僕はこんがらがって来ます。

「全然違う。0.0000001グラムでも良いか、悪いか、で言うと、医学的には人体には悪いんだよ。長い目で見てストレス解消、幸福感で、人体によかったとしても、それはまた別の話なんだ。医者の僕が患者に言うのは、シュガーは身体に悪いですよ、で完結のはずなんだよ」
「…うん、なんとなく、わかる」
「でも、世界中のあらゆる患者さんの中で日本人だけが、『でも少しくらいは、いいですよね』『でもたまには、問題ないですよね』って言ってくる」

「だから、それは、ストレス解消にもなるし、幸福感を感じ…」
「だーかーら、それは、まったく違うイシューの話で、その後の個人の見解なんだよ。個人の生き方の自由で、医者の僕の意見は、“砂糖=悪い”以上!なんだよ」
「でも、彼らの言いたいことはわかるだろ」
「わかるけど、わからない。わかっちゃダメなんだよ。人体的に悪いという話と、価値観的に良いという話を同列に話すのは日本人の特徴なんだよ」

日本人の僕は、日本人の気持ちがわかります。単一民族、単一言語、単一宗教の僕たちは、国民みんなが「あるある」を共通認識として持っているからです。いや、彼ももちろんわかっています。でも、世界ではわかりづらいらしい。

つまり、「お酒もスイーツも、少しくらいならストレス解消になるし、QOLも高くなるし、いいですよね」とまで説明してくれたら、理解できるけれど、日本人独特の「言わなくてもわかってくれるでしょ」の感覚で、「お酒もスイーツも、少しくらいなら、いいいですよね」というハショった質問には、アメリカ人の医者は、一瞬、びっくりするらしいです。お酒も、スイーツも、少しくらいでも、よくはない、からです。「でも、ストレス解消になるから」というコンディション(条件)をくっつけて説明しないといけないらしい。めんどくさい。

でも、それは彼らが理解力がないのではなくて、「アルコール、シュガーが人体に良くない」という話と、「回り回って、ストレス解消になるから、逆に精神的にいい」という話は、まったくフェーズの違う話だから、だそうです(わかりづらくてスイマセン)。帰り道、あいつ、ちょっと、細かいな、と考えながら、でも、そうは言っても、確かにそうかもな、とも思いました。今回のニューヨークのロックダウン発令と、日本の非常事態宣言発令における、国民の受け取り方の違いが頭によぎったからでした。

日本で「感染させない=ロックダウン」にならない理由

ここから先は、少し、話が強引になります。それでも僕はそう確信しています。新型コロナをオーバーシュートさせないことは、ロックダウンさせることです。それは間違いない。そこは自粛派もアンチ自粛派も、一致している事実なはずです。精製されたシュガーが人体医学的によくない、という事実が、健康マニアにも、甘党にも一致しているように。

パンデミックを防ぐこと。そこ一点に意識を集中させると、まずはロックダウンする。それが正解なはずです。なので、世界はロックダウンをします。感染させない=ロックダウンする、だからです。

で、その結果、経済が破綻するかもしれない、市民のメンタルが不安定になるかもしれない、というのは、実は、その後の問題です。大雑把なアメリカ人ほか、世界の人々はみんな、まずは、目の前の問題を片付けようとします。

でも、頭のいい日本人は、その瞬間にその先の展開も頭によぎってしまう。「でも、そんなんしたら、経済が!そんなんしたら、うつ病が増えて!そんなんしたら、家庭内の犯罪が増えて!」と慌てる傾向にある。感染を防ぐことと、それらを同列に置く。

ロシアの大統領プーチンは外出禁止令を出した際、国民にこう言いました。「おまえら外出したいなら、してもいいけどよ。見つけたら、即、逮捕してやっからな」と(大袈裟に意訳)。目の前の問題をまずはクリアさせなきゃいけないトップの態度としては、正解なんだろうなと思います。“少しくらいなら~”、“たまには~”という個人の意思、意見、自由を忖度はしない。最新の科学的エビテンスをもとに、「シュガーは人体に悪だ」という事実を、医者は言い切らないといけないように。

日本人のお医者さんが日本人の患者さんに「でも、まぁ…ねぇ、たまにはね」と言うのは、日本人同士だからでもあるし、「個人の別の価値観に沿った意見」まで進言できるやさしいお医者さんだからです。

「我慢しすぎてもさぁ、余計身体に悪いでしょお~?そうは言っても、お酒のない人生なんてぇつまらなすぎるー、たまのショートケーキもダメなんて生きてる意味なぁい…」それらの心情を理解してあげられるからです。でも、医学的には間違っている。

くどいようですが、人類の存続をかけた場合、各国は早急にロックダウンするべきでした。カリフォルニア州に1週間遅れたけだけで、ニューヨークは全米中から叩かれた。日本で外出自粛例が出た後に、「そうは言っても、飲食店は大変でしょ~、インフルエンザよりは感染率低いんだしさぁ~、逆に不健康だよぉおお」は実はその後の問題だと思うのです。

image by: shutterstock

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全米発刊邦字紙「NEWYORK BIZ」CEO 兼発行人。同時にプロインタビュアーとしてハリウッドスターをはじめ1000人のインタビュー記事を世に出す。メルマガでは毎週エキサイティングなNY生活やインタビューのウラ話などほかでは記事にできないイシューを届けてくれる。初の著書『武器は走りながら拾え!』が2019年11月11日に発売。

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【著者】 高橋克明 【月額】 初月無料!月額586円(税込) 【発行周期】 毎週水曜日

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