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ズル賢い中国。コロナ禍で見捨てられた国を支援で取り込む姑息さ

今この時点での「人類の共通の敵」といえば新型コロナウイルスをおいて他になく、何より重要なのは国際協調ですが、現実は各国が同じ方向を向いているとは言い難い状況にあるようです。なぜ足並みはかくも揃わないものなのでしょうか。元国連紛争調停官で国際交渉人の島田久仁彦さんは今回、自身のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』でその理由を分析するとともに、私たちが戦いを強いられている「新型コロナ以外のもの」の正体を明かした上で、目に見えぬ相手に負けないため我々がすべきことを考察しています。

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新型コロナウイルス感染との戦いの裏で進むWorld War C

読者の皆さんもメディアやSNSなどを通じてWorld War Cという言葉に触れられたかと思います。現在、世界全体が“共通の敵”として戦う新型コロナウイルスへの戦いを、先の2つの世界大戦になぞらえてWorld War(against)CoronaとしてWorld War Cという表現が流行しています。多くの国際政治学者や評論家たちが得意気にそう叫んでいる場につい先日も遭遇してしまいましたが、果たしてこのWorld War Cは、今の世界の現状を適切に表しているでしょうか。

実際に南極大陸をのぞいては、世界すべての大陸でパンデミックとなった新型コロナウイルス(SARS-COV-2/COVID-19)。

すでに350万人を超える感染者数が報告され、死亡者数は、コロナウイルスへの感染が明らかになる前に生命を落とした人数を加えると、35万人に達しているとも言われています(WHOの死亡確認数は、5月7日現在、26万4,000人です)。

中国・湖北省武漢市周辺で大規模な感染が発表されてから、瞬く前にアジア全域、中東欧、欧州各国、アメリカへと感染の中心が広がり、日本でも確認されているだけでも1万5,000人が感染しています。

つまり世界的な蔓延(パンデミック)です。

感染拡大を防ぐために各国必死に今、戦っていることを考えると、確かに【コロナに対する世界大戦(World War Corona)】です。各国の医療チームと科学者がコロナの蔓延を抑える戦いをするのと並行して、その正体を確かめる戦いも一進一退の攻防を繰り返しています。ワクチンの開発も急ピッチで進められ、また既存薬を投与してコロナウイルスとの戦いへの効用を確かめる動きも進められています。どの国も薬の承認のスピードを格段に上げるという対応をしていることからも、非常に深刻な戦いに人類は挑んでいると言えます。

このような大きな戦いに対し、本来は、各国が手を取り合って、WHOなどを中心に、一致団結した戦いが必要かつ望ましいのですが、実状は残念ながらそうなってはいません。実状はその逆で、WHOはその中立性に疑念を投げかけられてその威厳を失っていますし、本来、手を取り合って対応すべき世界各国も、口では国際協調を謳いながらも、実際には「自国ファースト」の内向きの対応となっています。

ドイツの製薬会社がワクチン開発を行ったと聞けば、アメリカがその権利を買い取ろうとしたり、人工呼吸器を互いに奪い合うパワーゲームも繰り広げられたりしました。

国際協調とは程遠い状況です。

では、どうしてこのようなことになったのでしょうか。

新型コロナウイルス感染拡大が人智の幅をはるかに超えた脅威となったということもありますが、私はもう一つのWorld War C, World War on Communicationsがこのような残念な現状を作り出したのではないかと考えます。

言い換えれば、このWorld War on Communicationsは、World War on Informationとも呼ぶことが出来ると思いますが、今回はあえてWWCで統一します。

このWWCにはいくつか種類があります。

一つ目は、【誰がCOVID-19をばら撒いたか】という情報戦です。私も以前、このコーナーで【武漢市の生物兵器工場からの漏洩】説や、【アメリカが中国つぶしのためにばら撒いた】という陰謀説などにも触れましたが、“真実”は分からないままですが、このような情報戦が世界規模、特に米中の間で繰り広げられ、すでに両国の分離は修復不可能なレベルまで悪化していると言えます。

そこにフランスや英国、ドイツなども、トランプ大統領が呼ぶように【武漢ウイルス】とまではあからさまに非難してはいませんが、アメリカと同じく、今回のCOVID-19の世界的なパンデミックの元凶に、中国が何かしら絡んでいるのではないかとの強い疑いを持っていると発表しています。

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あえて繰り返しますが、この主張には今のところ明確な証拠(evidence)はありません。

もちろん、中国は正面から否定しますし、逆に【アメリカ軍が持ち込んだ生物兵器だ】とまで反論をしていますが、欧米との行き過ぎた対立を過熱させたくない中国当局(習近平国家主席周辺)は、その説を“一つの可能性”としてトーンダウンさせることで、対外関係と、習近平国家主席体制の初期対応の遅れを批判する国内情勢とのバランスを取ろうとしています。

この対外関係と国内政治の微妙なバランスを取らなくてはならないのは、中国を批判している欧米諸国も同じで、現政権に批判の矢が一気に向いてくることを避けたいがために、確証がないまま、COVID-19の起源地である中国を痛烈に批判していると言えます。

その批判の矛先は、アメリカが主張する中国による生物兵器流布論から、欧州各国が批判する情報隠蔽説と初期対応の遅れなど多岐にわたりますが、中国をスケープゴート化することで、何とか国内からの政権批判をかわそうとの狙いが透けて見えます。

そして中国とセットに批判の対象に加えられたのが、事務局長が中国賛美を繰り返して初期対応を“遅らせた”と批判されているWHO(世界保健機関)です。誰が何と言おうと、あのテドロス事務局長の中国擁護の発言は感心しませんが、パンデミック宣言の“遅れ”は、元国連人としていうならば、メディアで批判されているほど、国際政治に翻弄された意図的なタイミングではないと考えます。

今回、虚しくも各国から無視されましたが、専門家によると、今回の判断は2003年のSARSのパンデミック時の反省を込めて2005年に改訂された世界保健規則(すべての加盟国に対して法的拘束力を持つ内容で、米国を含む合意によって成立)のラインに沿って、科学的に(scientificに)判断された結果であったと言えます。

しかし、自らの失点を覆い隠さなければならないリーダーたちと各国政府にとっては、そんなことは華麗に無視して、WHOを“中国寄り”として批判することで、責任逃れをしたとも言えるでしょう。

これは典型的な政治による“情報工作”です。自らに都合のいい情報を意図的に流布することで、国や体制への支持拡大のための好感度アップに繋げる動きを取りますし、相手に都合の悪いことを意図的に選別して流布することで、相手の国・体制への批判拡大に繋げています。これを米中のみならず、世界的に相互に行っていますし、アメリカのトランプ大統領陣営と、バイデン前副大統領陣営の間の非難合戦を見ればわかるように、国内でも対抗勢力に対して日常的に使われています。そこにそれぞれをサポートするメディアやビジネスがくっついて、さらなる情報工作を増幅させ、いつの間にか国民・市民を欺いて、ある方向に導いていこうとしています。

その典型例の一つが、今回のCOVID-19の感染拡大を受けて、すでに“克服宣言”をした中国が世界に仕掛けている【コロナ支援】です。欧州各国からは、そのクオリティーの劣悪さ(本当かどうかは別として)を理由に批判されましたが、中国はマスクや医療物資、医療スタッフなどを世界各国に提供し、その“支援”と並行して、対象国への情報工作を行うことで(テレビコマーシャルやインフルエンサーマーケティングの手法を用いて)中国に対する好感度を巧みにコントロールしています。

例えば、EUの中でも比較的親中と言われたイタリアでも、かつては中国への好感度と言えば20%ほどだったのが、今回の“支援”とくっついてきた“情報工作”の結果、4月末の統計では7割近くが中国に対して好感を抱くという数値が出たそうです。これが、“EUから見放された”と感じているセルビア共和国をはじめとする中東欧諸国では、中国からの支援が迅速かつ大規模であったこともあり、中国への好感度がアップしているという結果が出ています。

これにはEU各国、特にフランスやドイツ、そしてすでにEUから離脱した英国でも警戒心が高まり、Before Coronaでは、中国に入れ込んでいたEUも、中国から距離を置き、アメリカの対中批判チームに乗り換えています。

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中国の情報工作と支援の作戦が特に功を奏しているのがアフリカ各国です。元々、Before Coronaから、一帯一路の政策によりアフリカ各国の中国への傾倒が懸念されていましたが、アフリカ各国でCOVID-19の感染拡大が手に負えない状態になっている今、中国への警戒心が国民の中にも根強い中でも、先進国からの支援が届かない最貧国にとっては、中国からのアプローチが唯一の選択肢となり、結果、中国の思惑に刈り取られて、中国の勢力圏に組み込まれて行っています。

アフリカ大陸といえば、かつてより【欧州の裏庭】的な位置付けで欧州各国(旧宗主国)の影響が非常に根強いことで知られますし、日本もTICADを通じてアフリカへの進出を進めようとしているわけですが、新型コロナウイルス感染拡大が一段落したときに、改めてアフリカを眺めた時、変わり果てた感情と風景に驚くことになるでしょう。

先進国内では中国への警戒心が意図的に高められる半面、途上国では中国への警戒心が巧みに削られて好感度アップが進む動きが加速することで、国際協調が必要な時に、世界は、アメリカ組と中国組に分けられて、逆向きのベクトルへと導かれ、結果、世界の分断が進むことになります。さて、日本はどちら組に属すのでしょうか(ちなみにこの情報工作、今回は中国を例にとっていますが、どの国も当然行っていますのでご注意を)。今後の日本の地政学上のポジションを見る際に、非常に重要な質問です。

二つ目のWorld War on Communications(WWC)は、私たちの思考を巧みに操る【情報汚染】という世界戦争です。恐らくこちらのほうが私たちにとって身近な恐怖・戦いかもしれません。

これは何か? 一言でいうと【デマ(有害情報)の拡散によるマインドコントロール】です。

ニュースにも嘲笑的に取り上げられましたが、トランプ大統領が「消毒液を注射すればいいのではないか」といったことがその一例です。すぐさまアメリカの医療界が大批判をして事態の収束を図りましたが(そしてトランプ大統領もすぐに言い訳で打ち消しにかかりましたが)、このデマを信じて本当に消毒液を注射するような人が出てきたら大変なことになったでしょう。

しかし、よく似たことがイランやアフリカ諸国では悲劇を生みました。「エチルアルコールを飲むとコロナウイルスが死滅するらしい」とのデマが拡散されたことで、乳幼児を含む多くの人たちが実際に飲んでしまい、コロナウイルスによる死者数よりも一時多くの死者を出してしまったそうです。

他には「10秒間息を止めることが出来たらコロナには感染していない証拠だ」というデマもあったそうですが、これについては皆さん、とんでもない内容であることはお分かりになりますよね?

しかし、欧州やラテンアメリカ諸国では結構若者の間で流布されて拡散されたデマのようで、一時期、外出禁止規制の下、その規制を破る若者が多発した一因のようだと、今、欧州各国の政府機関が検証しているとのことでした。

そして極めつけは「5Gの電波が細胞内の免疫機能を破壊し、コロナウイルスへの感染を早めてしまう」というデマです。一時期はBBCでも報道されるなど深刻な事態だったと言えますが(そして日本でも数週間前に少し話題になったのを覚えてらっしゃいますか?)、科学的な根拠が何も示されておらず、また各国政府も警告メッセージを慌てて出したにもかかわらず、英国などでは5G基地局への放火が相次いだそうです。そしてさらには、「5Gといえば、ファーウェイだ。あ、5Gは中国が持ち込んだ罠だ!!」という途方もない被害妄想が拡大してしまった国もあったそうです。

このように書き出してみると、これらの内容がいかに信憑性の低いものか分かるかと思いますが、人々の不安に乗じてSNSなどを通じてばら撒かれたデマは、人の口づてに広がり、一人一人が周囲にばら撒くことで「情報による人心のコントロール」を意味する【情報工作】が成功することになり、人々を誰かが望む方向に誘導することになります。

もちろん、日本政府も含め、各国政府もこのようなデマや情報工作の企みに対して常時目を光らせているのですが、あまりにもデマが迅速かつ大量に拡散されるため、情報の氾濫状態が起こり、ファクトチェックが行き届いていないのが現状です。

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ちなみに、皆さん、この自粛生活の中、日々、テレビのニュースやワイドショーで流される“情報”、どの程度、信頼していますか? 私は出される数字も含め全く信用していませんが、このメディアも、あまりにも情報が氾濫しており、かつ現代の情報社会では、情報発信の即時性が求められるあまり、ファクトチェックが十分に行われないまま、“ニュース”や“専門家の意見”として流されがちだと危惧しています。そういう意味では、私はメディアを批判するつもりはありませんが、メディアサイドも、伝える内容が人々の思考にどれほどの影響を与えうるかを自覚して、情報の垂れ流しではなく、即時性を犠牲にしても、しっかり責任をもってチェックいただければと願います。

話はそれますが、昨今の日韓関係の悪化も、対中感情の悪化も、「XX人といえば、こういう特徴」というステレオタイプ化も、実は誰かが仕組んだ情報工作だとしたら、どうお感じになるでしょうか。

今回の新型コロナウイルス感染拡大に際して、日々私たちに提供される様々な情報も、残念ながら誰かの手によって加工された内容なのかもしれません。そして残念ながら「実際に何が起きているのか」という【真実】は誰も知らないのだと感じています。

私たちは今、新型コロナウイルスという目に見えない敵と戦いつつ、同時に情報工作の波とも戦っていると言えるでしょう。言い換えれば、2つのWWCと同時並行で戦っています。この戦いに負けないためには、氾濫する情報社会の中で「何が正しいのか、適切なのか」ということをしっかりと自分で考えて判断する“軸”を持つことだと考えます。

新型コロナウイルスに“勝利”した暁に、私たちはどのような世界を見ることになるのか。非常に心配であると同時に、私は非常に楽しみでもあります。

皆さんはどうお考えになるでしょうか?

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image by: Shutterstock.com

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世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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