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コロナ禍に米ドルと覇権争いが激化?中国デジタル人民元の現実味

新型コロナウイルスの対応をめぐり、米中の対立が激しさを増しています。賠償金の請求をチラつかせたり、サイバー攻撃を受けていると公表したり、もはや過去最悪の関係に陥りつつある米中ですが、実は知られざる部分でも覇権争いをしていたようです。その実情を明かすのは、株式アナリストとして個別銘柄・市況の分析を行う馬渕磨理子さん。中国が仕掛ける、したたかで壮大な戦略について詳しく解説しています。

プロフィール:馬渕 磨理子(まぶち・まりこ)
京都大学公共政策大学院、修士過程を修了。フィスコ企業リサーチレポーターとして、個別銘柄の分析を行う。認定テクニカルアナリスト(CMTA®)。全国各地で登壇、日経CNBC出演、プレジデント、SPA!など多数メディア掲載の実績を持つ。また、ベンチャー企業でマーケティング・未上場企業のアナリスト業務を担当するパラレルキャリア。大学時代は国際政治学を専攻し、ミス同志社を受賞。
Twitter https://twitter.com/marikomabuchi

中国の「デジタル人民元」ローンチ間近?

新型コロナウイルスにより、世界中が疲弊しています。人命だけでなく経済にも大きなダメージを与えており、「戦後最大の不況」に突入することになりそうです。しかし、コロナ禍の中でも、中国は以前から計画していたデジタル人民元の計画を虎視眈々と進めています。中国人民銀行は、デジタル通貨の研究を2014年から開始し、実用化に向けてデジタル通貨研究所を2017年に立ち上げ、2018年にはデジタル人民元の体系的な開発を始めているのです。中国は一体どこを目指し、そこにはどんな狙いがあるのでしょうか?

新型コロナウイルスで高まる中国の存在感

中国発とされている新型コロナウイルスは全世界に様々な影響を与えています。しかし、中国は、“共産主義国らしい”と言われる強硬なロックダウン(都市封鎖)を実行し、感染拡大を抑え込んだとアピール。いち早く経済活動を再開しています。

感染症の初期の流行を隠蔽していたことに批判が集まっていますが、中国は新型コロナウイルスで苦しむ国々に、“マスク外交”を展開。マスクや人工呼吸器、大勢の医師や専門家を派遣し、中国がまるで信頼できるパートナーであるかのような印象を与えています。しかし、その姿勢はコロナ以前からあったもので、国力を強めて米国の覇権を奪い、中国主導の国際秩序を築く『100年のマラソン』の延長線上に過ぎないのです。

中国共産党革命100周年に当たる2049年までに、世界帝国として復興を果たし、模倣経済から脱却して、「一帯一路」の拡大、中国における共産党独裁体制の維持、経済世界一を達成することで、過去100年に及ぶ屈辱に復讐を果たす狙いがあります。

image by : Alessia Pierdomenico / shutterstock

中国が推し進める「一帯一路」とは何か

中国が進める巨大な経済圏構想。中国とヨーロッパの間では、はるか昔から、貿易が盛んに行われ、中国の絹がヨーロッパ大陸にたくさん運ばれたことから「シルクロード」と呼ばれていました。一帯一路はかつてのシルクロードの拡大版・21世紀版の構想になります。

「一帯」とは、中国西部から中央アジアを経由してヨーロッパへと続く「シルクロード経済ベルト」で、「一路」とは中国沿岸部から東南アジア、スリランカ、アラビア半島の沿岸部、アフリカ東岸を結んだ地域を指した、「21世紀海上シルクロード」を意味します。

そして、これらの地域に道路や港湾、発電所、パイプライン、通信設備などインフラ投資を積極的に行っています。これらの地域一帯に、デジタル人民元が決済通貨として定着していけば、ドル基軸に代わる中国経済圏の確立の可能性があるのです。

なぜデジタル人民元なのか

デジタル人民元の最大の狙いは、ドルの通貨覇権、つまり、基軸通貨としてのドルに対抗することです。『地政学とは何か』の著者、船橋洋一氏によると、基軸通貨ドルについてのパワーについて、フィスコの特別インタビューで次のように語っています。

「国際金融の決済システム『SWIFT』(国際銀行間通信協会)は、アメリカにとって最後の砦」と述べ、「2016年時点で、200以上の国・地域、約1万1000の金融機関がドル取引にこの決済システムを使うが、すべての送金データをニューヨークで把握することができる。もし、SWIFTから除外されれば、国際取引ができなくなり、除外された銀行はあっという間につぶれる」

そして、このドル決済のシステムのパワーは、たとえ、基軸通貨の国の力が弱まっても、ネットワーク効果で基軸通貨の強みは残るのです。

人民元そのものは、基軸通貨の地位とほど遠い状態にあります。リーマン・ショック後、中国が人民元の国際化を視野に、金融自由化などの改革を徐々に進めてきました。しかし、変動相場制を取っておらず、自由に売買できない点や、2015~2016年に株価が暴落した時には、人民元の下落と資本の流出が止まらなくなるなど、クロスボーダーの資本取引を大幅に規制せざるをえなくなりました。

このような経験から、世界が基軸通貨とし人民元を使用することはないでしょう。そこで、中国人民銀行は、資産の裏打ちがあるステーブルコインとして、デジタル人民元の発行をし、ドル覇権の地位を逆転したい思いがあるのです。

中国では、アリペイやウィーチャットペイなどの浸透率が高く、デジタル人民元が発行されれば、一気に進みやすいでしょう。さらに、東南アジアや一帯一路の地域でもデジタル人民元が使われる可能性が高いといえそうです。真の意味で、『100年のマラソン』を完走し、世界帝国として復興を果たすためにも、デジタル人民元は欠かせない構想なのです。

image by : shutterstock

中国デジタル人民元の進捗状況

中国人民銀行は、デジタル通貨の研究を開始したのが2014年。その3年後には、実用化に向けたデジタル通貨研究所を立ち上げ、2018年からデジタル人民元の体系的な開発を始めています。

中国のデジタル通貨は現在、深セン、西安、成都、蘇州という4つの地域でベータ版の試験運用がされています。蘇州では5月に公務員が受け取る手当の一部(交通費手当)がデジタル人民元で支給されるという報道もあるようです。

また、中国のマクドナルドやスターバックス、サブウェイなど19の小売企業がデジタル人民元の試運転対象店舗として招待されています。デジタル人民元は中国の中央銀行によって管理され、選ばれた商業銀行を通じて発行される見込みで、アリペイやウィーチャットペイなど、既に浸透している金融アプリを通じて中国国民が利用できるようになる予定です。

中国はアメリカとの覇権をめぐり、AIと5Gで世界をリードすることを目指しており、デジタル人民元の試験運転が完了すれば、中央銀行発行デジタル通貨(CBDC)を展開する最初の経済大国になる可能性があります。

image by : Ascannio / shutterstock

フェイスブックの「リブラ」潰し

2019年6月にフェイスブックが仮想通貨「リブラ」の計画を発表しました。世界に20億人超の利用者がいる米フェイスブックが主導する仮想通貨だけに、「リブラが法定通貨を乗っ取るのでは」との懸念が浮上。各国の中央中銀が対抗策として、自前のデジタル通貨の発行を視野に入れ始めました。

結局、2020年前半に発行予定であったフェイスブックのリブラの構想は頓挫し、各国当局の規制下に置かれた「普通の決済サービス」になるようです。中国のデジタル人民元が普及するならば、フェイスブックのリブラの方が良かったのではないか…と思うかもしれませんが、リブラは既存の既得権益を脅かすと捉えられ、各国の中央銀行に“封じ込め”された格好になってしまいました。

今後も、中国と米国の関係は注目されます。中国がデジタル通貨発行に前向きなのは、国内で監視を強めたり国外への資金逃避を防いだりする道具になり、上記で述べたように、長期的には「ドル覇権」からの脱却という大きな目的があるからです。一方、ドル基軸の国際通貨システムを主導する米国は、現状のドルの使用にこだわり、デジタル中銀通貨に積極的ではありません。この辺りの動きに、懸念を感じてしまうのは私だけではないでしょう。

新型コロナウイルスの発生源をめぐって米中は再び対立を強めており、今回のショックで世界が負った傷はあまりにも深く、再び米中関係が冬の時代に入ることは、容易に想像がつくでしょう。その中で、アメリカは新型コロナウイルスの感染拡大で甚大な損害を受けたとして、中国に損害賠償を求め、世界保健機関(WHO)への非難から資金拠出の停止を述べるなど、新型コロナをめぐり翻弄されている感を強く受けます。

アメリカが感染症対策に追われているなかで、中国は早期に経済を再開させ、着実にデジタル人民元の計画を進めています。この辺りの事実を認識し、危機感をいま一度、再認識するべきではないでしょうか。

image by: shutterstock.com

馬渕 磨理子(まぶち・まりこ)

京都大学公共政策大学院、修士過程を修了。アベノミクスが立ち上がった時期に法人でトレーダーの経験を経て、フィスコ企業リサーチレポーターとして、個別銘柄の分析を行う。認定テクニカルアナリスト(CMTA®)。全国各地で登壇、日経CNBC出演、プレジデント、SPA!など多数メディア掲載の実績を持つ。また、ベンチャー企業でマーケティング・未上場企業のアナリスト業務を担当する、パラレルキャリア。大学時代は、国際政治学を専攻し、ミス同志社を受賞している。
Twitter https://twitter.com/marikomabuchi

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