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東京新聞が伝えたベトナム「死者ゼロ」は中国への不信感の表れか

全都道府県で緊急事態宣言が解除され、第2波の心配はあるものの日本国内の感染状況は一息ついた感があります。ジャーナリストの内田誠さんが発行するメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』も今回は、海外の情報を新聞各紙からピックアップ。朝日から武漢ウイルス研究所の研究者について、毎日から武漢市全市民のPCR検査について、東京からは感染者が少なく死者ゼロのベトナムの話題を解説します。なお、読売からは2次補正予算の論調を紹介し、1次補正の組み替えを忘れたかのような記述に疑問を投げかけています。

新聞各紙が報じた「新型コロナ」と「武漢」「ベトナム」

ラインナップ

◆1面トップの見出しから……。
《朝日》…9月入学 見送りで調整
《読売》…2次補正 32兆円決定
《毎日》…9月入学見送りへ
《東京》…運営団体 実態不透明

◆解説面の見出しから……。
《朝日》…対コロナ 読み違え後手
《読売》…巨額補正 長期戦備え
《毎日》…2次補正 官邸言いなり
《東京》…コロナ対策 問われる実効性

プロフィール

■武漢ウイルス研究所とは■《朝日》
■第2次補正の意味■《読売》
■武漢で全市民検査■《毎日》
■ベトナムの知恵■《東京》

武漢ウイルス研究所とは

【朝日】は5面に、昨日、《読売》が伝え、当メルマガでも紹介したウイルス学の中国人研究者、石正麗氏についての記事。典型的な「後追い」だが、重要な内容が付け加えられているので、当欄で敢えて紹介する。見出しから。

(5面)
コロナ流出説 現場研究者、否定
「未知のものだった」 米中なお情報戦
武漢研究所 米も協力

武漢の研究所から新型コロナウイルスが拡散したとする米国に対し、「真相を知る立場にあると見られていた同研究所研究員」である石正麗氏が中国国営メディアでその可能性を否定したという記事。

●uttiiの眼

記事には、《読売》と同じ、マスク姿の石氏の写真とともに、26日に《朝日》の記者が撮影した「中国科学院武漢ウイルス研究所」の外観を撮影した写真も添えられている。

注目すべき内容はいくつかある。海外で「武漢研究所から流出」という説が流布され始めた頃、石氏はSNSで新型ウイルスは自然由来だと主張。その後、米中対立が激化するなか、発信の機会を減らしていたという。今回の発信は、「国際世論を取り込もうとする情報戦の側面がありそうだ」と《朝日》は分析している。平たく言えば、石氏の発言は中国政府の「意思」ということだろう。

もう1点。見出しにもあるとおり、この研究所は「米も協力」していたもので、「かつては国際協調の舞台」だったという。もともと、SARSの再発防止を大きな任務としていて、「15年にはフランスの協力で実験施設が造られた」ものであり、「国際基準のバイオセーフティーレベルの最高水準を満たし、有効な治療薬や予防法がないウイルスなども扱える中国初の施設だった」という。

ところが、2018年、研究所を視察した米外交官が本国に送ったとされる外交電報を今年の4月14日付け米ワシントン・ポスト紙が暴露(リーク?)、外交官は「研究所ではコウモリに寄生するコロナウイルスの研究をしているが、訓練を受けた技術者が深刻に不足している」との懸念を表明していたという。

この電文の内容も米政府の「意思」ということであれば、相変わらず、真相は闇の中ということになってしまうが、「公文書改ざんOKの国」である日本の国民としては、言葉に詰まってしまうところがある。日本と違って電文の内容には信がおけるというのであれば、この電文は精査しなければならないだろう。

今後、真相に近い情報が出てきた時に、今日の《朝日》に掲載されている情報のどこかに、新たに大きな意味を持ち始める部分が出てくるのかもしれない。

第2次補正の意味

【読売】は3面の社説。タイトルを以下に。

(3面)
2次補正決定
動き出した経済を支えたい

政府が追加の経済対策を盛り込んだ第2次補正を閣議決定したことで、「安全網を強化しつつ、経済活動の正常化に向けた布石も打たねばならない」とする。

《読売》によれば、「1次補正は、新型コロナウイルスの感染拡大で苦境に陥った中小企業や家計の支援に重点を置いたもの」であり、第2次補正の今回も「これまでの対策でカバーできなかった人や企業の救済に力を入れた」とし、「困った時の助けを手厚くするのは、妥当である」という。

2次補正では既存の救済制度の欠点を補うだけでなく、人々が安心して外出し、消費できる環境作りとして「医療体制の強化に自治体が使える交付金を、1次補正から大幅に積み増した」とする。さらに、流行の第2波に備え、「必要に応じて追加策を検討すべきだ」と。

●uttiiの眼

《読売》も、「対応の遅さ」は指摘している。加えて「制度がさらに複雑になった」ことの問題も理解しているようだ。しかし、1次補正でもしっかり取り組んでいた「苦境に陥った中小企業や家計の支援」を2次補正ではさらに推し進めて…というような単線的な理解はどうやったらできるのだろう。1次補正には、行政による初期的な対応としては不要と思われる「需要喚起策」に重きが置かれ、対応の遅さを含め、まさに「苦境に陥った中小企業や家計の支援」が不十分だったことの反省から、必要になったのが2次補正ということではなかったのか。

1次補正の当初案が与党内からも厳しい批判を浴び、いったん閣議決定されたものを組み替えるという異例の措置を取らざるを得なかったことは忘れてはなるまい。批判されるまで、内閣は中小企業や個人を本気で救済しようとはしていなかったではないか。

武漢で全市民検査

【毎日】は7面に、中国・武漢の検査態勢についての記事。見出しから。

(7面)
武漢 新たに200人感染
全市民検査ほぼ終了

今月中旬から全市民を対象に実施されていたPCR検査がおおむね終了したという。直近に検査を済ませていた人や乳児を除く900万人以上から検体を採取。武漢では1日に100万件の検査が可能で、24日までに結果が出た650万人中、無症状の感染者が218人見つかったという。検査費用10億元(約150億円)は武漢市などが負担。

全国規模の同様の検査をしても正確な感染者数が把握できるとは限らないとして、中国疾病予防コントロールセンターの専門家は否定しているが、70日以上の都市封鎖を経験した武漢では、市民の安心などを考慮して実施したということらしい。

●uttiiの眼

実際に1日100万件のPCR検査が可能なのであれば、都市によってはこのような検査態勢を敷くことには意味がありそうだ。勿論、感染は、検査後、結果が出るまでの間にも起こりうるから、全市民の検査が終了したとしても、完全とは言えないだろうが。記事によれば、地元誌は「全市民検査によって安心して出歩けるようになった」という市民の声を伝えているという。

ベトナムの知恵

【東京】は4面にベトナムについての記事。見出しから。

(4面)
ベトナム「死者ゼロ」経済再開
コロナ抑止、一党支配も強化
「個人の情報発信取り締まる」

新型コロナウイルスの抑止に成功し、経済や社会活動の回復を急ぐベトナムでは、人口1億人を超えるが、公式発表では死者ゼロが続いている。入国制限や外出規制、感染者の隔離が奏功した形だが、一方で共産党の一党支配が強化され、監視と言論統制がさらに進む恐れが指摘されているという。

2月初め、中国との旅客便を停止。村を丸ごと閉鎖するなど隔離にも力を入れたという。感染者数は327人のみ。8割以上が回復済みだという。

●uttiiの眼

迅速な体制が採れた理由として書かれていることが興味深い。「不十分な医療設備への危機感や南シナ海の領有権で対立する中国への不信感」を専門家が挙げているという。

「中国への不信感」は、南シナ海の領有権云々の前に、直接攻め込まれた経験(79年の中越戦争)があり、おそらくは強烈な「不信感」の根になっていることだろう。もう1つの「不十分な医療設備への危機感」というのが本当であれば、まさしく「知彼知己、百戰不殆」で、「彼」は不可知の新型ウイルスだったから「知彼」は困難だったとしても、「知己」、すなわち己(おのれ)の弱点をよく理解していて、それをカバーするための迅速な対応はとることができたことになる。

米国防総省の研究機関であるアジア太平洋安全保障研究センター(ホノルル)の教授によれば、「権威主義の国で、担当副首相らが指導力を発揮し、強硬策で感染を防ぐ戦略を追求した」として、対策に関する政府の情報発信には普段にない透明性があり、国民の協力を得たと評価しているという。

ただ、その「透明性」はコロナ対策限定のようで、言論統制がコロナ禍の間にも強まっていたようだ。昨年、ベトナムでは政府に批判的な情報の削除をインターネット企業に要求できるサイバーセキュリティー法が施行され、この間もフェイスブックに圧力を掛けていた疑いが出ているという。

ベトナム政府が経済活動の再開を急ぐのは、来年1月の共産党大会を前に、体制の安定を図りたいとの思惑があるのではないかというのが記者の指摘。思うに、ウイルスに国境も県境もない以上、どこでも対策を分散的に行いきることはできない。どうしても「集中」の契機が必要になるわけだが、その際に、「集中」を原理にせず、また永続的にせず、時期が来れば「分散」に必ず席を譲り、感染症対策で指導力を発揮した人物も必ず退く…というような原則を立てておく必要があるのだろう。ドイツのメルケル首相の演説などを見れば明らかだろう。

image by: shutterstock.com

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ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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