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防衛省も財務省も地元も不満。陸上イージス計画停止の本当の理由

防衛大臣は6月15日、ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」の配備計画を停止すると発表しました。突然のこの大ニュースを新聞各紙がどう伝えたか、ジャーナリストの内田誠さんが自身のメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』で解説します。内田さんは、各紙ともに河野大臣が説明したブースター制御問題に留まらないいくつもの理由を挙げていると指摘。毎日が論じた「白紙撤回による安倍政権の一層の求心力低下」も「間違いない」と支持しています。

イージス・アショア配備計画停止という大ニュースを各紙はどう報じ分けたか?

ラインナップ

◆1面トップの見出しから……。
《朝日》…陸上イージス 計画停止
《読売》…陸上イージス「困難」
《毎日》…陸上イージス計画停止
《東京》…地上イージス計画停止

◆解説面の見出しから……。
《朝日》…陸上イージス 急転直下
《読売》…装置改修機に見直し
《毎日》…「盾」迷走の末
《東京》…安全面・高コストで断念

プロフィール

河野防衛相は、陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備計画を停止すると表明。ミサイルを打ち上げた際に切り離す推進装置であるブースターが落下する際の安全性を担保するには、なお大幅な改修が必要になることが判明したためとして。

■「導入ありき」への反発■《朝日》
■費用対効果■《読売》
■事実上の白紙撤回■《毎日》
■八方ふさがりだった■《東京》

「導入ありき」への反発

【朝日】は1面トップと2面の解説記事「時時刻刻」。見出しから。

(1面)
陸上イージス 計画停止
安全担保に費用・時間
河野防衛相「合理的でない」
秋田・山口に配備予定

(2面)
陸上イージス 急転直下
ブースター制御 理由に
河野氏「別のやり方を」
「導入ありき」当初から懸念

ブースターの落下云々は飽くまで口実であり、本当の理由は別にあるという見方。河野氏は元行政改革担当相でもあり、今年に入ってから有償軍事援助方式による米国からの「防衛装備品」購入の見直しに言及することが多くなり、イージス・アショア、グローバルホークをはじめ、30を超える項目について、見直した場合の選択肢を検討するよう指示していたという。その一環としての「陸上イージス計画停止」という理解。

イージス・アショアの場合、北朝鮮のミサイル開発が進み、米国からの武器購入圧力の増大などから安倍政権が異例の「導入ありき」で進めてきたものの、「配備する地元の反発や費用の高騰などから停止に追い込まれた」もの。

政権内には「河野氏のパフォーマンス」だとして、「日米関係を重視する関係から実行できない」との見方もあり、この決断の「見直し」を迫られる可能性もあるとしている。

●uttiiの眼

《朝日》はイージス・アショアの計画が「トップダウン」で決められ、「導入ありき」で進められたと盛んに強調している。明記はしていないが、この論調はおそらく、イージス・アショア導入に対する防衛省内の反発、あるいはもしかしたら財務省内の異論を反映していたのかもしれない。

重ねて、これも《朝日》は明記していないことだが、イージス・アショア導入が「日本の防衛」目的ではなく、ハワイとグアムの防衛のためではないかという、広く行き渡った疑念が作用した可能性があるかもしれない。

費用対効果

【読売】は1面トップと3面の解説記事「スキャナー」。見出しから。

(1面)
陸上イージス「困難」
山口・秋田 配備停止
政府発表 技術・コスト問題

(3面)
装置改修機に見直し
陸上イージス
演習場外落下の恐れ
対米関係影響の見方も
海自艦に負担 懸念

《読売》の捉え方は、「ブースター落下の問題に対応する改修の必要性が表面化したのを機に、以前から難航していた計画をリセットする狙いがあるとみられる」というもの。ブースター落下の問題を重視し、やや「真に受ける」形になっている。ブースター問題が配備計画見直しの「最大の原因」とはするものの、「配備計画は、防衛省の不手際が次々と発覚して地元に不信感が広がり、ブースターの問題が発覚する前から立ち往生していたのが実情だ」とも言っている。

防衛省の「不手際」とは、グーグルアースを使ったために仰角を過大に見積もるなど調査データに初歩的な誤りを生じたこと、及び説明会中に同省職員が居眠りをしたことを指している。

《読売》は、配備停止の否定的な影響として2点指摘する。1つは、日米関係の問題で、実際にイージス・アショアの計画を見直す場合には、「米国から別の装備品を購入する案が検討されている」という。もう1点は、海自のイージス艦に対する負担が増え、南西地域に戦力を振り向けることが困難となり、「中国の進出に対抗できなくなりかねない」(防衛省幹部)というもの。

●uttiiの眼

計画見直しの「要因」としてさらに挙げられているのは、「費用対効果」の問題。2基で計7千億円という金額の多さだけではない。そもそも北朝鮮や中国が変則軌道で飛来する新型ミサイルを開発していて、イージス・アショアでは対処ができないとの声も出ているというから、何をか言わんや。

世界最大の武器商人と化したトランプ米政権から、ポンコツのミサイルシステムを7千億円で買うほど馬鹿馬鹿しいことはない。しかも、イージス・アショアを買わない分、ほかの装備品を買って辻褄を合わせようとしているとは驚いた。安倍氏はまるで「買い物ゲーム」をやらされているかのようではないか。

事実上の白紙撤回

【毎日】は1面トップと3面の解説記事「クローズアップ」。見出しから。

(1面)
陸上イージス計画停止
事実上の白紙撤回
技術的不備判明

(3面)
「盾」迷走の末
陸上イージス計画停止
「導入主導」官邸痛手
秋田、山口「説明を」

《毎日》は、ブースターを安全な場所に落とせるようにソフトウェアだけでなくハードウェアも改修することになれば10年以上の年月と数千億円の費用が必要になるとして、河野防衛相が計画は続行できないと表明したことを、「事実上の白紙撤回」だと言い切っている。

この「撤回」は、「安倍晋三首相が繰り返し必要性を主張してきたイージス・アショアの配備停止で政権の一層の求心力低下は避けられない状況になり、日本の安全保障の根幹を揺るがす事態となった」とする。

政府は既に取得経費などを合計1787億円盛り込んでいて、今後米側への支払い額などについて交渉しなければならないことに。「米側と膨大な違約金交渉になる」との懸念が広がっていると。

配備が予定されていた秋田と山口両県では、関係者の間に突然の発表に対する驚きの声が上がっており、「キチンとした説明が欲しい」と言っているという。

●uttiiの眼

確かに、安倍氏が「どうしても必要だ」と繰り返してきたシステムに根本的な欠陥が見つかり、「導入を進めた安倍政権の足もとは揺らいでいる」ことは間違いないだろう。配備予定地だった両県としては、県や自治体当局も、また近隣の住民も、これが本当に「白紙撤回」なのかどうか、正確なところを知りたいというところだろう。

八方ふさがりだった

【東京】は1面トップと2面の解説記事「核心」。見出しから。

(1面)
地上イージス計画停止
技術的問題 改善に時間
米兵器爆買い つまずく

(2面)
安全面・高コストで断念
地上イージス計画
地元の理解も得られず
対北ミサイル防衛 有効性にも疑問

《東京》も「事実上の撤回」と捉えている。「地元では安全性への理解が得られず、北朝鮮のミサイル開発が進み有効性にも疑問符が付いていた」として、「八方ふさがりだった」とまで言い切っている。

自民党閣僚経験者が「けちがつき過ぎた」と言うのは、「防衛省への信頼や兵器の安全性」に対してであり、それは「強力レーダーの健康影響」、「調査方法の適切さ」、「職員の居眠り」で、住民の怒りを買ったことによる。また、イージス導入に必要な予算が増大すれば、他の防衛予算を削ることになり、防衛省内部からも導入を疑問視する声が上がっていたという。

また有効性についても懐疑的な意見が出ていて、ロシア製の高性能弾道ミサイル「イスカンデル」に似たミサイルの開発が進められていて、低い高度で入ってくるミサイルはイージスでは探知できないという。

●uttiiの眼

1面記事の末尾に記者による「解説」が付いていて、今回の事態は、「地元住民の理解や有用性、安全性の調査を後回しにして配備計画を進めた結果、事実上の撤回に追い込まれた」ものと評している。またイージス・アショアの計画は、「自衛隊が米軍と一体化してハワイとグアムの米軍基地を防護する狙いもあると疑念を持たれていた」とも指摘。

このイージス・アショアの計画に加え、ステルス戦闘機F35やオスプレイの購入が急増、「後年度負担」(兵器ローン)の残高は5兆4310億円にもなっているといい、これらの「費用対効果」の検証も不可欠としている。この問題を巡る要素に過不足なく言及した、分かりやすい解説になっている。

image by:Raihana Asral / Shutterstock.com

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ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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