軍事アナリストが解説。敵基地攻撃能力保有議論が非現実的な理由

 

弾道ミサイルは、一定の数量を備え、適切なタイミングで発射すれば、少なくとも相撃ちに持ち込むことはできます。しかし、目標となる移動式発射装置や施設、重要人物などについて、あらかじめ把握しておかなければなりません。これは巡航ミサイルや空爆についても同じです。

そのためには、特殊部隊を事前に潜入させておくことが必要です。かりに10地域にストライク・パッケージを投入するとしたら、1回の作戦に必要な特殊部隊は、少なくとも800人以上でしょう。自衛隊の特殊作戦能力を総動員しても1000人規模。それも、ほとんどが戦死を覚悟しておかなければなりません。

日本が北朝鮮の弾道ミサイル基地などを叩いただけでは話は終わりません。北朝鮮は報復に出るに決まっています。撃ち漏らした弾道ミサイルによる反撃はもとより、日本国内に潜入している工作員や特殊部隊による破壊活動が始まるでしょう。

こんな状況にあって、韓国や在日米軍基地が無関係でいられるでしょうか。日本が敵基地攻撃能力という「戦争の引き金」を引けば、第2次朝鮮戦争が勃発する可能性は極めて高いのです。その点を見ただけでも、米国と韓国が無条件で日本に「戦争の引き金」を持たせることは考えられません。

可能性があるとすれば、韓国が北朝鮮の重要目標に向けて照準を合わせているキル・チェーンと呼ばれる短距離弾道ミサイルと巡航ミサイルによる敵基地攻撃能力と同様の能力です。キル・チェーンのミサイル数は約1000発。中には北朝鮮が発射を繰り返しているロシア製のイスカンデルの北朝鮮モデルとそっくりの韓国版イスカンデルも配備されています。そのキル・チェーンは、国連軍と米韓連合軍司令官を兼ねる在韓米軍司令官の指揮下にあります。韓国が勝手に発射することはないのです。

日本が日米同盟を選択しているかぎり、敵基地攻撃能力は米国との調整のもとに整備され、その運用についても米国側の了解が得られる形でなければなりません。繰り返し頭をもたげてくる日本の敵基地攻撃論は、以上を踏まえて整理する必要があるのです。(小川和久)

image by:w_p_o / Shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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