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マスコミがまったく伝えない「リニア新幹線」人命に関わる大問題

静岡県とJR東海との「対立」により、2027年の開業延期が避けられない状況となっているリニア中央新幹線。この件を巡っては大井川の水問題ばかりが報道されていますが、マスコミがまったくと言っていいほど触れない、もうひとつの人命に関わる大きな問題が存在するようです。今回のメルマガ『NEWSを疑え!』では軍事アナリストで静岡県の危機管理にも関わられている小川和久さんが、その問題の詳細を記すとともに、突っ込んだ取材や調査報道を行わないマスコミを強く批判しています。

もうひとつのリニア新幹線問題

もう7月になりました。コロナの来襲の渦中で、瞬く間に時間が過ぎてしまいました。早いものです。

そんな中で、私が危機管理に関わっている静岡県をめぐって、気になるニュースが飛び交いました。JR東海が進めているリニア中央新幹線建設が、静岡県側の同意が得られずに先に進まなくなっている問題です。

6月末のニュースは、次のように伝えました。

リニア中央新幹線の静岡県内の工事をめぐり、JR東海はトップ会談後の川勝知事の発言について真意を問う文書を送りました。回答期限を7月3日としており、準備工事の6月中の着工を断念した形です。

 

6月26日のトップ会談で静岡県の川勝知事はJR東海の金子社長に、工事の着工には県の条例に基づく環境保全の協定が必要とする一方で、会談後「工事は認められない」との従来どおりの考えを示していました。

 

このためJR東海は29日、静岡県に対し「工事を進めることが困難であることと、その理由について、直接書面で教えて欲しい」との文書を送り、7月3日までの回答を求めています。

 

JR東海は回答を踏まえて対応を整理するとしていて、2027年開業の事実上の期限としていた6月中の準備工事の着手を断念した形です。

 

(「トップ会談発言の真意は?JR東海が静岡県に文書を送付 7/3までの回答求める 6月中のリニア着工は断念へ」6月30日付東海テレビ)

川勝平太知事は29日の県議会6月定例会本会議で、リニア中央新幹線工事に伴う大井川の流量減少問題を巡り、JR東海の金子慎社長と初めて行った26日のトップ会談について「前につないだ」と述べ、2回目のトップ会談の実施に意欲を示した。公明党県議団の蓮池章平氏(沼津市)の代表質問に答えた。

 

26日のトップ会談では、JR側が2027年リニア開業を左右するとしているヤード(作業基地)工事について、金子社長が3カ所のヤード全てに同意を要求する姿勢を示した。これに対し、川勝知事は流域市町の意向を踏まえて同意せず、物別れに終わった。

 

川勝知事は答弁で「思いは伝わった。(金子社長は)いい人で話が通じる人。持ってきた案件がヤード工事の可否だけだったので、もう少し柔軟な対応が必要だと踏まえれば、次回、会談しても実りあるものにつながる」との見方を示し、水問題を解決する具体策の提示を求めた。

 

ヤード工事を行う際に必要となる可能性のある、県条例に基づく環境保全の協定については「基本的なスタンスを理解していただくことが次のステップになる」と指摘した。

 

ただ「リニアは国策」と指摘する一方、南アルプスのユネスコエコパークや大井川流域の農業、生活用水、発電事業も国策だとし、国土交通省鉄道局とJRに対し「リニアだけを国策とするのは思い上がりだ」と非難。流域住民の思いについても言及し「何かあった時の補償がほしいということではない。影響が出た後に何かをするのでなく、影響が出ないようにすることだ」と強調した。

 

(「静岡知事、次回トップ会談に意欲 JR東海に柔軟対応注文 リニア大井川水問題」6月30日付静岡新聞)

私は二つの報道に接して、マスコミの取材力の低下についてますます絶望的な思いを抱かざるを得ませんでした。

確かに、川勝知事と金子社長のトップ会談のテーマは大井川水系の水の問題です。それをストレートニュースで報道するのは、当然のことです。

しかし、水と同様に人命に関わる問題が指摘され、記者会見で知事から資料まで配付されているのに、それ以降、突っ込んだ取材や調査報道が行われた形跡が見られないのです。

昨年10月11日、川勝知事は定例記者会見でJR東海が静岡県内2カ所に設けた非常口について、リニア中央新幹線が地震などで緊急停車した場合、人命に関わる危険性があるとした西恭之氏(静岡県立大学特任助教)のメモを提示し、マスコミなどに配付しました。

緊急停車したリニア中央新幹線から3キロの斜坑を徒歩で上り、非常口までたどり着いたとしても、非常口の標高は千石1,330メートル、西俣1,530メートル。南海トラフ地震などの場合、既に静岡県内では県民、来訪者、東海道新幹線乗客等の救助に手一杯なことは確実で、リニア中央新幹線乗客の保護と下山を優先することはできません。そこに冬場という条件が重なると、東京や名古屋の服装のままの乗客が低体温症で死亡する恐れがあります。しかも、非常口から徒歩で10~15キロ行かないと建物もないし、最寄りの集落は30~40キロも離れているというのですから、何を考えているのかと言いたい。

このような緊急時の避難については、スイスのゴッタルドベーストンネル(57キロ)や青函トンネルではきちんと対応策がとられています。

そうした前例を調査していないことは、リニア新幹線の非常口の位置、設計などを見れば一目瞭然です。

大井川水系の問題が決着しても、着工時には非常口の問題を解決してもらわなければなりません。いまからでも遅くないから、マスコミは納得いく回答が得られるまで報道し続けるべきだと思います。人命が失われてからでは遅いのです。(小川和久)

image by: YMZK-Photo / Shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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