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独メルケル首相が米トランプに見切り。日本がとるべき道は何か?

新型コロナ対策の失敗で支持率を落とし、国内に引きこもるトランプ大統領。香港への国家安全維持法の適用で自由主義諸国からの反発を受ける中国。こうした状況から、米中とは別の「民主主義を守る中軸勢力」を築くべく、ドイツのメルケル首相が動き始めました。日本国際戦略問題研究所長の津田慶治さんは、メルマガ『国際戦略コラム有料版』で、各国の動きや思惑を解説します。日本については、香港移民を受け入れないなど、習近平氏の訪日問題があり、中国に配慮する姿勢を問題視。世界の構図の変化に対応し、いま手を取るべき相手が誰かを示しています。

メルケル首相のコペルニクス的転換

トランプ大統領の趣旨替え

トランプ大統領が「マスク着用」容認にシフトした。今までは、マスク着用を非難していたから、大きな方針の転換になっている。ワシントン大学は、国民の9割がマスク着用なら、死者数を14%減らせるとした。10月までに、今のままでは、死者数は17万人になるが、マスク着用なら15万人まで減らせるとした。また、米国民の81%がコロナ感染に不安があると世論調査に回答している。

そして、政権に多くの人を送っているゴールドマン・サックスは、マスク着用ならGDPの落ち込みを5%軽減できるとした。政権内部からも、このままでは危ないという声があったので、GSが代弁したのであろう。

それと、共和党の地盤であり、テキサス州でも感染者数が激増したことで、高齢者層の支持を失う事態になり、マスク着用を容認することになったようだ。州知事のマスク着用義務化も非難しないという。早速、テキサス州アボット知事はマスク着用を義務化した。しかし、ニューヨーク州のクオモ知事が、国民のマスク着用を義務化する大統領令を出すよう求めていたが、トランプ大統領は、そこまでには至らないとした。

経済活動再開が早すぎたことで、コロナ感染症拡大を引き起こして、支持率が落ちたことに、やっと気が付いて、感染症対策の基本を認めたということのようである。トランプ支持率は36%程度まで落ちてきた。このままでは11月再選は不可能の状態になっている。

中国の行方

香港への国家安全維持法の適用で、自由民主主義国の多くが、中国の強硬的な外交と自由民主の弾圧を非難している。中国の孤立化が顕著になっている。しかし、中国の国内に目をやると、揚子江流域での洪水と、三峡ダムの決壊などの問題が深刻化していることが見える。

特に、三峡ダムが決壊すると、世界最大の貯水量があり、また、土砂が膨大に堆積しているので、決壊したときの下流域での被害は、相当に大きなことになる見られ、上海など大都市もあり、6億人が被害を受け、4億人程度が死亡するという。

このような状況でも、中国政府は心配がないと宣言している。コロナウィルス感染拡大の初期と同じような対応をしている。コロナ不況での国内の不満を海外に目を向けさせることで、解消しようとしているが、三峡ダムが決壊したら、そういうわけにもいかないはず。被害が膨大であり、海外からの支援も必要になる。その時に支援できるのは、経済規模が大きな自由民主主義国群しかない。

しかし、今、香港の自由を奪い、自由民主主義国から非難を受けているので、現政権のままでは支援を要請できないことになる。もし、三峡ダムが決壊したら、中国の習近平独裁政権は倒れて、自由民主主義国群の支援を受けやすい政権に代わる可能性もあると見える。それまでは、中国強硬外交は変わらないであろう。

メルケル首相の決断で、世界の構図が決まる

2015年のシリア難民の大量受け入れで指導力を失っていたドイツのメルケル首相は、コロナ感染症の初動対応が評価され、支持率が上昇して力を取り戻した。その勢いで、メルケルはマクロン仏大統領との会談で、「新型コロナで疲弊したEU加盟国を救うために、5000億ユーロの基金(復興基金)を立ち上げる。その原資は初のEU国債を発行して集める。以上を欧州委員会に提案する」ことで合意した。

ドイツを中心として、他の加盟国のために低利で起債しようということであり、インフレを恐れて、財政赤字につながる南欧諸国救済に反対していたメルケル首相がコペルニクス的転換をしたことになる。ドイツが欧州の盟主としての役割をやっと演ずるようである。

一方、トランプ大統領のドイツたたきは執拗で激しい。「ドイツは巨額の対米黒字にもかかわらず、ロシアから天然ガスを輸入し、米国のシェールガスは買わないし、国防費が2%以下でロシア軍対策は3万5000人の在独米軍に頼り、その費用は十分支払わない」という。事実、2019年のドイツの国防支出は、NATO目標2%に対し、GDP比で1.38%と推定されている。

対して、メルケル首相は、6月に予定されていた米国主催のG7首脳会議を欠席するとしたことで、会議自体が延期になってしまった。そして、それに怒りトランプ大統領は、ドイツから米軍9500人を撤退するとして、米独間の不仲説を裏づけることになった。

ドイツとフランスは、EUを足場に「米国でも中国でもロシアでもない」勢力で民主主義を守る中軸勢力となることを宣言したようなものである。これは、メルケル首相がいう「米国衰退後の世界を見据えた対応」の一環である。米国に頼らないドイツを作ることにしたようだ。

この状況を予測して、欧州連合の政策執行機関である欧州委員会の首班(欧州委員長)に、エースである前ドイツ国防相のウルズラ・フォン・デア・ライエンを送り出している。徐々にEUを中心にしてドイツも含めて統合化させる方向で動き始めたようだ。

しかし、メルケル首相は、復興基金についてのEUの次期予算を巡る交渉で、加盟国の隔たりは依然大きいと語った。まだまだ、その道のりは遠いが、着実に米国離れを行い、イタリアなどの中国依存国家を再度EUに統合して、民主主義の中軸勢力にするようである。日本は、豪州、台湾、インドなどとアジアでの民主勢力を糾合して、ドイツを中心とするEU諸国と連合して、民主主義を守る必要がある。

このドイツの方向を確認して、ロシアもロシア国民投票で改憲を承認され、プーチン大統領の長期続投を可能にして、世界の構図の中で、ロシアを強国に位置づけようとしている。ロシアは、世界の指導国家の1つになることを目指しているので、ドイツなどEUと協力できる道を探ると見る。

一方、米国は自国のことで手いっぱいになっている。米国はコロナに負けて失業者も多く、経済再建のために米下院は、道路や鉄道、学校の建設・補修などに向けた1兆5000億ドル(約161兆円)規模のインフラ整備法案を可決したが、上院共和党は、気候変動対策も盛り込まれているこの法案に反対している。

国内が分断した状態であり、コロナ感染症拡大も止められずに、海外の米軍を撤退させる事態であり、トランプ政権の米国は、急速に覇権力を失っている。

11月以降もトランプ政権が続くと、世界は米国中心の構図から中国、米国、EUなど多極化した世界の構図になるようだ。しかし、トランプ政権ではなく、バイデン政権では、再度、米国を中心とした世界の構図にするべく外交を転換することになる。その時、メルケル首相の構想は、どうなのであろうか?

日本の外交姿勢

日本は、国家安全法を施行され自由を失った香港からの移民受け入れもせずに、優秀な人たちがシンガポール、台湾、豪州に行くのを見ているだけである。これは中国に配慮したためと見えるが、日本は世界の構図変化に対応できていない。世界は、コロナ感染症による米国の衰退と米国のドイツなど同盟国への仕打ちがひどく、その上で中国の強硬な外交などで急速に変化している。

この中国の強硬な外交で、中国の孤立化も起きているので、中国に配慮した日本は、世界の孤児に迎合する国となり、世界でサブ的な位置になってしまう可能性がある。ここは毅然として、強硬な中国に対応するべきである。自由民主主義を守る国として、ドイツなどと手を組み、インドや豪州などとも組んで強硬な中国へ対応することが必要である。

原理原則を重視した外交戦略を取ることが重要だ。習近平国家主席の訪日を実現しようと、配慮するのは、日本の世界的な位置づけを毀損することになる。日本は、世界の指導国として、毅然とした対応を取り、衰退する米国との関係も重視しつつ、ドイツ・フランス・豪州・インドなど民主主義を守る国とも連携して、世界の人権・自由を守る国として、位置づけをはっきりして、中国の独裁的な権威主義に対応するしかない。

そして、三峡ダムが決壊して、中国に自由民主主義的な政権が出来た時には、大規模な支援をすることである。それを事前に宣言することも必要なのであろう。さあ、どうなりますか?

image by:Drop of Light / Shutterstock.com

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【著者】 津田慶治 【月額】 初月無料!月額660円(税込) 【発行周期】 毎月 第1〜4月曜日 発行予定

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