【書評】古希を超えた南伸坊さんに学ぶゴキゲンな老人になる方法

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南伸坊さんといえば、丸刈りのおにぎり顔が親しみやすく、かつては日清チキンラーメンのCM出演でも知られたイラストレーターですが、そんな伸坊さんが「体の不如意」を赤裸々に綴ったエッセイを紹介しているのは、無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』の編集長・柴田忠男さん。伸坊さんより年長者である柴田さんですが、本書の内容をどのように受け取ったのでしょうか。

偏屈BOOK案内:南伸坊『生きてく工夫』

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南伸坊 著/春陽堂書店

ここ数年、ジジムサイことをテーマにした著書が目立つ、1947年生まれの南伸坊。「おじいさんになったね」という本は団塊の世代狙いのようだったが、売れたんだろうか。南の〈なんとはなしに書いているエッセイ〉みたいな本は、読んでもほとんど役に立たず、何も残らないけど、読んでるあいだはとりあえず多少の同意や納得があって、まあ全体が長閑なので、たまに読むといい感じだ。

この本は読者対象を〈団塊の世代〉に絞った出版社から出た。NHK出版『きょうの健康』の連載(2015/4~2019/3)に加筆修正したものだという。しかし、何とも魅力のないタイトルである。1行36字詰めで1ページに13行、白地が多くて読みやすい年寄り仕様、確実にページは稼げるが、スカスカ感がはんぱない。しかも伸坊ひとり合点だらけの内容で、これで1,600円取るとはいい度胸だ。

伸坊は健康についてせこい「工夫」を思いつき、じっさいにやってみて、その成果をレポートするのが好きな人らしい。月刊でネタが続くだろうかと思っていたら、68歳から71歳までのあいだ、毎月からだに何らかの不如意が起こり、書く材料に困ることがなかったというんだから、ラッキーというかアンラッキーというか、やはり「持っている人」だった。あまりに出来すぎではあるが。

100歳を超えた老人を「百寿者」と呼び、いまや6万人に迫るとか。そして「体の健康と心の健康は必ずしも相関しない」という事実が明らかになったようだ。80歳を過ぎると「老年的超越」と呼ばれる心境がおとずれて、現在の暮らしを肯定的に捉え、自分の人生に対する満足感が高まっていくらしい。体のあちこちに不如意や苦痛があったりしても、必ずしも不機嫌には直結しないという。

苦虫をかみつぶしたような顔した年寄りというが、「若いうちに持った固定観念」のままに、年寄りらしくふるまっているに過ぎず、気持ちを入れ替えて、周囲に感謝し、常に上機嫌でふるまっていれば、更なる好意に囲まれることになる、と思った伸坊は「どうせ老人になるんだったら、ゴキゲンな老人になろう」と決める。現在のわたしは偏屈仮面をつけた素直な老人だ、と思うが……。

ネットで病気のことを調べるって誰でもするようだが、医者はニガリきってるみたい。勝手な自己診断で、あれこれ推理したり心配したり、診断の邪魔をする。症状まで自分が思いこんだ病気に合わせて申告するので、誤診の原因になる。伸坊は狭心症と診断され、解説書を読むと思いあたるところがアルアル。過度の疲労、睡眠不足、ストレス、運動不足などが引き金に。全部その通り。

伸坊は「痛みというのは覚えていられない」という発見を披露する。確かに私も子供の頃の骨折は、光景は記憶にあるが痛みの感覚は思い出せない。大人になって手の帯状疱疹にかかり、これは相当痛かった。もう忘れていたが痕跡は残る。「人間のカラダってのは、うまいことできてんだねえ!」「そう、痛いのがどんなだったか、そのたんびに思い出せてたら大変よね」仲良し夫婦。

伸坊は狭心症で、近頃はニトログリセリンを常時携帯して、友人に自慢している。小股でゆっくり歩く伸坊は認知症リスクが上がったため、万歩計を導入し、一日8,000歩を実行している。とにかく加齢による体の不調がネタという、年寄り向けの実用書(っぽい)。わたしより年下の伸坊は、わたしの経験していない体の不調を嬉しそうに書いている。わたしは外道な年寄りらしい。

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock.com

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