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コロナ禍で考える開発途上国の支援。渋沢栄一の言葉のヒントとは

「SDGs」という言葉があります。これは17のグローバル目標と169のターゲットから成る、国連の持続可能な開発目標です。SDGsは2015年9月の国連サミットで採択されたもので、国連加盟193か国が2016年から2030年の15年間で達成するために掲げました。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、世界は大変な状況にありますが、世界の金融の舞台で活躍する渋澤健さんは、こんな時だからこそ、開発途上国に対する支援が大切だと語っています。

プロフィール:渋澤 健(しぶさわ・けん)
国際関係の財団法人から米国でMBAを得て金融業界へ転身。外資系金融機関で日本国債や為替オプションのディーリング、株式デリバティブのセールズ業務に携わり、米大手ヘッジファンドの日本代表を務める。2001年に独立。2007年にコモンズ(株)を設立し、2008年にコモンズ投信会長に着任。日本の資本主義の父・渋沢栄一5代目子孫。

コロナ禍での開発途上国に対する支援とは

謹啓 ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。

去る二月中旬に、コロナ禍がアジアに限った問題と軽視されていたニューヨークへ出張し、UNDP(国連開発計画)が企画しているSDG Impactの運営委員会に参加しました。欧米諸国のみならず、南米、アフリカ、そしてアジアからの代表で構成され、多様性に満ちています。

当日は、インド代表の委員と私は現地で参加しましたが、シンガポール代表の委員は、移動中の機内感染のリスクを懸念して電話で参加、また中国代表の委員はビデオ会議で現地のオフィスから(マスク着用で)NYの夕暮れまでフル参加しました。他の委員の感覚では新型コロナウイルスは遠い存在のように見えたでしょう。

1965年に設立されたUNDPは、国連の下で開発途上国の経済、社会的発展のために、プロジェクト策定や管理を主に行っている国際機関であり、主導してまとめているSDG ImpactとはSDGsの基準・認証プロジェクトです。

SDGsは17の目標、169のターゲットと広範囲に構成されているので、具体的にどのような行動がSDGsに沿っているのか(アラインメント)がわかりにくい課題があります。

これらを解決するために、三つの分野、①未公開企業への「プライベートエクイティ投資ファンド」、②「債券」(SDG債券の発行者)、そして③規模を問わない「企業」、の各分野における活動に対してSDGsアラインメントの基準・認証を設け、SDGsへの投資促進につなげることがSDG Impactの狙いです。

基本方針は、この3つの分野において基準の方針を一言で表し、4~8つの行動指針に整理して評価を示すことです。現在、「プライベートエクイティ」「債券」の基準作りは最終形に近づいており、夏の終わりまでに「企業」の基準作りを完了させる予定です。


image by: Phuong D. Nguyen / shutterstock

SDG Impactの設置の背景には、SDGsを達成するための新たな資金となる財源としての「インパクト投資」に対する世間の関心が高まっているという現状があります。

インパクト投資とは、良き社会的インパクトと経済的リターンの両立です。10年ほど前から徐々に認知度が広まってきている投資手法ですが、社会と経済の両立という意味では、渋沢栄一の「論語と算盤」の現代版とも言えます。

ただ「インパクト投資」は魅力的な表現でありますが、人によって定義が若干異なっています。良き社会的インパクトがあるならば、リターンが市場期待リターンより低い、あるいはゼロでも良かろうと思う人もいれば、通常のグロース(成長)投資に社会的インパクトが「おまけ」として付いていれば良いと思う人もいます。

しかしながら、インパクト投資の本質とは、慈善・援助活動、あるいは「おまけ」ではなく、良き社会的インパクトを意図すると共に、その投資が持続的に続けられるための必要な市場期待リターンを同時に目指すことであると思います。

そして、「ウォッシング」(お化粧)ではない、リアルなインパクト投資の要となるのが社会的インパクトの測定です。

現在、世界では色々なプレイヤーたちが試行錯誤を繰り返しながら、この測定の基準作りに挑んでいます。一方、UNDPの本来の役目は新興国の経済開発であり、社会的インパクトの測定の事務能力や予算配分が潤沢である訳ではありません。

またインパクト測定について、OECD(経済協力開発機構)やPRI(責任投資原則)という政府系機関のみならず、様々な民間機関も取り組んでおり、航海図が複雑です。従って、UNDPがアレンジャーとして様々な取り組みを調整しながら「共通言語」を世の中へ提示することに大きな意味があると思います。


image by: shutterstock

しかし今回のSDG Impactの運営委員会への参加でちょっと気になったこともありました。

現在、多くの方々のご尽力により、日本では官民でSDGsへの認知度、関心、そして行動も高まっていることを肌で感じています。ただ残念ながら、SDGsの一丁目一番地では日本の存在感が薄く、SDGsを通じて日本が世界でもっとプレゼンスを高めることが急務であると感じ、委員会では「please come to Japan」と挙手し、日本での開催を提案しました。

ただ、その後、コロナ禍により世界がロックダウン状態となり、SDG Impactによる基準・認証づくりのプロセスに日本の企業や投資家の意見などをインプットする会合の日本開催は、残念ながら頓挫しました。しかしウェブ会議が当たり前となったご時世を受けてSDG Impact事務局にオンライン意見交換会を提案したところ、快く応じてくれました。

6月末に東京大学社会連携本部のご協力も得て開催に至ったところ、100名近くの参加者に恵まれました。【アーカイブ(英語)

これからの企業は、ESGに関する情報開示だけではなく、社会的インパクトの測定および目標設定も常識となる時代の潮流を感じています。

日本社会全体で認識が広がっているだけに、 SDGsのガラパゴス化は回避しなければならず、SDGアラインメントをもっと世界へ発信して、プレゼンスを高めるべきだと強く感じています。

□ ■ 付録:「渋沢栄一の『論語と算盤』を今、考える」■ □
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『論語と算盤』口は禍福の門なり
口舌の利用によって福は来るものではないか。
もともろ多弁は関心せぬが、無言もまた珍重すべきものではない。

日本では、「背中を見て育つ」など言葉で表現しなくても、行動さえしていれば評価してもらえるはずという暗黙の了解があると思います。「空気が読める」民族ですから。しかし、世界で正当に評価してもらうためには、行動はもちろんのこと、それをきちんと伝える意識を持つことも重要です。

『渋沢栄一 訓言集』実業と経済
およそ事業は、社会多数を益するものでなければならない。
その経営者一人がいかに大富豪になっても、
そのために社会の多数が、貧困に陥るようなことでは、
正常な事業とは言われぬ。
その人もまたついにその幸福を永続することができない。

SDGs投資とは、MEからWEへの投資だと思います。コロナ禍で我々が学んだことは、MEを守ることは大切。でもWEの存在がなければ、MEの存在が脅かされる。またWEが繁栄すれば、その恩恵をMEが被ることができる。MEからWEへの投資は、MEの否定ではありません。

謹白 渋澤 健

image by: shutterstock

渋澤 健(しぶさわ・けん)

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