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妥協案で東京を外す愚行。支離滅裂「GoTo」東京除外の内幕を暴く

全国一斉スタートから東京を除外したことで、さらなる批判を浴びている政府主導の「Go To キャンペーン」。赤羽国土交通大臣は17日の記者会見で、東京を発着する旅行はすでに予約されている分も含めて割引の対象から外す形で、今月22日から実施することを明らかにしました。この中途半端な妥協案を新聞各紙はどう報じたのでしょうか。ジャーナリストの内田誠さんが自身のメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』の中で、決定に至った経緯を紹介しています。

「Go To キャンペーン」東京除外について各紙はどう報じたのか?

【ラインナップ】

◆1面トップの見出しから……。
《朝日》…Go To 東京を除外
《読売》…Go To 東京を除外
《毎日》…Go To 東京発着除外
《東京》…Go To 都民除外

◆解説面の見出しから……。
《朝日》…Go To 先走った末
《読売》…中国「完治」なお時間
《毎日》…「都除外」Go To 迷走
《東京》…Go To それでも固執

【プロフィール】

*これはやはり、1つの“事件”と観た方が良いのでしょう。政府による「Go To キャンペーン」と「東京外し」についての各紙の“論”を朝刊紙上で検証します。

各紙とも、本記を1面に、分析的あるいはやや詳しい内容の記事を2面または3面に、さらに街の声などを社会面に掲載するスタイルでは変わりません。

違っているのは、この問題に何らかの「論」をぶつけようとしているか否かという点。論を対置する、あるいは評価を醸し出すため、《朝日》《毎日》《東京》はこの問題にそれぞれの定番解説記事を充てています。ところが、《読売》は定番解説記事がこの問題にフォーカスしていません。《読売》の定番解説記事「スキャナー」は、得意の中国批判、中国の経済回復は本物ではないという主張のために割かれているようです。

《読売》の場合、安倍政権にとってあまり大きく取り上げて欲しくなさそうなテーマについては、何らかの形で「控える」ということが習い性になっているように見受けられます。

《朝日》《毎日》《東京》の各紙は、しかし、微妙に論調が違っていますので、以下、その点に注目して観ていきたいと思います。

■官邸の先走り■《朝日》
■「方針の転換」にすぎない■《読売》
■苦肉の策■《毎日》
■妥協案で感染拡大は防げない■《東京》

官邸の先走り

【朝日】は2面の解説記事「時時刻刻」。見出しから。

Go To 先走った末
与党も慎重論 突然の東京外し
22日開始 線引き複雑
飲食店支援「Go To イート」
委託先選び延期へ

●uttiiの眼

「Go To 」は官邸が先走った末に起きている混乱というのが《朝日》の基本的な捉え方のようです。

ところで、「時時刻刻」は、その名が示すとおり、もともと時系列的に事実を整理しての分析が身上で、その意味で強調されているのは以下の諸点。

まず、10日に赤羽国交相(公明党所属)が発表した22日への前倒しは菅官房長官の指示だったこと。その背景には経済界の強い要請があったこと、これらを「官邸の先走り」と捉えていることになる。さらに、16日の公明党の党会合で、都内の感染状況の悪化を受けて山口代表が「東京外し」(延期?)を求め、「政府に改善策を求めていた」こと。同時に「感染が心配だからやめるのは、過度な対応だ」とも言っていたこと、などだ。

《朝日》が取材した公明党の幹部は「衆院選が1年以内にあるのに、うちが悪者にされたら党が持たない」と漏らしたのだそうで、実施はするが東京は外すという中途半端な決定の裏には、公明党が来たるべき総選挙のことを考え、「Go To トラベル」を中止した場合に、観光業サイドから出てくる批判と、感染症が拡大した場合の地方政府及び有権者からの批判の双方から免れたいという、公明党への批判回避の姿勢があったと理解しているようだ。

この問題には実に色々な“筋”があり、そもそもコロナ対応で摩擦が起きていた政府と東京都の対立が、「東京外し」という形で顔を出したという面もありそうで、「時時刻刻」はこの点も指摘し、小池都知事が「東京外し」について「国として都民国民に対しての説明が求められるのではないでしょうか」と発言したことを書き留めている。

「方針の転換」にすぎない

【読売】はこの件に対して「論」を持たないが、2面の分析的な記事に、辛うじて《読売》のこの問題に対する捉え方が見え隠れしている。見出しから。
感染拡大で転換
「Go To 」東京除外
経済配慮 最小限の修正
観光業「期待したのに」

●uttiiの眼

リードには「一律全面実施」のはずだった同事業に対して「東京都内で新型コロナウイルスの感染者が急増し、地方への感染拡大を懸念する声が高まっていた」として、「政府は最小限の軌道修正で乗り切り、経済の立て直しを図りたい考えだ」としている。

これが「最小限の修正」であるかは大きな疑問だが、少なくとも《読売》がこの修正を「方針の転換」として許容する立場であることは分かる。しかも、そこには方針転換の理由としての「感染拡大」が強調されていて、要は「仕方がない」「政治に責任はない」ということが含意されている。

それでも、東京発着の旅行が除外されたことについて「関係業界に困惑と失望が広がった」として、はとバスや都内の観光ホテルの実例も示されてはいる。

苦肉の策

【毎日】は3面の定番解説記事「クローズアップ」。見出しから。

「都除外」Go To 迷走
政府、見通し甘さ露呈
観光業 はしご外され
「残念と安心 半々」

●uttiiの眼

《毎日》の基本的な評価はリードによく表れている。

「東京都を中心に感染再拡大への不安が広がる中で、経済活動の活性化を目指す政府は「東京除外」という苦肉の策までとりながら、予定通りの実施にこだわった。だが、開始6日前の異例の見直しは、地方の不安の高まりや感染拡大への見通しの甘さを露呈した」と。

「東京外し」が決定する流れについては独特の説明になっている。

冷え込む経済状況に焦る安倍政権は、4連休が使えるように22日からと事業の前倒しを決め観光業の追い風にしようとしたが、東京都内の感染確認数の急増という誤算に見舞われ、段階的な実施を求める全国知事会の提言、青森県むつ市長の「人災になる」発言や小池都知事の「延期を含めた検討」要求などにさらされ、延期を求める世論が強まった。

政権内では菅官房長官らが全国一律22日からの実施を主張。首相は、東京都の286人という過去最多の新規感染確認数が決定打となり、また事業を後押ししてきた公明党・山口代表もトーンダウンし、「22日から実施に踏み切る一方、東京を除外するという苦肉の策」となったと。

「東京除外」について《毎日》が取材した自民党閣僚関係者は、「都民だって税金を払っている。心情的にも都民が何と言うか」と都民の反発を懸念したという。

妥協案で感染拡大は防げない

【東京】は2面の定番解説記事「核心」。見出しから。

Go To それでも固執
他都市でも感染拡大 疑問の妥協案
都民除外で全面中止回避

●uttiiの眼

見出しから窺える《東京》の評価は、こういうことだ。中止や延期を迫る声がどんどん大きくなる中、それでも政府は消費喚起策の実施にこだわり続け、全面中止だけは回避したと。

リードは、都内の感染者急増で全国的な実施への批判が高まったことを軌道修正の理由として捉えながら、こうも言っている。「開始まで1週間を切った時での全面中止による混乱を避けたい政府の事情もあり、感染症対策と経済対策との間で妥協案を探った。」と。さらに「他の都市部でも感染者が増えている」として、「東京だけ除外すれば感染拡大が防げるわけではない」と断を下している。

とりわけ政治の世界ではよく、「バランスを取る」とか「妥協案を探る」ということが出てくる。しかし、バランスにせよ妥協にせよ、どんな意味があるのだろうか。《東京》の記事は、「妥協案」と聞いて思考停止に陥りがちの私たちに冷水を浴びせているようなところがある。「妥協案」で東京を除外してみても、感染拡大は防げないのだと。

そうなると改めて、では何のための「妥協案」なのかということにもなるが、その点については、事務委託費の上限が3千億円以上に上っていたことで野党が強く批判した消費喚起策全体の問題を指摘し、「Go To トラベル」そのものについての冷ややかな声を紹介するに止まっている。持続化給付金事業を巡る「電通中抜き疑惑」に連なる問題意識だが、残念ながら、この記事の中ではまだ十分に展開されていない。

image by: 首相官邸

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ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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