「アジアで最低レベル」とも言われる、日本人の英語力。そのために被っている損害も甚大なようです。今回のメルマガ『週刊 Life is beautiful』では世界的エンジニアの中島聡さんが、日本人が通訳なしの交渉ができないため、ビジネスの現場で大きな損をしているという事実を記すとともに、日本が国連の常任理事国入りできない理由も英語力のなさにあると指摘しています。
プロフィール:中島聡(なかじま・さとし)
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。
私の目に止まった記事
● 台湾「2030年バイリンガル計画」本格始動。テレビ放送や政府ウェブサイトも英語に
台湾政府が、政府が出す情報を英語化したり、英語のみの放送局を作ることにより、10年間かけて「日常的に英語を使う環境」を整えて、国民全員をバイリンガル化しよう、という計画を発表したという報道です。
私は、ここ20年ほどは、日米をまたぐ仕事をしていますが、そこでつくづく感じるのは、「英会話が出来ない」ことが日本人にとって、大きなハンデキャップになっており、多くの場面で、損をしているということです。
少し前に、私は日米間の会社の買収交渉の真っ只中にいたことがありますが、とにかく日本サイドの人たちが英語でまともに交渉できないので、肝心なことが伝えられず、米国人からは馬鹿にされ、結果的に破談になってしまいました。
日本にもそれなりに英語を話すことが出来る人はいるのですが、交渉の厳しい場面になると、「当事者が本音で大人の交渉をする」必要が出てくるのですが、そこが日本人は圧倒的に弱いのです。例えていうならば、米国人は自ら運転席に座ってハンドルを握って運転しているのに、日本人はリモコン操縦しているようなイメージです。
米国企業が作ったものが、次々と業界スタンダードになるのに比べて、日本企業が作ったものは、どんなに優れていても相手にされずにガラパゴス化してしまうのも、やはり英語力の弱さ(結果としての、交渉力・説得力・政治力の弱さ)によるところが大きいのです。
「大人の交渉」とは、必要に応じて会議の席で(放送禁止用語を使って)罵る、決裂した会議の後に、交渉相手のキーパーソンに個人的に近づいて本音を聞き出す、ビジネスの相手と家族ぐるみの付き合いをする、などです。流儀は違えど、日本国内では「大人の交渉」が出来ている人が、途端に米国人相手だと、それが全く出来なくなってしまう例を、私はなんども目撃しています。
iモードやお財布ケータイが典型的な例です。NTTドコモは、CHTML(Compact HTML)という携帯電話用のブラウザーの仕様を定めてiモードという世界初のモバイル・サービス・プラットフォームを作りましたが、政治力の弱さからWAPというCHTMLよりもはるかに劣る業界標準を作られて市場から締め出されてしまいました。モバイル端末用のJavaの仕様に関しても、ほぼ同じことが起こりました(iアプリ vs. J2ME/MIDP)。
ジブリの作品がディズニーによって飼い殺しされているのも同じ理由です。通訳や代理人を間に立てていたのでは、厳しい交渉は出来ないのです。
これはビジネスの場面だけでなく、政治の世界でも日常的に起こっています。国連に対して、大量のお金を出しながら、いつまで経っても常任理事国入りが出来ないのは、日本の政治家が通訳を挟まずに、「大人の交渉」をすることが出来ないからです。
私の目に止まった記事2
台湾で「デジタル大臣」を務める唐鳳(とう・ほう、Audrey Tang)氏のインタビュー記事です。色々と良いことが書いてあるので、全文を読んでもらうのが一番ですが、こんな人が大臣になれる国は本当に素晴らしいと思います。
特に気に入った部分は、以下の部分です。
というのも、一人ひとりが生涯学習の習慣を維持する必要があります。そして、その動機が自分の心の中から発せられたものであれば、学習に対する情熱を一生涯、持ち続けることができるからです。そのような動機が、単に他人との比較やよそから植え付けられたものであったとすれば、学校教育から離れてしまった途端、「学習しよう」という動機が弱くなってしまうでしょう。生涯学習はやはり、最も大事だと考えます。
私はとてもラッキーなことに「学習に対する情熱」を学生時代に得ることが出来ましたが、そんな情熱を持っている人と持っていない人の人生には大きな違いがあると思います。
SDGsに関する彼のコメントも、何気ない言葉の中に重要なメッセージが込められています。
目標はこう達成すべし、と指定されていたら、それはもはや目標ではありませんよね。決まった台本どおりに進めればよいだけです。小さい子どもを見ていてもそうですね。ルールが厳密に決められているボードゲームには興味がなく、砂や粘土のように「こう使う」と決められていないもののほうが最大限の創造力を発揮できます。SDGsもこれと同じようなことです。
SDGsの重要性を理解出来ない大人が多いのは、彼らが学生時代に「答えが一つに決まっている問題」ばかりを解く訓練をされて来たためだとつくづく思います。SDGsのように、漠然とした方向性しか定めていないものは、自由度が大きすぎて理解出来ないのだと思います。
私の目に止まった記事3
バルブ崩壊以来、経済の成長も止まり、デフレが続いている日本ですが、結果として、国際的に見れば「低賃金で働かされていること」になっている、という記事です。日本国内に止まっている限りは、物価も安いので、問題はありませんが、海外赴任をした途端に、その現実に直面するのです。
ちなみに、私は一時期、シアトルで日本から赴任してきたビジネスマン向けの不動産投資をしていました。日本から来た海外赴任者は、
- 一度家を借りると3年ぐらいは借り続けてくれる
- 家賃は会社が支払うので、滞納の心配がない
- 米国人のように、家主に対して訴訟騒ぎは起こさない
という利点があるので、投資手法としてはとても魅力的だったのです。
しかし、ここ数年の不動産の高騰で、それが難しくなってしまいました。数年前までは、月2,000~3,000ドル(20~30万円強)出せば、家族連れが住むのに十分な広さの一軒家が借りられたのに、それが今では、相場が4,000~5,000ドル(40~40万円強)に上がってしまったのです。
本来であれば、物価高を反映して日本企業が海外赴任者用の手当を増やせば良いのですが、日本での人件費を考えるとそんなには出せないようで、いまだに家賃3,000ドルに据え置いたままの企業が大半なのです。
結果として、一流商社の中堅どころの海外赴任者が、2ベッドルームの狭いアパートしか借りられず、10代後半の子供を相部屋に入れるしかないという情けない状況になっているのです。
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