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ポスト安倍の超大穴?小池百合子氏が目論む「自民党ジャック」の中身

一部報道では、すでに永田町で現実味を持ち語られているとも伝えられる、衆院の解散。そのタイミングもさることながら、安倍首相の後に総理の椅子に座る人物についても高い関心が寄せられています。そんな「ポスト安倍」についてさまざまな要因をもとに予測するのは、米国在住作家の冷泉彰彦さん。冷泉さんは自身のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』で今回、大胆ながらも説得力のある「後継候補とその周辺の動き」を記しています。

安倍政権の「終わり方」を考える

安倍政権の「終わり」が始まりました。総理の健康問題が報道されていますが、それは大きな問題ではありません。問題を左右するのは、解散総選挙のタイミングです。総選挙の時期については、色々なファクターが絡んできます。

1.来年の任期満了が接近すると、解散権の効力がどんどん弱くなり政権に不利となる、できるだけ早期にいい条件のタイミングで解散したいというのが、政権周囲の考え方であると思います。

2.3つの「前」という話があります。「2021年のオリパラが正式にキャンセルとなる前(キャンセルになると安倍政権の責任問題になるため)」「トランプが選挙で負ける前(バイデン政権でも安倍総理は対応可能なので、詭弁とも思えますが)」「株の暴落の前」という「前」のタイミングで解散しないとダメという考え方です。

3.株の暴落だけでなく、日本経済ということで考えると、2020年第3四半期GDPの数字が11月中旬に出ます。第2四半期の年率換算マイナス27.8%というのは衝撃でしたが、第3四半期の数字も悲惨だと、倒産ラッシュ、失業ラッシュの厳しい事態になります。その前に解散というのは政治的には自然と言っていいでしょう。

4.解散風というのは、吹き出すと止まりません。恐らく9月の声とともに一気に吹くのではと思います。

というようなタイミングの話は、余り難しい問題ではありません。問題は、ポスト安倍への政権移譲のプロセスです。

5.衆院選に曲がりなりにも勝利し、余力を残して政権を禅譲するというシナリオはなかなか想像ができません。というのは、選挙後に「世界的な経済不安」あるいは「日本における経済指標の悪化」は免れない中で、ポジティブな禅譲劇というのは、考えにくいからです。と言いますか、現在の安倍総理に後継指名をするだけの権力はないと思いますし、その権力を確保するだけの選挙大勝利というのも考えにくいです。

6.となるとありそうなのは、政権維持ギリギリの線はキープしたが、選挙としては敗北なので、安倍総理は退陣。そこで党内の総裁選で正々堂々と決着させるというシナリオです。岸田、菅、石破、河野、茂木といった顔ぶれで競うことになるわけですが、どうもこのシナリオでは、安定政権を作るのは難しいように思います。国難にあたって、そんな決め方では総理に権力が集中しないし、経済再生とか、日米関係、日中関係といった「従来路線の変更」を世論に納得させることはできないからです。

7.一つの可能性は、「懲りない」小池百合子氏の動向です。新党などの派手な仕掛けだと、有権者がついてこない(国政全般を任せるほどの世論の信用はない)ので、噂されているのは二階氏に接近して自民党に電撃復党、自民党をジャックして一気に党内外に手を突っ込んで新勢力で総選挙という仕掛けです。

その場合に、例えば進次郎氏は往年の小泉純一郎政権における田中真紀子氏の立ち位置になるのかもしれません。そう考えると、唐突な靖国参拝も理解できます。総選挙で派閥が大勝ちして、自民党も過半数維持となれば小池ブームで政権奪取は可能となります。難点は、この方、政治は分かっても経済は全く理解できないのですね。そこを誰が補佐するかということがイメージできないのです。

ちなみに、玉木さんが立憲に行かないのは、イデオロギー対立もありますが、このシナリオに乗りたいからです。徒党を引き連れて党外から乗り込めば、少なくとも閣僚ポストはもらえる、そんな期待が露骨に見え隠れします。立憲に行きそうだが、行かないで玉木さんに同道している人には同じ匂いがします。

8.小池百合子の自民党ジャックの可能性に対して警戒している人物がいるとしたら、その中心は菅義偉氏でしょう。一部には菅待望論があるのは事実ですが、内閣総理大臣というのは、官房長官とは全く次元が異なるポジションです。国民に対して、世界各国の首脳に対して、官僚の用意した材料に上乗せしたコミュニケーションのスキルを発揮しなくてはならず、そのスキルは世論の厳しい監視に晒されます。安倍総理の場合は、知的訓練をしていない人物ということが支持の基盤にあり、その上で評価されていたわけですが、菅さんのキャラはそれで逃げることは不可能。非常に難しいと思います。

そこで考えられるのが、菅氏が(河野)太郎さんを立てるというシナリオです。ここへ来ての太郎さんの生臭さときたら、もの凄いですね。地上イージスのキャンセル、そして今回の女系天皇容認と、強烈な仕掛けを繰り出してきています。天下取り宣言としか言いようがありません。仮にこの「菅=河野(SK)」秘密同盟があるとして、勿論、その仮想敵は「小池=二階(KN)」密約ということになります。

9.仮にですが、SK同盟とKN密約(どちらも仮説ですが)があるとして、例えばですが、「SK+公明」と「KN+維新」という合従連衡もありえます。その場合ですが、小池さんは以前に「排除の論理」というのをやった前科があります。あれは「旧民主党政権中枢」はイメージと政治的立場が違うので外すということでしたが、要するに「左派ポピュリストは入れない」というものでした。面白い作戦ですが、結局は惨敗したし、現在は未曾有の経済危機で左派政策が必要な時期です。

そこで「SK+公明」の側が、例えば立憲の中で統治スキルのある人(閣僚級という意味で)を一本釣りすることは可能と思います。その上で、宏池会、平成研まで引っ張り込めば、結構な布陣になるように思います。

10.問題はプロセスです。安倍さんが極めて早期に解散の決断をする、そうすると小池の知事辞任+自民復党が間に合わない、でも与党は負ける。安倍さんが退陣する。総裁選で岸田さんになる。経済がより悪化し、社会不安が起きる、そこで再度解散風と小池待望論が出る。その上で「小池=二階」の同盟が登場。小池は「新党」だと失敗するので、「国民民主」の看板で選挙を闘い、選挙後に自民党内の二階の内通で清和会=宏池会連合の崩壊、維新の連携で一気に首班を取りに行く、そんなシナリオが考えられます。

11.菅=河野連合の作戦としては、9.のように布陣を敷く上では可能性が広いわけですが、10.のように小池さんに攻められると、戦いの順番として受け手に回って自滅する危険があります。ですから、あくまで小池がかき回してこないうちに、自民党内の多数派をまず抑える必要があります。ということは、仕掛けがスピーディーにできた場合は、安倍さんの解散の直前、あるいは選挙期間中にクーデターという荒業が必要になります。選挙に負けて安倍退陣となり、その場合の総裁選で自民党総裁のポジションを奪っても、前哨戦で負けているので小池との対決は受け身になります。ということで、作戦的にはSK連合の方に苦しさがあります。

12.そこまで考える中で、日本にはそんな政争をやっている余裕があるのかという強い疑問が湧いてきます。現状のような難局であれば、ポスト安倍は来年の秋にキチンと決めることにして、当面は現体制のもとで「コロナ危機の出口戦略」「経済再起動のためのファイナンス」「米国政変の場合の対応」「日米中の関係正常化」を進めるべきだと思います。ですが、どうやら、それだけのことをやり切るだけのエネルギーを、この政権はもう残していないようです。

であるならば、より政策実行能力のある政権を作るということが、日本としては急務であるに違いありません。例えばですが、菅さんが徹底的な黒子に徹して、二階氏の影響力を奪い、小池を引きずり込み、河野(茂木さんでもいいです)を顔に据えて、いや場合によっては小池を顔として利用(村山さんのように担ぎ上げる)してでもいいから、中道救国内閣を作る、その上で枝野的な左派ポピュリズム、吉村的な右派ポピュリズムはあくまで野党のまま、というような安定に持っていくのが一つシナリオとして考えられます。

あるいは、先ほどの「SK+公明+宏池会+平成研+立憲の一部」と「KN+維新+清和会残党+右派系」という対立軸を形成して、お互いに政策遂行能力のある二大政党の競い合いに持っていくというのはあるでしょう。

いずれにしても、この秋、アメリカの大統領選が進行する一方で、日本の政変にも注視して参りたいと思います。

image by: 首相官邸

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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