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地質学者が懸念する「令和関東大震災」と日本沈没の可能性。首都直下地震は近いのか?

今年に入ってから関東地方の内陸と近海周辺で地震の発生が相次いでいます。火山の噴火兆候や異臭騒ぎなど、地震の「前兆」と思われる現象も多数報告されていますが、以前より囁かれている「首都直下型地震」は近く本当に発生するのでしょうか? MAG2 NEWS編集部では今回、今年6月に千葉県沖で発生した地震と、大正時代の「関東大震災」との関連性を公表した地質学の専門家に、令和の「関東大震災」の前兆、そして長年の研究の中で浮上した「日本沈没」の可能性についてもお話を伺いました。

三浦半島で今年3度目の「異臭」騒ぎ。首都直下地震の前兆か

神奈川県横須賀市で21日午前、今年3度目の異臭騒ぎが発生した。住民から「ガスの臭いがする」という119番が約40件も相次いだという。横須賀市と同県三浦市では6月、7月にも同様の異臭発生による通報が多数寄せられていたが、いずれも原因は不明のままだ。ネット上には「過去一番にガス臭い」「横須賀、また異臭がする」といった投稿が相次いでいる。

そして、この異臭と関連付けられているのが、関東を震源とする首都直下地震の発生である。

巨大地震の前兆現象のひとつに「臭い」が含まれていることや磁石の磁力低下などの地震の前兆現象については弊サイトでも既報だが、ここまで異臭や磁力の低下、浅間山の噴火などの宏観異常現象が続くと、関東周辺での直下型巨大地震発生がいよいよ現実味を帯びてきたと言えるだろう。

Xデー間近?1923年と2020年の「千葉・銚子沖地震」に奇妙な符合

その関東直下地震の「予兆」を裏付けるデータを公表した人物がいる。過去に駿河トラフおよび日本海溝で「しんかい2000・6500」による潜航調査などを実施してきた、地質学研究者で理学博士の静岡大学理学部地球科学教室 名誉教授新妻信明(にいつま・のぶあき)氏だ。

新妻名誉教授は、自身のホームページ「新妻地質学研究所」に7月24日、千葉県銚子沖の九十九里スラブ(海洋プレートがマントル中に沈み込んだ部分)下面で6月25日に発生したM6.1の地震発生について、1923年9月1日の関東大震災の前にも銚子沖で同規模の地震が発生していたことを、過去の詳細なデータとともに公表した。以下、新妻氏の解説を引用しよう。

2020年6月25日に起こった銚子沖の地震M6.1は九十九里スラブ最大CMT規模であり、関東地震の再来が心配される。1923年9月1日大正関東地震M7.9の前年1922年1月から開始された定常地震観測によると、銚子沖の地震が関東地震の1-3月前に起こっており、台湾から琉球そして西南日本と関東域では今後の地震活動を注意深く見守るとともに、厳重な警戒が必要である。

つまり、大正時代の関東大震災の前震を根拠として、今年6月に発生した銚子沖のM6.1地震から1〜3カ月以内(8月初旬〜9月23日頃まで)に、関東周辺で地震が発生する可能性を指摘している。

では、あと1カ月程度の期間内に関東大震災と同規模の地震が関東周辺で発生する可能性はあるのか? 新妻氏にお話をお伺いした。

気象庁データで判明、関東大震災の前に起こる「7つの前震」とは

「関東地震は南海トラフ地震とともに地震予報の最大の対象ですので、7月24日のホームページの記事で詳しく述べました。その中で用いた表と図は、気象庁の震度分布データベースに基づいて作成した、大正関東地震前の地震活動です」(新妻名誉教授)

下記は、気象庁のデータベースをもとに新妻氏が作成した、大正関東地震以前の相模トラフ域観測地震を示した図である。左地図の「0」と書かれた部分が大正時代の関東大震災の震源地だ。

図01・大正関東地震以前の相模トラフ域観測地震(一部トリミング)。「6番」の左隣が2020年6月25日発生の銚子沖M6.1地震の震源地。関東大震災前に同地点付近で地震が集中していたことが分かる。(出典:新妻地質学研究所HP

関東大震災以前に発生した地震がその他の番号で示されているが、2020年6月25日に起こった銚子沖の地震M6.1の震源地周辺で、関東大震災前に地震が7回も発生していたことが分かる(2、4、6、8、9、10、11)。

これらの関東大震災前に発生した相模トラフ域観測地震を過去に遡って時系列で並べたのが下記の表だ。

表01・大正関東地震以前の相模トラフ域観測地震・歴史地震。緑色の34は最大歴史地震の元禄関東地震M8.2。(出典:新妻地質学研究所HP

上記の表01から、関東大震災前の最大観測地震である銚子沖の10番(M7.1)の1923年6月2日から、2番(M5.1)の7月21日までの間に銚子沖で発生した地震が、同年9月1日に発生した関東大震災の前震だと仮定すれば、今年6月25日の銚子沖地震から1カ月〜3カ月以内(8月初旬〜9月23日頃まで)に関東で大きめの地震が発生する可能性があるというのだ。

「関東地震の予報については、大正関東地震との比較が最も重要ですが、世界一複雑な地震活動ですので一筋縄には行かないのが現状です。気象庁が6月の銚子沖の地震は関東地方の地震と無関係とコメントしていましたが、大いに関係あることが理解していただけると思います」(新妻名誉教授)

気象庁は、6月の銚子沖地震を「今回の地震は平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震の余震と考えられる」とだけ発表していたが、新妻氏が指摘する通り、今後発生する可能性が高い関東周辺の地震と関係がありそうだ。

7月に入ってから関東地方の地震は収まりつつあり、あまり緊迫感はないが、大地震の前に前震が発生することは多い。近く発生するかもしれない地震が、大正時代の関東大震災級の地震となるか現時点では分からないが、警戒するに越したことはないだろう。

新妻氏の衝撃仮説「日本沈没シナリオ」の根拠とは?

また、新妻氏は2015年5月30日に小笠原西方沖で発生したM8.1、深さ682kmという世界最深級の地震(3日後の6月3日に同域でM5.6深度695kmと更に深い地震が発生)に関して、ある衝撃的な仮説を発表している。

それが「日本沈没の可能性だ。

2015年6月に自身のホームページで公開され、一部の地震研究者たちに衝撃を与えたこの仮説は、後に日本地質学会主催の第122年学術大会(於:信州大学長野キャンパス)でも発表された。その演題は『日本沈没が開始されたか』である。

作家・小松左京氏のSF小説を原作とした映画『日本沈没』の2006年版冒頭では、日本沈没の原因を「停滞スラブの下部マントルへの崩落」と説明していた。まさに映画の中で語られていたことと同じような現象が、太平洋プレートの下で起きている可能性はあるのだろうか。新妻氏は言う。

「あの2011年3月11日の東日本大震災も、垂直スラブの下部マントルへの崩落が原因なのかもしれないと考えています」(新妻名誉教授)

地球の地殻の下(地表から深さ約30km)から深さ2900kmのあたりまでの固体部分を「マントル」という。マントルは「上部マントル」と「下部マントル」に分かれており、その中間に「マントル遷移層」と呼ばれる、岩石の結晶構造が浅い(より低温・低圧な)条件下で安定なものから、深い(より高温・高圧な)条件下で安定なものに変わる領域が存在する。

図02・マントルの構造とマントル遷移層下部の「プレートの墓場」の存在(出典:国立大学法人 愛媛大学(地球深部ダイナミクス研究センター :GRC)『世界初!マントル深部の高温高圧条件下で地震波速度精密測定に成功』プレスリリース)

新妻氏は、先の2015年5月末から6月に小笠原西方で起きた深さ680km以上の深発地震について、太平洋プレート伊豆スラブ南端が、マントル遷移層よりも深い「下部マントル」に向かって崩落している可能性を指摘し、「日本沈没」の可能性について言及したのである。

映画『日本沈没』同様の「停滞スラブの下部マントルへの崩落」が太平洋プレートの下で起きている可能性があるという仮説を、新妻氏が自身のホームページで詳細なデータとともに示したのが、2015年6月20日。「速報68)日本沈没が開始されたか,地震断層面積移動平均対数曲線,2015年6月の地震予報」という報告だ。これは、日本地質学会の学術大会よりも前に公開されたものである。

噴火を続ける「西之島」と、一連の地震活動に関係が?

そして、今後の深発地震発生の指標となるかもしれないのが、2013年以降の噴火活動で海面に顔を出した、小笠原諸島にある無人島の火山島「西之島(にしのしま)」だ。

西之島の噴火は、東日本大震災から2年半後の2013年11月より開始している。西之島の噴火活動がピークを迎えた2014年9月から8カ月後、2015年5月に例の小笠原西方沖M8.1が発生している。そして、西之島は今年7月11日に、2013年からの観測後初の大規模噴火が確認された。2020年7月より半年〜8カ月後に、また小笠原西方沖M8.1級の深発地震が発生するのかもしれない。

「西之島は短冊のように繋がるスラブの切れ目に位置していることから地震活動と関係していると思いますが、マントル内で具体的に何が起こっているかは今後の研究課題です」(新妻名誉教授)

過去にもあった、日本海が拡大した後の「日本沈没」

「日本沈没」説の発表から5年。状況はどのように変化したのか。そして研究はどこまで進み、どこまで解明されたのであろうか?

新妻氏の研究によると、日本沈没は1400万年前の日本海拡大後にも起こっているという。下の図03を見ると、1300万年前の日本が沈没している様子がわかる。この時の日本沈没は、同心円状屈曲スラブが海溝よりも海洋側から下部マントルに崩落したもので、日本海を拡大した後に日本列島を沈没させたとしている。

図03・過去の「日本沈没」を示した、日本海拡大と同心円状屈曲スラブの下部マントルへの崩落と切断。(出典:新妻信明『屈曲スラブ沈み込みと日本海拡大.地質学会第121年学術大会講演要旨,R15-O18,136.』)

今後も、1300万年前と同じような「日本沈没」は起こりうるのだろうか。新妻氏のホームページで発表された最新の研究によると現在、伊豆・小笠原・マリアナ海溝域の沈込スラブ地震が活発化しているという。

そんな中、今年7月30日には伊豆海溝軸でM6.0の地震が発生した。新妻氏は、上記のホームページ上で「この海溝域の太平洋プレート沈込は、関東地方や東北日本、そして西南日本の地震活動に直結しているので、今後の地震活動を注意深く見守る必要がある」としている。

今後「沈没」の可能性がある地域は? 新妻氏の最新研究

では、直近で「沈没」の危険性があるところは、どこの地域なのか? 新妻氏が作成した下記の図04は、太平洋の伊豆・小笠原・マリアナ海溝域スラブの沈み込んだ様子を、世界で初めてマントル相転移と関係付けて可視化したものである。

図04・深度410km・550km・660kmのマントル相転移面支配下の伊豆・小笠原・マリアナ海溝域スラブの沈込様式(出典:新妻地質学研究所HP

上記の図04で、伊豆・小笠原海溝域の沈み込みを見ると、小笠原側の垂直スラブは下部マントルの深さにまで垂直に突き抜けて沈み込んでいる。

また、マリアナ海溝域の「横臥(おうが)スラブ」は、「Cの字」型の大きな弧を描いて沈み込んでいることがわかる。これはまるで、図03の日本海拡大後に「日本沈没」を起こした横臥スラブの形状と瓜二つではないか。

しかし、図04の「緑」と「黄緑」で色付けされた八丈島近くの2つのスラブ「Wing β」と「Wing γ」は、下部マントルがあるとされる660kmには達しておらず、途中で折れ曲がって横に翼のような形状に上へ反り上がっていることがわかる。つまり、この二つの海域のスラブの下部マントルへの沈み込みは起きていないということになる。

スラブが下部マントルへ崩落する理由と「相転移」

ここで重要になるのが、マントルの主な構成鉱物の「相転移」である。相転移とは鉱物の組成が変わらずに、温度・圧力の変化により物質の状態や構造が変化することだ。地球の内部は深くなるにつれて圧力が急激に増加するため、鉱物はその圧力を支えられる丈夫な結晶に構造を変化させる。

上部マントルと下部マントルの境い目は、マントルの主な構成鉱物である「かんらん石」の相が変化する「相境界」で、冷たいスラブが相境界にぶつかると、相境界が下に凹み、スラブが溜まる量が増えて相境界の浮力がスラブを支えきれなくなり、下部マントルへ向かって落下を始める。

しかし、相転移して高密度になったマントルの上では、相転移していないスラブは沈込めず、相転移したマントルの上に「翼スラブ」を形成する。図04の「Wing β」と「Wing γ」の両スラブを見ると、550kmの深さまでは沈み込まず、横へ広がって翼状に反り上がっている。新妻氏によると、スラブ先端がマントル相転移の深度に達していない場合には、スラブを翼状に押し上げるのだという。この「Wing β」と「Wing γ」の両スラブが下部マントルへ崩落することはないということだろう。

マリアナは沈没するかもしれない。新妻氏の衝撃「仮説」

だが、図04を見て気になるのは、下部マントルにまで沈み込んでいる小笠原の垂直スラブと、かつての日本海拡大と「日本沈没」の時に酷似しているマリアナの横臥スラブだ。

新妻氏は、上記のスラブの形状などから以下のような仮説を唱えている。

「1500万年前の日本海拡大は、横臥スラブの先端が下部マントルに崩落したことで起こったと考えています。今後、マリアナ海溝域の横臥スラブの先端が崩落すれば、マリアナは沈没するかもしれません」(新妻名誉教授)

これはあくまで新妻氏による仮説だが、今のところマリアナ海溝で横臥スラブの先端が崩落すれば沈没の可能性があると見ているようだ。万が一、この沈没が起きれば、すぐ北に位置する日本にも地震や津波などの大きな影響が出るに違いない。

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今後は、関東周辺の地震発生の「前兆」として、西之島の噴火活動および伊豆・小笠原・マリアナ海溝域周辺の深発地震、そして銚子沖の地震活動について、ますます注視していく必要があるだろう。日本の地殻変動はまだ始まったばかりだ。

取材協力:新妻信明氏(新妻地質学研究所

image by: ETOPO1, Global Relief Model / public domain

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