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地球温暖化のウソと本当。「私たちの心がけ」で日本の夏は涼しくなるのか?

大学などで教鞭をとる 「未来バンク事業組合」理事長で環境活動家の田中優さんは、自身のメルマガ『田中優の‘持続する志’(有料・活動支援版)』で、学生たちが「地球温暖化の解決策は、私たちのライフスタイルの変革」と答えたことに違和感をおぼえたというエピソードを紹介。個人や家庭が排出する二酸化炭素の割合は少なく、電力消費量も少ないというデータを示しながら、電力会社や原発の原子炉メーカー、そして日本政府らによる地球温暖化の「不都合な真実」を明かしています。

プロフィール:田中優(たなか ゆう)
「未来バンク事業組合」理事長、「日本国際ボランティアセンター」理事、「ap bank」監事、「一般社団 天然住宅」共同代表。横浜市立大学、恵泉女学園大学の非常勤講師。著書(共著含む)に『未来のあたりまえシリーズ1ー電気は自給があたりまえ オフグリッドで原発のいらない暮らしへー』(合同出版)『放射能下の日本で暮らすには?』(筑摩書房)『子どもたちの未来を創るエネルギー』『地宝論』(子どもの未来社)ほか多数。

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地球温暖化防止の別な視角

今年はいつもの年とは全く違う。車で別な土地を走っていればナンバーを隠したくなるし、歓迎されている気持ちにはならない。我が家の車のナンバーも岡山だから、都会から来ているわけではないのだが、今では「よそ者」であることが警戒され、悪いことをしているような気持になる。今年ほど「地方の排他性」を強く感じることはない。

岡山から妻の実家の新潟に来ているのだが、感染者数で言えば岡山の方が少ないほどだ。しかしその土地のナンバーでなければ、よくわからないから排除なのだ。そんな違和感を持ちながらいると、ふと別なことにも違和感を覚えた。 

「地球温暖化問題とその解決策」 だ。 

大学で授業をしていると、学生たちの思い込みにびっくりする。「解決策」と言えば、「私たちのライフスタイルの変革」だと返ってくる。まるでそう答えるのが「常識」のようになっている。だから授業で二酸化炭素の排出源の話をすると、驚いたという反応が多い。驚いていることに驚く。データに基づいた検証が伝えられていないし、学生たちは自分で調べたことがないのだ。 

二酸化炭素の直接排出量

二酸化炭素を排出しているのは個人や家庭ではない。圧倒的大部分は大きな企業から出されている。家庭などが排出するのはごくわずかだ。

家庭内で火力発電機など動かすはずがないのだから、もちろんそうだ。家庭内ではせいぜい灯油を燃やして暖を取ったりお湯を沸かすだけだろう。それと車を持っていればそのガソリンの消費が直接排出になる。 

その結果、日本全体に対する排出量の比率は、 家庭部門は4.6% にとどまり、「エネルギー転換部門」と表示される電力会社が直接排出の40.1%を占める 。圧倒的第一位だ。まず電力会社を改善しなければ、地球温暖化を防止することはできない。

二酸化炭素の間接排出量

直接に排出するのは電力会社の割合が圧倒的に大きいのはわかった。しかし、その電気を使っているのは家庭なのではないか。そう考えて「やはり家庭のライフスタイルの問題だ」としたがる学生も多い。

そこで間接的に電気を使うことで二酸化炭素を排出した分も家庭にカウントしてみたのが、図02だ。それでも 家庭は14.6% で、地球温暖化を解決できるほどには程遠い。仮にもう全く出さないぞと頑張ったとしても、14.6%しか減らないのだ。

残念ながら地球温暖化問題の解決に、「私たちのライフスタイル論」を持ち出した時点で落第なのだ。それでは解決はできないからだ。

おそらくそうした回答が多くなる理由はテレビのせいだろう。テレビというメディアはスポンサーがあって成り立つ媒体だ。その スポンサー の中で圧倒的に大きな力を持っているのが 電力会社 なのだ。日曜日のゴールデンタイムの広告主に電力会社が多いだろう。もしくは原子炉メーカーの電気メーカーの名を見ることだろう。その広告主相手に、 「地球温暖化の最大の原因は発電で、電力会社が二酸化炭素全体の四割を排出しています」 などと言う訳がない。地球温暖化の問題が大きくなればなるほど、その原因者である電力会社のことは知られなくなるのだ。

それでも意地っ張りな学生は、企業の商品を買い支えているのは家庭なのだから、家庭のライフスタイルのせいなのだと主張をしてくる者もいる。それを調べて特定商品のボイコット運動まで言うなら納得しても良いが、ここで中途半端に「私たちのライフスタイル論」でまとめようとするから論理が破綻する。これを評価しなければならない教員として、どうしたらいいのか悩んでしまう。メディアの洗脳の力はこれほどに強いのだ。

ここまでは、これまでも思っていたことだ。ところが今回おぼえた違和感は、これまでのものとは違うのだ。地球温暖化の原因は大気から宇宙空間へと放出される「赤外線放射」を遮ってしまう温室効果ガスで、その中でも二酸化炭素の比率が一番大きい。そしてそれによって現実に地球温暖化は進行している。それは事実だと思うし、温暖化に「陰謀論」を唱えるつもりはない。

しかしそれでも違和感をおぼえたのだ。これには量的にほとんど関係しない家庭の出番はない。なにせ電気だけに限定してみても、 家庭と小さな事業者の消費を合わせても22%しかなく 、その一方で工場に直接高圧線の電気をつなぐ「産業用特別高圧」と「業務用特別高圧」だけで電気消費の三分の二を占めるからだ(図03)。

図03 データ出典:電気事業連合会『2010年度分 電力需要実績(確報)

しかし違和感をおぼえたのは「解決策」を考えてきたからだ。その解決策として土壌の大切さや森の大切さ、微生物と「菌根菌」との共生関係 を含めて考えると、解決の可能性が出てくる。

なぜならば二酸化炭素の排出に、これまであまり考えられていなかった土壌からの二酸化炭素放出が大きかったためだ。もちろん化石燃料を用いる発電所や自動車の問題がだからと言って免責されるわけではない。しかしその二つの業態こそ、メディアのスポンサーの輝ける二大勢力であり、そこが自ら解決していく状況にはないためだ。

先日、日本政府が 「100基もの石炭火力発電所の休止・廃止」 を発表した。

しかし実際に休止・廃止されるのは2030年である上、 小さな発電所ばかりだ。それらを休止・廃止する一方で、高効率とされる石炭火力発電所と石炭ガス化複合発電(IGCC)については今後も使っていくと明言している。古いものが発電効率38%以下としていて、発電効率41~43%程度の超々臨界圧(USC)や46~50%程度のなどの高効率な石炭火力は今後も使っていく予定だという。パリ議定書で取り決めたのは、「2050年までに80%の温室効果ガスの排出削減」である。しかも発表したのは今年(2020年)7月2日で、新たに「効率が良いものとして石炭火力発電所を認めたばかり」だった。

6月30日にはJパワー(電源開発)の竹原火力発電所新1号機(広島県、60万kW)が営業運転を開始し、前日の7月1日には鹿島パワー(Jパワーと日本製鉄との折半出資会社)の鹿島火力発電所2号機(茨城県、64.5万kW)が、それぞれ営業を開始した直後であった。

本来なら二酸化炭素排出量の最も多い石炭火力発電所はすべて廃止しなければならないところ、今回の日本政府の発表は、石炭火力発電を今後も使い続けるという決意を示すものだった。それで二酸化炭素の排出量が激減するのであれば納得もできるが、図04で見る通り、古い小さな発電所ばかり休止・停止させても数は多く聞こえるが、設備の容量では石炭火力発電所のわずか10%ほどしか減らない。

図04 非効率石炭 100基休廃止の意味(出典:気候ネットワーク

その上、発電効率では高効率を名乗っても、発電効率が38%以下の亜臨界圧(SUB-C)や38~40%程度が41~43%程度の超々臨界圧(USC)や46~50%の高効率な石炭火力発電所に置き換わるだけだ。仮に平均で効率が5~10%良くなったとしても、その二酸化炭素排出削減効果は、従来の石炭火力発電の排出の5%程度しか減らせず、発電所全体の排出量からみるとほとんど1%も影響しないだろう。石油を燃料とした発電所と比較して、石炭はそれより約三分の一排出量が多く、天然ガスは石油より約三分の一少ないのだから、石炭を止めて天然ガスに変更するなどしないと大胆な削減などできないのだ。

これで 「2050年までに80%の温室効果ガスの排出削減」 というパリ議定書の約束を守ることなどできない。発電所は通常30~40年の耐用年数で予定するのだから、守るためには2050年の30~40年前に予定しなければならない。つまり2010年~2020年には切り替えられていなければ間に合わない。それを2020年になって「2030年からする」と言うのだから、「地球温暖化対策は日本はしないことにした」 と言っているに等しいのだ。

これは事実上の対策放棄であり、世界的な約束に対する裏切りだ。こんなことを平然とあたかもやっているかのように見せながら実施するのは、堕落しきった政府の証明だろう。これなら地球温暖化の事態ではなく、「温暖化対策を恐れている電力会社、自動車メーカー、経済界の人たち」にとっては有難いだろう。残念ながら温暖化の被害はこれで待ってくれることは微塵もないのだが。

その一方で地球温暖化を食い止めたいと考える人たちは、この二酸化炭素排出原因説だけでは何もできないままになってしまう。手をこまねいたまま様々な大災害を受け、そして一歩ずつ滅んでいくことを見守るしかないのだろうか。

そこから考え直した時、二酸化炭素原因説は間違いないと思うが、重心の起き方に間違いがあったように思うのだ。もし今の強欲で破滅に向かおうとする人々が思い直したとして、その時に何ができるだろう。

大地に炭を埋設していくことも大きな可能性だし、木々に炭素を吸収してもらうことも大きな可能性を持っている。家を無垢、低温乾燥の木造で建てることももちろん炭素固定になるし、土地に入れた炭は土壌の改善効果もある。

そしてこれまでに放出された二酸化炭素のうちの約半分が土壌から放出されていたのだとするなら、土壌を改善することにはものすごい量の二酸化炭素排出量の改善効果があるはずだ。(メルマガ『田中優の‘持続する志’(有料・活動支援版)』より)

image by: shutterstock.com

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環境活動家、田中優(たなかゆう)の有料・活動支援版メルマガです。地域での脱原発やリサイクルの運動を出発点に、環境、経済、平和などのさまざまなNGO活動に関わり、日本で初めてのNPOバンクを作りました。経験と知識と綿密なデータを基に、独自の視点で生み出した社会の新しい仕組みづくりのヒントや国内外を取材したお話をご紹介します。頂いた購読料の一部を、次の社会を作るための活動資金にさせて頂きます。

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