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女の敵は女?最後まで「女性活躍」を実現しなかった安倍政権の本音

以前掲載の「日本121位の衝撃。男女平等度ランクで中韓にも負けている現実」でもお伝えしたとおり、2019年の「男女平等度ランキング(男女格差報告)」で153カ国中で121位と、中国や韓国にも大きく後れを取った日本。「すべての女性が輝く社会づくり」というスローガンを掲げながら、なぜ安倍政権は7年8ヶ月もの間、「女性活躍」を進めるどころか後退させるという事態を招いてしまったのでしょうか。健康社会学者の河合薫さんが自身のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』で今回、その理由をさまざまな角度から検証・考察しています。

プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

ショーケースに並べられた“女性政治家”たち

安倍首相の突然の辞任表明で、第2次安倍政権が幕を閉じることになりました。

あちこちで色々な人が色々なことを書いていますが、7年8ヶ月という長期政権で全く変わらなかったことの一つが「女性活躍」です。

といっても、もうすでに日本社会には「女性活躍って何だっけ?」的な空気が漂っていますよね。…ひょっとしてこれが「女性活躍」の狙いだった?なんて、うがった見た方をしたくなるほど女性活躍は進みませんでした。

改めて言うまでもなく、この7年8ヶ月で、女性活躍に関する世界的な順位は年々下がっていってしまいました。この数年は、「あ~、またビリか」ってな具合に報道すらされなくなりましたし、7月には「え?それやっちゃうんだ?」という信じられない出来事があったのに、小さな囲み記事で伝えられただけでした。

なんと「社会のあらゆる分野で2020年までに、指導的地位に女性が占める割合を30%以上にする目標を確実に達成する」という文言が「できるだけ早期に達成する」にいう、全く意味のないフレーズに変えられたのです。

あれだけ「女性を輝かせる!」と豪語し、「女性活躍はトイレから!」などと“自称トイレ大臣”まで誕生したのに…、本当、なんだったんでしょうか、女性活躍。

まぁ、最初からキャンペーンのようなものでしたから、当然の末路なのかもしれません。

そもそも2012年の第2次政権の発足時に、野田聖子氏を総務会長に、高市早苗氏を政調会長に抜擢しましたが、自民党のリーダー的立場のお二人の「数値目標」への見解は大きく異なっていました。

某テレビ番組で、高市氏が「法的拘束力を持たせれば、女性の絶対数が少ないので人事に無理が出る。米国では黒人や女性を優遇した政策に対して逆差別だという議論も出た。慎重にしなければならない」と、数値目標に懸念を示したのに対し、野田さんは次のように強く反発。

「強制的に枠を作らないと女性が活躍する場所が生まれてこない。数値目標を持たないと、いつまでも有能な女性を生かしきれない社会が続く。韓国では女性に下駄を履かせる形で女性議員を増やした結果、女性大統領が誕生できたと私は推察している。まずは数を確保すること。社会の中枢で働く人たちが女性であり、職場で結婚、妊娠、出産、育児が当然のものになれば、あえて無理をしなくとも社会で女性が活躍できるように移行していくのではないか」と。

つまり、政府が掲げた「2020年に30%!」という数値目標達成のやり方にも、その数値目標自体にも、女性リーダーの間で認識が異なっていることが露呈したのです。

ところが、この問題は「女の戦い」にすり替えられてしまいました。お二人の女性リーダーの議論は、男性陣にとって格好のネタとなり、翌日メディアは一斉に、“女性活躍バトル勃発”などと報じたのです。

お二人は夫婦別姓問題の時にも、高市さんが「反対」、野田さんが「賛成」で対立したこともありましたから、「やっぱさ、女同士は怖いね!」などとほくそ笑んだおじさん方も多かったように記憶しています。

いずれにせよ、政府が女性活躍を掲げた背景の裏には、「女性の就業希望者(約342万人)が全員就業できれば報酬総額は約7兆円に上る。それが消費に回ればGDP1.5%増が期待できる」という試算が存在しています。

はなから女性の「顔」ではなく、「カネ」しかみていないのです。

確かに、働く女性は確実に増えました。でも、その多くは低賃金のパートなどの非正規雇用で、コロナ禍で多くの女性たち(もちろん男性も)仕事を失いました。

2014年の内閣改造時には、「《女性閣僚》改造の目玉 男性待機組50人『逆差別』の声も」なんて見出しが新聞各紙に踊りましたが、こういった思考回路そのものが、結局は女性を“ショーケースの展示品”扱いしているってことを意味しているのではないでしょうか。

日本の国会議員(衆院)や企業の女性管理職の割合は、依然1割程度でしかおらず3~4割が当たり前の英国やフランス、ドイツなどの先進国には信じがたい少なさなのに、「やりたきゃやればいいじゃん。女でも実力があれば評価するからさ」という考え方が基本なのです。

その“本音”と「女性活躍」というキャンペーンのあべこべが量産したのが、「スカートをはいたおじさん」たちです。

画面に映る政治家は「スカートをはいたおじさん」だらけです。組織の女性が紅一点であり続ける以上、「女性活躍」は前進はおろか後退します。その歴然たる事実を、7年8ヶ月という月日が証明したのです。

「紅一点の功罪」については、著書などでもくりかえし書いてきましたのでここでは書きません。しかし、7年8ヶ月もあれば、もっと変えることができた。もっと増やすことができた。本気で「女性活躍」に取り組んで欲しかった。クォーター制の議論をきちんとやって欲しかった。残念です。本当に残念です。

「組織を変えたきゃ、若者、よそ者、バカ者を入れろ!」という通り、若者もいなけりゃ、よそ者=女性もいないのです。おまけに「おかしいことをおかしい」と言えるバカ者もいません。

ポスト安倍は「アベノミクスを継続できる人」のようですが、昭和おじさん型社会がこのまま続いていってしまうのでしょうか。

みなさんの意見もお聞かせください。

image by: 首相官邸

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米国育ち、ANA国際線CA、「ニュースステーション」初代気象予報士、その後一念発起し、東大大学院に進学し博士号を取得(健康社会学者 Ph.D)という異色のキャリアを重ねたから書ける“とっておきの情報”をアナタだけにお教えします。
「自信はあるが、外からはどう見られているのか?」「自分の価値を上げたい」「心も体もコントロールしたい」「自己分析したい」「ニューストッピクスに反応できるスキルが欲しい」「とにかくモテたい」という方の参考になればと考えています。

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