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なぜ「大阪都構想」を東京版朝日が報じる?違和感から見えてきたもの

去る9月3日、大阪市議会はいわゆる「大阪都構想」の協定書を承認し、2015年以来2度目となる住民投票の実施が決まりました。メルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』著者でジャーナリストの内田誠さんは、翌4日の朝日新聞(東京本社版)が1面でこの件を取り扱った違和感を解明するため、昨年9月以降の「大阪都構想」関連の記事を分析。そうして見えてきたのは、菅政権が誕生すれば、大阪維新の会が中央政界でも影響力を増してきそうな動きで、その存在が日本政治の重要な要素になりそうだと指摘しています。

大阪都構想を《朝日》はどう取り上げてきたのか

さて、今朝の紙面では、「大阪都構想」についての記事に軽い違和感がありました。記事の中身についての違和感ではなく、大阪都構想が取り上げられること自体についての、ちょっとした唐突感です。首都圏の読者の関心からはやや遠いものとなっている都構想について、《朝日》はどんなふうに取り上げてきていたのか、調べてみたいと思います。

便宜的に、まだ新型コロナウイルスの存在が知られていなかった昨年9月、丁度1年前から記事の展開を見てみることにします。まずはきょうの《朝日》1面と3面の記事。見出しから。

(1面) 「大阪都構想」 11月住民投票 2度目 (3面) 大阪都構想 なぜ今再び コロナ下で住民投票実施へ 吉村知事、感染対策で存在感示す 「住民サービス向上」不透明 菅氏からの後押し 維新期待

まず、1面については【セブンNEWS】第3項目を再掲します。

大阪市を廃して4つの特別区に再編する大阪都構想の制度案につき、大阪市議会は大阪維新の会と公明党の賛成多数で可決。大阪府議会に続いて議決したことで、前回2015年に続き2度目の住民投票が行われることになった。10月12日告示、11月1日投開票。

続いて、3面記事について。何より重要なのは、2回目の投票が決まったのは、これまで都構想に反対してきた公明党が賛成に転じたからだということ。《朝日》曰く、「住民サービスの維持や財政状況の見通しなどの課題は残ったまま」で、コロナ禍での投票を不安視する声もあると。

●uttiiの眼

この「大阪都構想」の2度目の住民投票実施を巡っては、政治過程を巡る様々な対立と競合が織り込まれている。維新は1回目の投票で敗れた後、大阪府知事選と大阪市長選のダブル選挙を2回も仕掛け、維新の「1丁目1番地」の政策である都構想を掲げて圧勝。執拗に、構想実現を目指している。

最も強力な反対者は現在のところ共産党と自民党の大阪府連。公明党も反対していたが、国政での維新との対決を回避しようとして「賛成」に転じ、市議会でも府議会でも都構想実現派は多数となった。維新はコロナ禍で吉村府知事の存在感が高まったのを機に、小中学校給食無料化の1年前倒しや未就学児への一律5万円給付など、「住民投票を意識した大盤振る舞い」を仕掛け、住民投票で勝とうと必死だ。

しかし、都構想で住民サービスが向上するかどうかは不透明で、新自治体設置のコストは嵩み、スケールメリットも今後失われていくとの指摘がなされ、10年間の歳出削減効果と経済効果はいずれも最大1.1兆円との試算には、82カ所もの誤りがあったという。さらにコロナによる税収減というマイナス要素も計算外。市民による議論が必要になる訳だが、市が行う説明会は僅か8回で、前回の39回を大きく下回る。

維新が特に期待するのは、「菅政権」。松井氏と菅氏の個人的なパイプがあり、菅首相が実現すれば、検案となっている「大阪都」への名称変更もスムーズに行くのではないかと見ているようだ。

思うに、全国的に自公の関係は続くのだろうが、菅政権下、関西圏では圧倒的な強みを見せる維新と自民が「協力」していくことを通じて、結果的に自民・公明・維新の保守的な連合が成立するのかもしれない。これまでも維新は、安倍政権に絶大な「協力」を惜しまなかったが、都構想の住民投票を機に関係を深めようとしている。菅次期首相と安倍氏にしてみれば、改憲についても具体的な「協力」に進む絶好のチャンスが訪れると見ているのかもしれない。

関連記事など

この1年間に《朝日》が掲載した「大阪都構想」関連記事は、サイト内には78件。特に「大阪都構想」について論じていないものを除けば、60件くらいはありそうだ。特徴的な記事を何本か取り出して見よう。

昨年の9月頃、《朝日》はまず橋下徹氏へのインタビューを掲載。1回目の住民投票時に維新の代表だった橋下氏に単独で聞いている。話のキモは、「僅差の勝利なら先送りしていた」と明かしたこと。まあ、負けた上で言っていることなので、信じる必要はない話だが、2回目をやる理由としてはなかなかに強力なロジックにも思える。

《朝日》はその後の6日付けで、市長選で敗れた元自民党市議の柳本顕氏、橋下氏を何度も取材しているジャーナリストの田原総一朗氏、都構想に一貫して反対し続けている共産党の大阪市議団長、山中智子氏の3人に意見を聞いている。柳本氏は、都構想を「分断と対立、不公平を生む可能性がある」と批判、田原氏は、選挙に連勝中の維新への支持は「単なる期待感に過ぎない」と斬って捨て、山中氏は都構想には「百害あって一利なし」と断じている。

11月。《朝日》の大阪社会部は『ポスト橋下の時代』と題する書籍を発表。維新が橋下引退後も圧倒的な強さを見せる秘密などに迫る取材記録をまとめている。12月には府と市の法定協議会が2025年に大阪市を廃止するなど、構想の具体案を決定したことがニュースになった。ここらあたりから、記事には、「大阪市をなくして4つの特別区に再編する大阪都構想」という言い方が使われるようになる。住民投票は11月実施の方向に。

4月頃、年末に安倍晋三、菅義偉、松井一郎、橋下徹の「波長が合う」4人による恒例の食事会の様子をきっかけに、維新と自民の関係についての記事などが出る。維新は大阪では反自民の立場で既得権益批判を展開しつつ、各地域で自民が売りにする「政権との太いパイプ」をアピールできる。歴史上繰り返されてきた「補完勢力」の大阪バージョンとでも言うべきか。

5月末、《朝日》は「大阪都構想」を批判する社説を書く。公聴会を中止しておいて投票は実施するという判断に対して、「住民と直接向き合い、様々な声を聞く場を大切にすることが、首長としての務めではないか」と。さらに、定住外国人が投票から排除されていることについても批判。

6月。前原誠司元外相が維新と勉強会を起ち上げ、「大阪都構想を応援する」と発言。7月。維新の候補が東京都知事選で善戦。立憲民主党に危機感。同月、高市早苗総務相が都構想最終案について「特段の異論はない」とした。その後、維新は「発祥の地・大阪から「東征」を伺い始めた」という角度からの記事が何本か。都構想については自民党府議団の賛否が8対8の同数に割れたことなど。

様々問題のありそうな制度改変が、強力な政治的リーダーシップをもって行われようとしている事例であり、維新が中央政界でも1つの「台風の目」のようになってきている事情から、重要なテーマになってきている。特に、まもなく誕生する菅政権との関わりは、日本政治の重要な要素になっていくのだろう。

image by: Shutterstock.com

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ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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