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あなたのTwitterは監視されている。裏アカウントはどう会社にバレるのか?

「裏アカウント特定サービス」に批判殺到

「人事・採用担当者の皆様へ。就活生の本当の趣味嗜好や日常の過ごし方、考え方を知りたくありませんか」そんな謳い文句でスタートした、ツイッターの「裏アカウント特定サービス」に批判が殺到している。「裏アカウント」は、メインとは別に用意した匿名のアカウントを示すネットスラング。裏アカ、裏垢などと呼ぶこともある。

サービス運営者は企業調査センター(東京都千代田区)。同社はニュースリリースで「採用候補者のアカウントを特定し、面接だけでは見抜けない人間性まで精査することで、問題社員を誤って採用してしまうことを防げる」旨を謳う。

これに対しツイッター上では、「プライバシーに対する意識が低すぎる」「濡れ衣の場合はどうするのか」「愚痴さえ許されないのか」など、疑問や反発の声が広がっている。

同社のリリースは「人事の9割は採用候補者のSNSをチェックしている」ともしているが、実際はどうなのか?

企業はあなたのSNSをチェックしている

20年以上に渡って大手求人サービスの運営に携わった後、関西方面で社労士を開業し、現在は人事コンサルタントとして活動しているN氏は、実状をこう語る。

「9割がチェックしているという明確なデータはないと思います。大手企業がネットで炎上中のサービスを利用する可能性も低いでしょう。ただし、企業の人事担当者の多くが候補者のSNSアカウントを注視しているのは事実です。その際、芋づる式に“裏アカウント”が発見され、選考結果に影響を与えてしまうケースも実際にあります」

新卒の就活生はもちろん、中途採用組としても気になるツイッターの「アカウントばれ」問題。どのような点に注意すれば被害を防げるのか?詳しく話を聞いた。

ツイッターアカウントはなぜバレるのか

就職・転職活動に必須の履歴書や職務経歴書には、応募者の氏名・生年月日・住所など、詐称ができない正確な個人情報が多く含まれている。

企業側はこれらの情報を用いて、応募者を採用する前にコンプライアンスチェックを実施する。これは新聞記事データベースなどを参照し、反社会的勢力との繋がりが疑われる犯罪歴などの有無を確認するものだ。さらに、Googleなどの検索エンジンで応募者の風評チェックを行う企業も多いが、ここで問題が発生するという。

「履歴書や職務経歴書に応募者が自己PR目的でSNSアカウントを記載している場合、それはもちろんチェックされますが、選考に影響を与えることはほとんどありません。問題は、応募者が自分では隠しているつもりのアカウントが特定されてしまうケースです」(前出・人事コンサルタント)

「アカウントばれ」の原因として典型的なのは、履歴書や職務経歴書に記載したメールアドレスのユーザー名(@よりも前の文字列)を、ツイッターなど他のSNSで使い回してしまっているケースだという。

しかし、「ユーザー名の使い回し」に気をつけたとしても、それだけでは安心はできない。

「SNSのユーザー名を、自分の氏名やニックネーム、生年月日にちなんだものにしている人は特に危ない。時間をかければ、比較的容易にアカウントを特定されてしまいます」(前出・人事コンサルタント)

仮に、1998年3月15日生まれの「まぐ山まぐ子」さんという応募者がいるとする。こういう場合に、SNSのユーザー名を「magyama0315」「magko1998」など、氏名や生年月日にちなんだものにしている人は多い。

このような文字列をメールアドレスのユーザー名に設定し、SNSで使い回すのは論外だが、そもそも氏名や生年月日の組み合わせから作成できるユーザー名のパターンは限られるため、総当たり的な手法とWeb検索を組み合わせてSNSアカウントを特定されてしまうリスクが高いという。

アカウント特定の方法は「ユーザー名」だけではない

とはいえ、これでバレるのはあくまで「表アカウント」でしかない。普段から“表アカ”で常識的にお行儀よく振る舞い、さらにユーザー名を使い回さなければ、「裏アカウント」まで発覚するという最悪の事態は防げるのではないだろうか?だが、実際にはそうではないという。

「ユーザー名による表アカウントの特定は初歩の初歩。そこから連鎖的に裏アカウントが特定されるルートは他にもいろいろあります」(前出・人事コンサルタント)

意図せず「裏アカウント」が特定されてしまう人には、大別して“3つのスキ”が生じているという。次ページから、アカウントばれ防止の注意点について、さらに詳しく聞いてみた。


プロフィールや投稿内容から特定される

隠しているはずのツイッターアカウントが発覚してしまう、「ユーザー名」以外の“3つのスキ”とはいったい何なのか?

前出の人事コンサルタントによれば、それは「ツイッターの表アカウントや、実名SNSで公開している情報」を起点とした、「プロフィール文」「投稿内容と時間帯」「アイコン画像や写真」における油断や気の緩みにあるという。

まず「実名で公開している情報」に関してだが、ツイッターの表アカウントはもちろんのこと、LinkedInやFacebookなど実名を前提にしているSNSの利用は、常に「裏アカウント」発覚の危険をともなう。投稿内容は真面目なものであっても、意識しないうちに細部にわたって数多くの情報を晒してしまっていることが多いのだ。

たとえば、ツイッターで「千葉/20代/就活中/デザイナー志望/代理店インターン/アメリカ留学/立ち飲み/食べ歩き」といった形式の自己紹介をよく見かけるが、実名SNSと匿名SNSで、このプロフィールを使い回している人は意外に多い。丸々コピペは論外としても、興味関心が少し特殊な組み合わせになっている場合、それを手がかりに裏アカウントが特定されてしまう。

さらに、投稿内容にも注意が必要だ。たとえユーザー名やプロフィールを巧妙に隠蔽していたとしても、「きょうは採用面接で六本木に行った」とか「最終面接では事業部長が出てきた。威圧感があって好きになれない人だった」などの具体的なツイートは危ない。同様に、「インターン3日目」「きょうは大嫌いだった部長の送別会」といった内容も避けるべきだという。

「自分の身の回り、特に会社関連で起こったイベントをリアルタイムでツイートするのは、企業側に『絞り込み検索条件』を与えているのと同じ。自分のアカウントを見つけてくれと言っているようなものです」(前出・人事コンサルタント)

アイコン画像や写真からのアカウント特定も

SNSに投稿する時間帯にも要注意だ。大学の講義中や前職の就業時間中と思われる時間帯に頻繁にツイートしていれば、それだけで社会人としての資質を疑われ、危険人物の烙印を押されてしまう。

さらに、盲点になりやすいのがアイコン画像だ。複数のSNSで同一アイコンを使い回している場合、文字列からは特定できなくても、画像検索を用いてアカウントを特定される危険性が高まる。

仮に画像検索をくぐり抜けたとしても、ある時間帯のツイートを総当たりでチェックされるなどした場合に、アイコン画像が文字通り個人特定の“目印”となるケースもあるという。

アイコン画像すら危険ということは、表アカウントと裏アカウントに同じ写真を投稿するなどもってのほかということになる。すでに表アカウントを把握されている場合、“攻撃者”がその気になれば、自撮りはもちろん料理から風景まで、公開状態にあるすべての写真に関して、他のアカウントで同じものが使用されていないか、しらみつぶしにチェックされることもあり得るわけだ。


慌てて“鍵”をかけても遅い

さて、このような「アカウントばれ」の危険を察知した場合、どう対応すればよいだろうか?特定のツイートを削除したり、投稿内容がフォロワー以外に公開されない「鍵付きアカウント」に変更すれば安全なようにも思える。だが、現実にはそれでは不十分だという。

「万全を期すなら、一時的にでも何らかのスキを見せてしまった時点で、すべてのツイートは保全されていると考えたほうがいいでしょう。企業側が巧妙にフォロワーに紛れ込んでいる可能性もあるため、鍵アカウントに移行したからといって安全とは限りません。そのアカウントは破棄するしかない」(前出・人事コンサルタント)

鍵付きアカウントのフォロワーに“攻撃者”が紛れ込むパターンでは、作成日、ユーザー名、プロフィール、フォロワー数、ツイート数などが不自然に見えないアカウントが用いられることが多い。“攻撃者”は、いずれ鍵がかかることを予想して、先回りでフォロワーに紛れ込んでいるのだから、あとから見分けるのは不可能に近くなる。「まともな企業」がそこまでやる可能性は低いともいうが、リスクの1つとして頭の片隅に入れておくにこしたことはない。

それでも「裏アカ」やりますか?

最後に、前出の人事コンサルタントに、ツイッターの「アカウントばれ」に関する個人的な見解を聞いた。

「裏アカウント特定サービスに、就活生が反発したくなる気持ちはわかります。私も同じ立場なら嫌ですし(笑)ただ、炎上中のこのサービスは使わないにしても、企業側ではいわゆる反社チェックを普通に行っていますので、そのプロセスで多かれ少なかれSNSは見られているものと考えたほうがいい。現実的な対策としては、いつ誰に見られても問題がないツイートを心がけるしかないでしょうね」

ツイッターでは、寂しい、目立ちたいという気持ちが強い人や承認欲求が強い人ほど、足をすくわれやすいので注意が必要だという。どうしても毒を吐きたいときは「ZoomやLINEで、完全にクローズドな環境でやるのが一番」ということだ。

「ちなみに、本気で裏アカウントを運用するなら、ご紹介したすべての注意点に加えて、メインアカウントと匿名アカウントのフォロー・フォロワー関係を完全に断ち切ること。初期フォロワーは真っ先に情報を“掘られる”恐れがあるからです。さらに、スマホや回線は専用のものを用意する必要があります。アカウント作成時のメールアドレスや電話番号も他サービスで利用していないものを用意し、自宅のWi-Fiアクセスポイントにすら接続しない。VPNも利用して、完全に別の人格を演じることができれば、特定はほぼ不可能になりますが……ただ、そこまでして裏アカウントを運用する意義はあるのか、個人的には疑問ですね」(前出・人事コンサルタント)

就活生の中には、あえて容易に個人を特定できるように細工した「裏裏アカウント」を用意して、そこで志望企業や人事担当者、面接官を計画的に「ヨイショ」しまくる強者もいるという。SNSアカウントをめぐる応募者と企業の“騙し合い”は、今後もますますエスカレートしていきそうだ。

image by: rafapress / Shutterstock.com

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