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ディズニーではなく中国に怒れ!映画『ムーラン』を襲った2つの不幸

新型コロナウイルス感染拡大の影響で、予定より4ヶ月以上遅れ、しかも配信サービスのみでようやく公開されたディズニー映画『ムーラン』ですが、さらなるトラブルに見舞われているようです。今回のメルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』では台湾出身の評論家・黄文雄さんが、ボイコット運動に発展した主演女優の政治的発言と、その運動を加速させることとなった「不都合な撮影場所」を紹介。さらに、「すべてが政治」である中国と絡むことによりもたらされる結果と、それを予測できなかった製作者側の落ち度を指摘しています。

※本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2020年9月9日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:黄文雄こう・ぶんゆう
1938年、台湾生まれ。1964年来日。早稲田大学商学部卒業、明治大学大学院修士課程修了。『中国の没落』(台湾・前衛出版社)が大反響を呼び、評論家活動へ。著書に17万部のベストセラーとなった『日本人はなぜ中国人、韓国人とこれほどまで違うのか』(徳間書店)など多数。

【中国】中国と絡むと映像作品も政治化する怖さ

ディズニー映画「ムーラン」、民主活動家がボイコット呼び掛け

コロナ禍で何度も延期になってきたディズニー映画『実写版ムーラン』がついに公開されました。日本では、ディズニープラスという配信サービスのみでの公開です。本来ならば、4月17日公開予定だった映画ですが、何度も延期された上に、劇場ではなく配信サービスでの公開となったようです。

2億ドル(約212億円)という膨大な製作費は、ディズニー映画の実写版の中でも最も多い額だと言われています。そして、ムーランという物語の舞台は中国であることから、すべてのキャストは中国人。主演は中国の人気女優の劉亦菲(リウ・イーフェイ)。彼女は、1,000人を超える応募者の中からオーディションで選ばれ、撮影開始の半年前から役作りのためのトレーニングを積んでいたそうです。

そのほか、ジェット・リー、ドニー・イェン、コン・リーといったスター俳優も名を連ねています。日本向けの予告動画は以下のサイトから見ることができます。

ムーラン/予告編|9月4日よりプレミアアクセスで独占公開 Disney+(ディズニープラス)

ボイコットの引き金となった主演女優の発言とは

ディズニー映画であることから、ヒットは確実と見られていましたが、コロナ禍により延期が繰り返され、やっと公開されても配信のみで劇場公開はできずじまい。この時点ですでに大きなケチが付いてしまった大作映画ですが、さらにこの映画にケチがつく出来事が起こりました。主演の劉亦菲の政治的発言により、映画鑑賞ボイコット運動が起こったのです。何を言ったかについては、以下、報道を一部引用します。

発端は、同作に主演するリウ・イーフェイ(劉亦菲)が2019年、香港の民主化デモを暴力で抑え込もうとする同地の警察が批判されるなかで、警察を支持する考えを表明したこと。彼女は、中国版ツイッターと呼ばれるウェイボー(微博)に「私は香港警察を支持します。誰に批判されても構いません。香港は、なんて残念なことなのでしょう」と投稿していた。

出典:ディズニー実写版『ムーラン』にボイコットの動き、その理由とは?

これに反応したのは、王丹をはじめとする香港警察に虐げられている香港人たちでした。理不尽な香港警察に対して支持を表明するこの女優は中国共産党のイヌだ、『ムーラン』を見て彼女を支持するのはやめて下さい、といった運動が起こりました。

劉亦菲挺港警「往死裡打」 王丹:拜託台灣人抵制花木蘭!

エンドロールで明らかになった「不都合な撮影場所」

ハプニングはこれだけではありませんでした。やっと公開された映画を見た観客からのある指摘によって、さらにボイコット運動は勢いを増しています。以下、一部報道を引用します。

さらに今月7日には、映画のエンドロールに新疆自治政府の機関が複数掲載されていることを、ソーシャルメディアのユーザーが発見。トルファン市の治安当局や、「中国共産党・新疆ウイグル自治区委員会広報部」といった名前もあった。エンドロールの名前を指摘した呉志麗さんはツイッターで、「(新疆は)文化的ジェノサイド(大量虐殺)が行われている場所だ。ディズニーは新疆で広範囲な撮影を行ったが、字幕では『中国北西部』と表記されていた」と指摘した。

 

中国の専門家エイドリアン・ゼンツ氏はBBCの取材で、トルファン市の治安当局は、ウイグル人の「再教育」を行っている部署だと説明。また、エンドロールにあった「広報部」は新疆でプロパガンダ政策を任されている部署で、収容施設の建設や、施設内の警備員の雇用も行っているという。ゼンツ氏によると、トルファン市では少なくとも2013年8月から「再教育」が始まった証拠があり、女性がヴェールをまとったり、男性がひげを生やしただけで収容施設に送られている。(中略)香港の著名な民主化活動家の黄之鋒(ジョシュア・ウォン)氏も「事態はどんどん悪くなっている!」とツイート。「ムーランを観ることで、あなたは(主演俳優の立場によって)警察の暴力と人種的不正義に目をつむるだけでなく、ウイグル人の集団監禁に共謀する可能性も出てきた」。

出典:ディズニー新作映画「ムーラン」、新疆で撮影 エンドロールで発覚


※ 編集部注:新疆ウイグル自治区とは

中国当局によるウイグル族への人権弾圧が国際問題化している地域。「中国に走る動揺。予想以上だったトランプ『国交断絶』恫喝の効果」等でもお伝えしたとおり、トランプ政権は「ウイグル人権法案」を可決するなど批判を強めている。


この運動は、香港、台湾、タイなどを中心に広がっています。タイでは劇場公開となっているため、ボイコット運動が過熱すれば観客が来ないのが一目瞭然となります。

共産党に迎合せざるを得ない中国人芸能人の宿命

この件について、私の見解を述べさせて頂くと、もったいないという感想です。もちろん、作品を作るにあたってディズニー側と共産党との取引はあったでしょうし、撮影部隊が数か月間トルファンにいたかもしれません。撮影しているすぐそばに収容施設があって、その中ではウイグル人たちが苦しい日々を送っていたかもしれません。

ただ、作品を作っている人々は政治的事情とは関係なく、真剣に作品作りに勤しんでいたはずです。主演女優も、体力も精神力も必要だったことでしょう。出来上がった作品は、予告編やメイキングを見るだけでも、壮大なスケール感のある魅力的なものです。

中国では、ジャッキーチェンがそうであるように、中国人として芸能活動を広げるためには、共産党に迎合しなければならないのも、彼らの宿命です。そうしなければ、活動の場を奪われ、場合によっては逮捕される可能性もあります。

中には香港の歌手である何韻詩(デニス・ホー)さんのように、共産党に立ち向かう勇気ある人もいますが、それは本当にごくわずかです。多くの中国人は、自身を守るために共産党に迎合せざるをえないのです。それは、中国で芸能生活を展開している台湾の芸能人たちも同様です。

ただ、劉亦菲という人は、アメリカで育っている上に、中国国籍とアメリカ国籍の両方を持っているようです。少なくとも、中国を国外から見る視点を持っている人であり、国内にしがみつかなくても生きる術のある人が、あえて共産党に迎合している点については、私も疑問です。もしかして、本当に共産党に心酔しているのかもしれません。

最大の悪は「中国共産党」という事実

どちらにしても、彼らの思想や発言と撮影場所が批判されたことで、作品が埋もれてしまうのは残念です。この件について、ディズニー本社の広報は特にコメントをしていません。この件で責められるべきは、共産党を擁護した劉亦菲かもしれませんし、トルファンでの撮影を問題視しなかったディズニー本社かもしれません。

もちろん、こうしたボイコットが続けば、中国で撮影するリスク、中国を擁護する発言をすることのリスクが顕在化するとは思います。撮影場所は中国以外にしておけばよかったと思いますし、劉亦菲もディズニーも批判されても仕方ないとは思います。「すべてが政治」である中国と絡めば、どんな芸術作品も政治化してしまうのです。そのことに思いが至らなかったのは、製作者側の落ち度でしょう。

ただ、忘れてはいけないのは、最大の悪は中国共産党だということです。中国と関連したということで、作品を批判、ボイコットすることだけが自己目的化してしまっては本末転倒です。

ウイグル人を搾取し虐げているのは中国共産党です。『ムーラン』ではありません。そこを混同してはいけないと私は思います。女優やディズニー社に目を奪われ攻撃力が分散するよりは、共産党に攻撃を集中させれば世界は共産党を排除することができるかもしれません。コロナ禍後の世界はその可能性に向かって努力するべきでしょう。

ディズニーが主張すべき、「ムーランは周庭さんだ」

また、ディズニーも中国のカネ目当てではないことを示すためにも、今度は香港の民主活動家、周庭さんをモデルにした映画をつくったらどうでしょう。そうすれば、バランスがとれるのではないでしょうか。あるいはディズニーが「ムーランは周庭さんだ」とアピールしてもいいかもしれません。せっかくすばらしい作品なのですから、そう宣伝したらどうでしょうか。

ムーランは中国に侵入してきた北方騎馬民族のフン族を、男装の女性戦士が撃退する話ですが、北方から来た悪の中国共産党を撃退しようとする周庭さんにも重なるのではないでしょうか。

実際、香港では「周庭さんこそ真のムーランだ」という声も少なくありません。女性の不屈の精神を描いた作品だけに、作品を封じるよりも、そうした拡散の仕方のほうが、人々に届くのではないかと思います。

保釈された民主活動家・周庭さん、ディズニー映画にちなみネットで「香港版ムーラン」の声


 

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image by: Kathy Hutchins / Shutterstock.com

※ 本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2020年9月9日号の一部抜粋です。初月無料の定期購読のほか、1ヶ月単位でバックナンバーをご購入いただけます(1ヶ月分:税込660円)。

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