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菅政権“デジタル化”の笑止。モリカケ桜の解明なくして日本は効率化できぬ

看板政策の1つにデジタル改革を掲げ、かつ安倍政権の継承を明言し船出を果たした菅内閣。デジタル化の機運はかつてないほどの高まりを見せているようにも感じられますが、総理の思惑通りすんなりと進むのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、前政権から続く隠蔽体質を改めぬ限り、デジタル化に欠かせない国民からの政府への信頼を得ることは不可能とし、菅内閣がまず正面から向き合うべきこと、国民に示すべきことを記しています。

菅首相の隠ぺい体質はデジタル化の最大の障壁

平井卓也デジタル担当大臣は、この国のデジタル化に5年はかかると言う。ただでさえ遅れているのに、そんなにかかるのか。

いや、それさえも眉唾ものかもしれない。なぜなら、情報公開に後ろ向きの政権だからである。

安倍前政権を継承するといって憚らない菅政権。官房長官時代の菅氏ときたら、モリ・カケ・サクラといった安倍首相がらみの疑惑について徹底して国民への説明を拒んできたのだ。

森友疑惑の公文書改ざんについて、自ら命を絶った近畿財務局職員の妻が再調査を求めても、菅首相は調査は終わっていると素知らぬ顔だ。隠ぺい体質が菅首相にはしみ込んでいる。

デジタル政府には、マイナンバーカードの普及が不可欠だ。それは政府への信頼があってこそ可能なのだ。国に個人情報が筒抜けになることへの不安を払拭できないかぎり、マイナンバーカードを安心して使う気にはなれない。それでは、デジタル庁をつくっても、これまで通り、何も進まないだろう。

北欧の小さな国エストニアは電子立国といわれるデジタル先進国だが、それが可能になったのは、情報を包み隠さず国民に知らせる政府に信頼が寄せられているからだ。日本のマイナンバーにあたる国民ID番号とIDカードから個人情報が政府に悪用されたり、データが漏れ出したりする心配をする必要のないシステムになっているのだ。

未来型国家エストニアの挑戦 電子政府がひらく世界』(ラウル・アリキヴィ、前田陽二共著)という本が出版され、デジタル化社会では世界の最先端を走るエストニアの取り組みが紹介されている。

その冒頭に、エストニア政府CIO、ターヴィ・コトカ氏が「発刊に寄せて」という文を寄稿しているが、それを読むと、なぜエストニアにデジタル化が進んだのか、その歩みがよくわかる。

エストニアでは130万人の国民がスイスやオランダよりも広い国土に点在して暮らしている。1991年にソ連の占領が終わって独立すると、独自の立法システムの開発をスタートした。ちょうどインターネットが発展する時期と重なっていた。「インターネットは国が小さな経済力で広い国土で効果的に機能するための唯一の方法でした」とコトカ氏はいう。

インターネットを活用して国づくりをするうえで避けて通れないのは、「認証」の問題だ。

コンピュータを操作している本人の身元を認証するために、政府は市民のための安全なデジタル・アイデンティティを開発する必要があった。…北欧の国々には数十年間前から、国民のためのユニークな識別子(国民ID番号)が存在し…国民ID番号の問題で混乱することはありませんでした。…最大の課題は、人々が電子サービスを利用し、安全なeIDカードを利用する方法を見つけ出すことでした。

eIDカード、日本でいえばマイナンバーカードにあたる。これを安心して保有、使用し、デジタル化のメリットを享受するためには、個人情報の漏洩、不正使用などが起こりえないシステムの構築とともに、政府の信用が欠かせない。

エストニアではeIDカードを義務化したが、広く市民に理解され、利用されるまでに5年かかったという。それでも実現できたのは、行政の情報公開が進んでいるからだ。

たとえば、政府が作成した文書はWEB上で公開するよう法律で定められている。機密文書については、その理由を政府が開示しなければならない。権力者が国民を監視する仕組みをつくったり、情報を隠ぺいすることは非常に難しい。そのうえ、報道の自由を重視し、誰であろうとメディアに圧力をかけることができない社会風土が醸成されている。

もちろん、日本政府だってこの20年、デジタル化への意欲だけは示してきた。

2001年に、高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)を設置し「5年以内に世界最先端のIT国家になる」とぶち上げた。その結果、ブロードバンドインフラについては高い水準に達した。

しかし、そのインフラを生かし、行政と国民生活の隅々まで行き渡るデジタル国家には至らない。各省がバラバラにIT投資、施策を進めたためである。その背景には、省庁や族議員とつながっている経済界の既得権益がある。

戦後日本の経済を牽引してきた鉄鋼、電気、自動車など、垂直統合型の大組織や経営思想が、その確固たる成功体験ゆえに、デジタル化への発想転換を阻んできたのだ。

業界横並びやリスク回避指向の強い大企業が、政府の過保護に頼って生きのびてきた結果、必要な淘汰や世代交代が進まなかったこともあげられるだろう。いまだに合併して企業規模を大きくすることしか思いつかず、日本のように垂直統合型の巨大製造業がなかった中国などにデジタル分野では大きく水をあけられてしまった。

再び、エストニアに目を向けてみよう。そこでは、どんなデジタル社会が出現しているのであろうか。

たとえば、会社設立。日本では多くの書類が必要で、登記申請が面倒だが、エストニアではインターネットで30分もあればこと足りる。司法書士の手を借りる必要はなさそうだ。

もちろん、eIDカード(マイナンバーカード)のたまもので、役所で住所変更をしたり病院で処方箋を発行してもらうのもスマホやPCがあればOK。健康保険、処方箋、カルテがオンラインで結ばれているため、転院しても、新たな検査の必要がほとんどない。投票はインターネットででき、もちろん税金の申告も。

つまりほとんどすべての行政サービスがオンライン化されているといっていい。例外は結婚、離婚、不動産売買くらいのものだという。このように便利なデジタル社会で肝心なのは、先述したようにマイナンバーカードへの信頼性だ。

国が国民を監視したり管理したりするのに使われないか、なりすましや、個人情報の漏洩はないのか、などの恐れがわれわれ日本人には根強くある。

では、エストニアのeIDカードへの信頼性はどこで担保されているのかを見てみよう。

電子政府の本質をなすのが「X-Road」というシステムだ。これを金融機関など民間が利用し、社会全体のセキュリティを形成している。

情報はセキュリティ・サーバ間でやりとりされ、暗号化されてインターネット上に送信される。すべてのメッセージには署名がされ、署名鍵は認証局である第三者機関(X-ROADセンター)に登録される。セキュリティサーバーにより、誰がいつ利用し、どのような意思決定が行われたかなどを復元できる。

カードを紛失したらすぐに再発行し、パスワードも変えられる。よほどのことがない限り、なりすましの被害にあうことはないというのが、エストニアの人々の認識だ。

国のシステムを信用し、国民の監視などに悪用されることはないと確信しているからこそ、エストニアでは電子化がしっかりと根付いているといえよう。

翻って、日本ではどこまで、デジタル社会へのスムーズな移行が可能かを思うと、ため息が出てしまう。

世界最先端デジタル国家創造宣言の名のもとに今年2月にまとめられた「官民データ活用推進基本計画」にはこう書かれている。

関係府省庁は、マイナンバー制度及び国地方を通じたデジタル基盤の構築に向け、地方自治体の業務システムの早急な統一・標準化を含め、抜本的な改善を図るため、年内に工程を具体化するとともに、できるものから実行に移していく。

これは安倍政権のころに作成されたものだ。菅政権ではデジタル庁をつくり、より推進力を高めていくということなのだろう。しかしそのためには、先述したごとく、乗り越えなくてはならない壁がいくつもある。

まずなにより、政権への信頼が地に堕ちている。いくら素晴らしいシステムを開発しようとも、情報公開すらまともにできないのでは、国民に安心せよと言っても、無理なこと。

まずは、モリ・カケ・サクラなどあらゆる疑惑に正面から向き合い、フェアに調査し直す必要がある。全ての資料を出すことによって、国民に隠し事をしない政府の姿を示すべきである。

ただし、業界団体、政治家の既得権、天下りの省益など、もろもろのしがらみに対する破壊力を、果たして平井卓也大臣が持ち合わせているかとなると、甚だ心許ないのだが…。

image by: 首相官邸

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