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トランプvsバイデンのTV討論会は「非言語の闘い」プロが徹底分析

アメリカの現地時間9月29日午後9時に始まった米大統領選の第一回テレビ討論会。トランプ大統領とバイデン候補が初めて激突した世界最大の政治ショーは、「話し方のプロ」の目にはどのように映ったのでしょうか。経営者やトップアスリートにスピーチトレーニングをおこなっている「スピーチのプロ」森裕喜子さんは、自身のメルマガ『スピーチコーチ・森裕喜子の「リーダーシップを磨く言葉の教室」』の中で、今回の米大統領選のテレビ討論会について大統領候補者がどんな風に何を話したのか、「話し方」「言葉」「場の雰囲気」などの視点から徹底分析。二人のスピーチによって、どのような人柄とリーダーとしての資質が垣間見えたのか詳しく解説しています。

米大統領選テレビ討論会トランプVSバイデン、どちらに軍配?

このメルマガでは「大統領候補者がどんな風に何を話したか」、記憶に残った「話し方」「言葉」「場の雰囲気」等について考察します。

立候補されるすべての方に敬意を払いながら「伝わるリーダーとは」の視点で書くものです。

アメリカ大統領選討論会は2020年9月29日(火)夜9:00(米国オハイオ現地時間、日本時間9月30日午前10時)から行われましたBS1NHKの生放送で観ました(同時通訳版)。

アメリカの有権者は、1億人以上の人がこの番組を見るそうです。ものすごい数の視聴者たちが、エンターテイメントのように楽しむといいます。

「この人、どんな人?」を有権者は知りたい。

政策も大事だけれど、候補者の表情や話し方、声の調子、服選び、相手の話を聞く態度などを見るわけです。

何を言うか「言語メッセージ」も大切ですが、どう言うか「非言語メッセージ」も大いに影響するのが大統領選。

大統領選はちょっと遠い世界のようですが、我らビジネスに活きる者としては、トップリーダーの言語・非言語メッセージを見る絶好の機会。ご自身のスピーチやプレゼン画面でも参考にしていただけるよう、スピーチコーチの視点でのレビューをお届けします。

ニュース番組の予習?のような感じでお読みいただけたら幸いです。

米大統領選の行方を決める討論会の1回目

場所は、選挙戦の鍵を握るオハイオ州。初めての直接対決、90分の勝負、テーマ6つについて討論。現状を簡単にまとめました。

※見所:予測不可能なトランプさんに、バイデンさんがどう反応するか?

※直近の両者支持率(日本時間9/30 AM7時):トランプ氏43.2%、バイデン氏49.3%

その差6.1%でバイデンさんがリード。前回大統領選同時点でヒラリー氏がトランプ氏に2.3ポイント、リード。バイデンさんの優勢さがわかりますね。

image by: Gino Santa Maria / Shutterstock.com

トランプ氏情報:
この討論会直前には、納税疑惑や不規則発言が懸念。最高裁判事指名の件でも話題になりました。支持率で少し負けているトランプさん、今回の討論でどんな作戦に出るか?

imag by: lev radin / Shutterstock.com

バイデン氏情報:
現在77歳。就任すれば米大統領史上最高齢、年齢的に健康不安などが懸念材料? この討論会はそれらを払拭するチャンス。

6つのテーマで討論

1テーマに15分。テーマ決定および司会はフォックスニュースのクリス・ウォレスさん。

<6テーマ>

ボタン外しとポケットチーフ。両者の「第一印象」を比較

ご両人が登場、いずれも紺のスーツ。

画面背景は薄いブルーでしたから、濃紺はよく映えます。ステージの足元は、赤い円形に星マークが入ったカーペットです。あえて舌戦を落ち着かせるような、夜空のような雰囲気が。

会場には、もちろん人はいません。トランプ氏、バイデン氏、司会のクリスさんだけ。

トランプさんは白いシャツ、紺に細い赤のストライプが入ったネクタイ。やっぱり今日もジャケットのボタンは閉めていらっしゃいません。

トランプさんのボタン外しは、前回選挙からの謎。パリッとスーツを着こなす姿も米国大統領のイメージだったのですが、トランプさんになって大きく変わってしまいました。

一方、バイデンさんは、というと、ちょっと意外なネクタイの柄、シルバーと紺のシマシマストライプです。ぱっと見て顔色が明るく見えましたが、もう少し縞が細かったらテレビ的にはハレーション(目がチカチカする状態)が起きそうな感じで、ちょっと気になりました。

さらに! ポケットチーフが目を引きました。3つの山がある形「スリーピークス」でしたでしょうか。それがかわいらしく胸ポケットから覗いていて、なんだか懐かしささえ感じる。庶民的な面もお持ちのバイデンさんらしさかな、と思いました。

90分立ちっぱなし、水も飲まない持久戦。それに耐えられるように、でしょうか、両者が立つ演壇の縁には、ぐるりとレザー調の手すりのような部分があります。そこに両手を置いて話せば、安定して立っていられる工夫が見えました。

冒頭からトランプ陣営の戦略?

ディベートが始まるなり、場がヒートアップ。

司会やバイデンさんが話し終わらないうちにトランプさんが話し出します。冒頭で場を占有してバイデン候補を圧倒しよう、というトランプさんの戦略でしょうか。

司会者も、トランプさんに「ちょっと待ってください、質問させてください」を連呼。

それでもやめないトランプさん。バイデンさんは話そうにも話せないため、しばし下を向いて我慢する様子も何度もありました。

討論というより、奪い合いのような感じです。有権者は、この様子をどう捉えたのでしょう。

カメラ目線で国民に訴えがバイデン陣営

特に印象に残ったのは、バイデンさんはカメラ目線で国民に訴えかける発言が多かったことです。

「(トランプ氏は)皆さんの健康、安全を脅かそうとしているのです」

など、複数回語りかける場面がありました。

一方で、「あなたは史上最低のアメリカ大統領だ」「トランプ大統領は嘘つきです」と強く発する場面も。これはニュースで切り取られるハイライトになると思います。

激しく応戦する姿と、トランプさん発言時には落ち着いてトランプさんを見る姿。全体的に安定していた印象ですし、当初心配されていた年齢による健康問題も、気になりませんでした。姿勢も良く、トランプさんからどんな攻撃があっても笑顔で流す余裕がありました。

トランプさんは、常にバイデンさん目掛けて激しく攻撃する姿、自画自賛コメントが目立ちました。

「コロナ対策は良くやったと評価を得ている。ワクチンも数週間でできるだろう。マスコミはフェイクを流すが、私はいい仕事をしている」

トランプさんが話す際の特徴は、いくつかあります。ジェスチャーは右手が多く、親指と人差し指をつけて、左右上下に振るのがトレードマークのように何度も。また、体をでんでん太鼓みたいに少し揺らすのですね。アゴも左右に振りながら、言葉を発します。

今回もトランプ節が絶好調の話ぶりですが、バイデン攻撃に徹し、国民に向けたメッセージ、想いのような言葉は見当たらなかった印象です。

米大統領選、非言語メッセージの歴史

そもそもはテレビが登場したことが発端です。ケネディVSニクソンがモノクロの画面に映ったとき、ダークスーツに身を包んだケネディさんがはつらつと映り、薄い色の上着のニクソンさんには、頼もしいリーダーの印象とは言いづらかった。

ラジオ放送ではニクソンさんがパワフルだと言う印象もあったそうですが、声、顔、姿のトータルで、ケネディさんに支持が集まり、勝利。

この時から、大統領候補は皆イメージ戦略に力を入れてきたわけですが、それでも完璧とはいかないようです。

このように、過去の非言語的失態例を見ると、自分が話している時”以外”にポイントがありました。

自分が話しているときは緊張感を持てます。でも、聴衆はそれ以外の瞬間を見ているものなのです。

ふとした瞬間にボロが出る、素顔が覗く。

非言語メッセージの恐ろしさは、そんな盲点を突かれること。気を抜いた瞬間、あるいは日々のちょっとした癖。これが命取りになる可能性があるのです。

みなさまも、非言語には要注意!

トップの立場は、いつどこでどう見られているかわからない。これはスピーチトレーニングの際にも、口を酸っぱくしてお伝えしています。普段のコミュニケーションでも、些細な仕草が相手に何かを伝えているかもしれません。

テレビ同様、オンラインでの発信する際にはこの非言語に注意が必要です。四角い画面に映ると額縁に入ったように見えるため、全ての視覚聴覚情報が強調されます。

姿がちょっと揺れただけでも安定感がないように見え、ふと指が顔に触れただけでも、弱さ、不安要素に見えてしまうのです。

実際の例を挙げますね。

シンポジウムのパネリストとして登壇された方に同行していたときのこと。その方は、真剣に他のパネラーの話を聞いていらしただけなのですが、眉間に深いシワを寄せて話し手をじ~っと凝視。

そのお顔が会場の大画面に大写しになってしまいまして、あ、どうしよう、と焦りました。

たった一瞬の表情で、手強く厳しすぎる論客としての印象を与えかねません。

このように、非言語メッセージは実際の状況や本質とはちがう「何か」を伝えてしまうことがある。

ですから、リーダーの皆様、非言語には要注意なのです。

次の討論は来週、副大統領候補のディベート。ペンス氏とハリス氏の対決です。

個人的には、やはりカマラ・ハリスさんがどう話すのか、見てみたい! また、レポートできたらと思っています。

お読みいただきありがとうございました。

※この内容は、BS1NHKの生中継を観てまとめたものです。発言者のコメント等については原語からの直訳ではないため、正確さを欠く場合があります。その点はご容赦願います。

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【関連】 石破は堂々、菅チラ見、岸田ゆらゆら。総裁選「演説」をプロが辛口分析

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2020年9月配信分
  • 大統領選討論会は非言語メッセージの闘い〜トランプVSバイデン話し方比較【リーダーシップを磨く言葉の教室】号外(9/30)
  • 初のまぐまぐ!ライブ、ご視聴ありがとうございました【リーダーシップを磨く言葉の教室】号外mini20200927(9/27)
  • 拝啓 菅総理:スピーチ分析と活用法【リーダーシップを磨く言葉の教室】2号(9/22)
  • 自民総裁選討論会「石破氏菅氏岸田氏はどう話したか?」話し方考察レビュー(9/12)
  • 自民党総裁立候補演説 当日レビュー/「リーダーシップを磨く言葉の教室」号外20200908(9/8)

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2020年8月配信分
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◆レッスン内容 ~今日からできるメッセージ力の高め方とは?
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image by: No-Mad / Shutterstock.com

森裕喜子この著者の記事一覧

清泉女子大学英文学科卒後、大手印刷関連会社で勤務。その後、ジャズボーカリストの夢を叶えるが、挫折。外資製薬会社に転職しマーケティング部でハードな業務に取り組む中、外国人のスピーチやプレゼンに多く触れ、日本人リーダーの発信力向上の必要性を痛感。30年以上に渡る声の経験にマーケティング、イメージコンサルティング、コーチング、リーダーシップ各論を掛け合わせ、2011年「ボイスイメージ®コンサルティング(VIC)」メソッドを開発して独立。業務で聞いたクライアントのスピーチプレゼンの数は1万回以上(延べ数)。顧客の可能性を引き出すスパルタトレーニング、わかりやすい理論と分析、柔軟に対応できるコンサルティングを得意とする。

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