生活の変化とともに、さまざまな届け出を出さなければいけないことは多々あります。しかし、それを忘れてしまった場合どうなるのでしょうか?特に年金は老後の生活に直結するお金なので、届け出を忘れることで損をしてしまうかもしれません。今回の無料メルマガ『年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座』では著者のhirokiさんが、年金の届け出を忘れていた場合はどのような対処をすべきなのか、そしてその場合の年金額はどうなるのかを第3号被保険者期間を例に挙げ解説しています。
過去に年金に関する届出を忘れてた期間を年金記録に結びつけて年金増額!はしたものの…
年金を貰い始めた後、これからこの年金額で暮らすのかと思っているとふとした時に、年金額が変更される事があります。原因はいろんなのがあってキリがないんですけど、65歳前後で変わる事や在職してたから変更された等は特に問題が無い年金額変更の特徴ではありますが、過去の記録が違ってたとかで年金額が訂正されるという事もあります。
13年前ごろに発覚した消えた年金記録問題以降は、しばらくの間は年金額が訂正される人が非常に多くなりました。年金の本来あったはずの記録が漏れてそれが見つかり、年金に反映されて年金額が訂正され、増額になるというパターンだけでなく、過去の手続きをすべきだった部分を忘れていたために年金額に反映されずになったままというパターンも存在します。
今回は、国民年金第3号被保険者期間の事で考えていきましょう。
国民年金第3号被保険者期間というのは昭和61年4月以降のサラリーマンとか公務員の夫(妻)の扶養に入ってたような専業主婦(主夫)だったというような期間です。この第3号被保険者期間はよく、年金保険料を支払わなくてもちゃんと支払ったものとして、将来の65歳から支給される老齢基礎年金に反映される期間です。
※ 参考記事
保険料支払わなくても年金が貰えるという国民年金第三号被保険者がそもそも不公平ではない理由とその歴史的な仕組み(2019年7月有料メルマガバックナンバー)
とはいえ、何もしなくても第3号被保険者にしてもらえるというのではなく、ちゃんと手続きをする必要があります^^;今現在は夫(妻)の勤める会社経由で年金事務所に第3号被保険者の届け出をします。うちの配偶者を第3号被保険者にしたいのであれば、この届出をする必要があります。
ところが昭和61年4月1日から平成14年3月31日までの期間はこの届出は、第3号被保険者になる人が自ら市町村に届け出なければならないという違いがありました。なので、この手続きをうっかり忘れていた人は第3号被保険者になれるのかどうかはわからないため、せっかく3号になれてたのになれていない人がいたりします。
3号になれていたらわざわざ国民年金保険料を毎月支払う必要もなく、支払わなくても未納扱いにはならなかったのに未納になったりして損をしてるような状態ですよね。まあ年金貰うまでにその記録が本当は第3号被保険者になる期間だったという事に気付かれれば記録を訂正して、第3号被保険者期間にする事はできます。
ところが65歳以降の年金を貰い始めてから、「この過去の期間は私は夫の健康保険にも入れていたし、第3号になれてたはずなのよね~」と疑問に思って、仮に訂正されたとしたら…年金額が増額に変更されても損をしたりします。それはどういう事なのか。
このうっかり3号の手続きを忘れていた人が過去の記録を3号にしてもらう制度に3号特例制度というのがあります。通常は過去の被保険者期間というものは保険料徴収の時効の関係があって、たとえば国民年金保険料は未納期間が過去に何年もあっても2年間しか遡れないという事になります。仮に厚生年金保険料なんかも保険料を徴収する時効は2年となっています。
よって、過去の第3号被保険者期間として訂正しようにも保険料には2年の時効があるので(3号は保険料取らないけども)、2年を超える前を3号被保険者期間にしようとしても3号に訂正できない事になります。でも、過去にそういう手続きを忘れていた人には、2年を超える期間のものであっても特例として第3号の届け出を忘れてた部分を第3号被保険者期間にしましょうというのが3号特例です。
本来はこういう手続きというのは本人のうっかりミスみたいなもんですが、平成17年3月31日までの期間についてはなんで手続きし忘れたの?みたいな理由は不要で3号特例が使えます。特例を使えば必ず第3号被保険者になるのではなく、本当に3号に該当する人だったのかを確認した上で記録が訂正されます。
という事で、今回は国民年金第3号被保険者の3号特例を使った場合の年金増額と、ちょっと損してる部分を考えてみましょう。
1.昭和23年8月29日生まれの女性(今は72歳)
20歳になる昭和43年8月から昭和44年3月までの8ヶ月間は短期大学に通う。この短期大学の期間は国民年金に加入する必要は無く、任意の加入だったため迷った結果加入するのをやめた。加入しなければ年金記録としてはカラ期間となる(年金の受給資格期間10年に含む)。
昭和44年4月からは就職して昭和48年9月までの54ヶ月間は厚生年金に加入する。なお、昭和48年10月にサラリーマンの男性と婚姻して寿退職したため、この54ヶ月間厚生年金に加入した分の保険料は脱退手当金としてこの女性に返還した。昭和61年3月31日以前の期間には加入した厚年期間の保険料を返すという制度があった。昔は厚生年金は原則としては20年以上加入しないと貰えない制度だったので、20年を満たせない人に対しての救済のような制度だった。
昭和61年4月1日からはどんな職種の人であろうと国民年金の被保険者となり、将来は65歳になれば全員が共通の年金として老齢基礎年金を貰う事になった。違う業種に変わろうが年金の期間(最低25年→平成29年8月からは10年)に混ぜ込んで、国民年金被保険者期間全体で25年以上を満たして、その上で1ヵ月でも厚年や共済期間があれば1ヵ月でも厚年や共済を支給する事にした。
国民年金の被保険者期間全体で25年以上(今は10年以上)を満たして、その中で1ヵ月でも厚年期間があれば厚年が貰えるような制度に昭和61年4月から大改正されたので、脱退手当金の制度はとりあえず廃止された(グッと年金に結び付きやすくなったから)。
さて、54ヶ月間は返還されたのですが、年金期間に組み込むカラ期間にはなる。昭和48年10月からはサラリーマンの専業主婦になり、昭和59年3月までの126ヶ月間は任意加入だったがここは任意加入して納付した。昭和59年4月からは再就職して平成5年8月までの113ヶ月間は厚生年金に加入する事になった。なお、この間の平均給与(平均標準報酬月額)は26万円とします。
平成5年9月からはまた専業主婦になってサラリーマンの夫の扶養に入る事になった。夫の健康保険の被扶養者となった。この女性は厚生年金から外れた事により、国民年金保険料を自ら支払わないといけないと思っていたが、サラリーマンの夫の扶養に入っていれば国民年金保険料は支払わなくてもいいみたいな事を聞いていたので、特に何もしなかった。ちなみに夫は平成16年3月で定年するとします。
ところが、女性は何も手続きしてないから平成5年9月から平成16年3月までの127ヶ月間は未納状態になっていた。夫の定年後も女性が60歳前月の平成20年7月までの53ヶ月間は未納とします。
さて、この女性は60歳になったので60歳から厚生年金が支給される年齢となりました。まず貰えるほどの年金期間を満たしてるか確認。
保険料納付済み期間239ヵ月+カラ期間62ヵ月=301ヵ月≧300(25年以上)を満たしてたので、113ヶ月分の厚生年金が60歳から貰える。ちょっと今回は60歳からの年金額は計算せずに65歳からの年金額を計算します。
・老齢厚生年金(報酬比例部分)→26万円×7.125÷1,000×113ヵ月=209,333円
差額加算は少額の為、この記事では省略します。
・老齢基礎年金→781,700円÷480ヵ月×239ヵ月=389,221円
よって65歳からの年金総額は
・老齢厚生年金209,333円+老齢基礎年金389,221円+夫の配偶者加給年金から振り替えられた振替加算92,884円(この女性の生年月日による)=691,438円(月額57,619円)
この年金額を65歳(平成25年8月受給権発生)から受給していた。
71歳のある日、過去の資料などで自分の年金記録をよーく確認してみたら平成5年9月から扶養に入っていたのに未納となっていた事に疑問が出てきた。そこで年金事務所に相談に行くと、第3号特例を使える事になった。国民年金第3号被保険者期間となるのは平成5年9月から平成16年3月までの127ヵ月。
そうすると、老齢基礎年金額が239ヵ月+127ヵ月=366ヵ月で計算しなおされる。第3号特例の請求は令和元年9月にやったとする。これにより、請求の翌月の令和元年10月から老齢基礎年金額が781,700円÷480ヵ月×366ヵ月=596,046円になる。ここで年金総額は老齢厚生年金209,333円+老齢基礎年金596,046円+振替加算92,884円=898,263円(月額74,855円)となる。
まあ、過去の未納記録が第3号被保険者になった事で、老齢基礎年金額が増額しましたよね。でも本来なら65歳から貰えていたものですが、71歳の時に変更されたので請求月の翌月からの年金額変更となりました。ちょっと6年分くらい損してますね^^;
3号期間の手続き忘れをしていたかどうかに対しては年金請求時に聞き取りや記録確認等で判明したりしますが、そのまま何もなかったかのように年金受給に進むと3号特例請求が遅れてしまって今回のように損が生じる場合がある。年金記録には過去の消えた年金記録問題なども含めて注意する必要があります。
なお、平成17年4月以降の3号期間の手続き漏れについては、やむをえない理由の場合の届け出漏れの場合に適用されます。
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