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菅首相の6人任命拒否で暴かれた、安倍前首相が犯していた憲法違反

日を追うごとに批判の声が強まり、今秋の国会で野党が追及の構えを見せている、菅首相による日本学術会議の推薦候補6人の任命拒否を巡る問題。学問への政治介入とも言える重大な事案ですが、その種は安倍政権時代に蒔かれていたようです。今回のメルマガ『きっこのメルマガ』では人気ブロガーのきっこさんが、2016年に安倍前首相が同会議の欠員補充候補3名の推薦を拒否していた事実を紹介するとともに、その「首謀者」が当時の菅義偉官房長官だった可能性にも言及。さらに、今回の任命拒否に関して菅首相が強行突破を目論めば、内閣が吹き飛ぶほどの大問題になるとも記しています。

三権分立を無視して暴走する菅義偉

先週の9月30日(水)は第5水曜日で通常版のメルマガは休刊だったので、通常版は前回の第88号から2週間のインターバルが開いてしまいました。

そのため、世の中では、テニスの大坂なおみ選手とジャーナリストの伊藤詩織さんが米タイム誌の「世界で最も影響力ある100人」に選ばれたり、トランプ大統領夫妻が新型コロナ感染しりと、いつも以上にいろいろな出来事がありました。その中でも、第一報であたしが最も驚いたのが、10月1日に日本共産党の「しんぶん赤旗」がスクープ報道した「日本学術会議が推薦した会員候補105人のうち6人を菅義偉首相が除外していた」という耳を疑うようなニュースでした。

すでに報道で何度も聞かされていると思いますが、日本学術会議とは「原子力三原則」などの科学に関する重要事項を審議するための科学者の組織で、政府への提言も重要な仕事です。210人の会員は非常勤の国家公務員という立場になり、会員の任期は6年で、半数の105人を3年ごとに入れ替えるという、参議院議員と同じ方式です。また、定年の規定が70歳なので、定年を迎える会員がいる場合は、その前に補充の人事を行ないます。

日本学術会議は、内閣総理大臣の管轄で国費で運営されていますが、憲法23条の「学問の自由」によって保障された「政府の影響を受けない独立した組織」です。そのため、会員の任命権者は総理大臣ですが、これはあくまでも形式的なもので、総理大臣は会議が推薦した会員候補105人を黙って承認することしかできません。しかし、菅首相は、この「形式的な任命権」というルールを無視して、自分にとって都合の悪い候補者6人を排除したのです。

6人が6人とも安倍政権下の悪法を批判して来た学者

個々の紹介は長くなってしまうので割愛させていただきますが、菅首相が除外した6人は、「特定秘密保護法」や「共謀罪」や集団的自衛権の行使を可能にした「安全保障関連法」など、これまでの安倍政権が強行して来た「アメリカの子分として戦争に参加するための悪法」に強く反対している学者たちです。百歩ゆずって、何の関連もない6人が除外されたのであれば、それは「政治介入」とは言えないかもしれません。しかし、6人が6人とも安倍政権下の悪法を批判して来た学者なのです。時の首相が自分の政権にとって都合の悪い学者を排除したという、これは上下左右どこからどう見ても、憲法違反の「政治介入」です。

この「形式的な任命権」の分かりやすい例を挙げると、総理大臣の任命も同じなのです。

現在の菅首相の場合なら、まず初めに自民党内で総裁選が行なわれて総裁に選ばれましたが、まだ「自民党の代表」というだけで、総理大臣ではありません。次に、9月16日に首班指名選挙が行なわれ、自民党の菅義偉総裁が314票、立憲民主党の枝野幸男代表が134票、日本維新の会の片山虎之助共同代表が11票、希望の党の中山成彬代表が2票、自民党の小泉進次郎議員が1票という投票結果で、菅総裁が総理大臣に指名されました。しかし、まだ「国会の代表」というだけで、総理大臣ではありません。

この後、憲法第6条に基づき、任命権を持つ天皇より総理大臣を任命されて、これでようやく菅総裁は日本の総理大臣になれたのです。これも「形式的な任命権」ですから、天皇は「NO」と言うことはできません。どんなに気に入らない相手でも、首班指名選挙によって選出された人物は任命するしかないのです。今回、菅首相がやったことは、首班指名選挙によって選出された安倍晋三に対して、天皇が「こいつは日本にとって百害あって一利なし」と判断して総理大臣の任命を拒否する、ということと同じなのです。

そうしてくれていたら、どんなに良かったか…とは思いますが、もしも天皇がそんなことをしたら、日本は民主主義国家ではなくなってしまいますし、象徴天皇による国政への介入は憲法第4条に違反します。しかし、これと同じことを菅首相はやってしまったのです。これは「憲法違反」というだけでなく、歴代の自民党政権の政府見解にも反しています。日本学術会議の会員の選出が選挙制から推薦制に変わった1983年、当時の中曽根康弘首相は5月12日の参議院の文教委員会で、次のように答弁しています。

「(学術会議の会員の選出は)学会や学術集団などの推薦に基づいて行われるので、政府が行なうのは形式的任命に過ぎません。実態は各学会や学術集団が推薦権を握っており、政府の任命はあくまでも形式なものです。そのため、学問の自由独立は保障されているものと考えております」

また、当時の中曽根内閣の丹羽兵助総務長官も「学会から推薦したいただいた者は拒否しません」と断言しています。

とても分かりやすい説明ですよね。いくら政府に任命権があると言っても、学会側から推薦された候補者を黙ってそのまま任命するだけの「形式的な任命権」なので、学問の自由独立は保障されており、学問への「政治介入」という憲法違反は起こらないという説明です。そして、この中曽根首相の認識は、2004年に現在の「日本学術会議による推薦」という形に変わってからも、ずっと踏襲されて来ました。それは、この認識が変わり「形式的な任命権」でなくなってしまうと、憲法違反になってしまうからです。

ルール違反好き。トンデモ元総理・安倍晋三氏の罪

しかし、長く続いて来た法律の解釈を、自分に都合よく勝手に書き変えてしまうトンデモ総理が現われたのです。そう、安倍晋三氏です。法律を変えたいのであれば、その法律に関する改正法案を提出して、国会で審議するのが筋です。たとえ自公プラス維新という数の暴力による強行採決でも、こうした手続きを踏めば、その法改正は民主主義の結果ということになります。でも、何の手続きも踏まずに、その法律の条文の解釈を自分勝手に変更することで、それまでとは別の法律にしてしまう。これは卑怯で卑劣、民主主義を根底から否定する反則です。

しかし、安倍晋三氏という人物は、皆さんご存知のように、ルール違反が大好きです。その最たるものが、2014年7月1日に閣議決定した「集団的自衛権の行使容認のための憲法の解釈変更」、つまり「解釈改憲」です。たとえば、白かったものを薄い灰色に変えるくらいなら「解釈変更」で済む場合もあります。しかし、地球の裏側の国まで武装した自衛隊を出動させて他国の戦争に参戦することを「自衛の範囲」とする「解釈変更」などありえません。これは、真っ白だったものを真っ黒に塗り替える内容変更ですから、「解釈改憲」ではなく、正式に「憲法改正」の手続きを踏まなくてはなりません。

このように安倍晋三氏を暴走させた原因は、本日二度目の登場ですが、これも中曽根康弘元首相なのです。中曽根元首相は、小泉政権下の2004年11月11日の衆議院憲法調査会の公聴会で、次のように述べています。

「集団的自衛権は憲法解釈の問題なのだから、現憲法においても総理大臣が公式に言明すれば行使できるようになる。一時的には一部の国民が騒ぐだろうが、そのまま強引に推し進めれば通用するようになって行く」

そして、この1年後の第3次小泉改造内閣で、安倍晋三氏は内閣官房長官として初入閣を果たし、その翌年、第1次安倍政権が誕生したのです。安倍晋三氏は、この時から中曽根元首相の述べた「解釈改憲」を虎視眈々と狙っていたのです。他にも、最近で言えば、今年2月の黒川弘務騒動があります。安倍晋三氏は自分の息の掛かった東京高検の黒川弘務検事長(当時)を検事総長にするため、それまではできなかった定年延長を可能にする法律の解釈変更を行なったのです。それも、水面下でコッソリと。

行政府の長である総理大臣が、このように自分勝手に法律の解釈を変更する行為は、立法府の立法権に対する不当な侵害であり、完全な越権行為です。しかし、安倍晋三氏は、これまで何度も国会で「私は立法府の長ですから」などとトンチンカンな発言を繰り返して来ました。つまり「三権分立」を理解していないのです。そんな人物ですから、今回、問題になっている菅首相による日本学術会議の候補者6人の任命除外より一足先に、同じことをしていました。

日本学術会議は2016年、複数の会員が70歳の定年を迎えるため、その補充の候補者の一覧を首相官邸に提示しました。こうした欠員の補充も、3年ごとの半数105人の会員の入れ替えと同じく、総理大臣は黙って任命するしかありません。しかし、当時の首相である安倍晋三氏は、この候補者の中から、自身が強行した安全保障関連法に反対する学者3人を名指しして、別の学者と差し替えるようにと注文を付けたのです。1983年の中曽根発言から30年以上、歴代の首相全員が守り続けて来た「学問の独立性」、憲法が保障する「学問の自由」を、安倍晋三氏はいとも簡単に踏みにじったのです。

当然のことながら、日本学術会議は候補者の差し替えなどには応じませんでした。しかし、それでも安倍晋三氏は自分の気に入らない3人を任命しなかったため、日本学術会議は3人の欠員が出た状態での運営を余儀なくされてしまいました。この問題は、当時は表に出ず、今回のことで調査を進める中で、初めて明らかになったのです。今回、菅首相が6人を除外した件について、加藤勝信官房長官は「現在の制度になった2004年度以降、推薦候補が任命されなかったのは初めて」などと説明しましたが、これは大嘘で、実際には4年前に安倍晋三氏が一足先にやっていたのです。

加藤勝信官房長官がついた「大ウソ」

安倍晋三氏は、2018年にも、この日本学術会議の会員の任命権の解釈について「任命は拒否できるということでいいか」と内閣法制局に問い合わせをしていたことも分かりました。今回、総理大臣の任命権の解釈について、加藤官房長官は「2018年に内閣法制局が明確化した」と説明しましたが、どのように明確化したのかについては明らかにしませんでした。しかし、それを理由に今回の件を「問題なし」と強弁しているのですから、この時に内閣府と内閣法制局だけでコッソリと「形式的な任命権」から「実効力のある任命権」へと解釈変更した可能性が高いのです。

しかし、もしもそうであれば、これこそが三権分立を無視した越権行為です。法律を決めるのは立法府ですから、行政府が秘密裏にこんなことをして良いわけがありません。それも、これまで「できなかった」ものを「できる」ことにするという生反対の内容への変更なのですから、通常は国会での審議が必要です。審議もせず、国民への説明もなく、秘密裏に法解釈を変更し、自分に都合の良いように法律をねじ曲げる。安倍晋三氏の十八番です。

でも、この「2018年に内閣法制局が明確化した」ので「問題なし」という加藤官房長官の無理筋な説明をすべて受け入れるとしても、2016年に安倍晋三氏が欠員補充のための候補者のうち3人を排除したのは完全に憲法違反ですから、野党はこの点も個別案件として、国会で安倍晋三氏本人を厳しく追及してほしいですね。

そんな安倍晋三氏は、今年9月16日に病気を理由に首相を辞任しましたが、その2週間前の9月2日にも、内閣法制局に2018年の時と同じ問い合わせをしていたことが分かりました。この時、内閣法制局は「2018年から変更はない」と回答したそうですが、このタイミングで確認をしたということは、自分が辞任した直後の日本学術会議の会員の入れ替えを視野に入れてのことでしょう。こうした流れを見て来ると、日本学術会議が推薦する候補者の一覧から政権に批判的な学者を排除するように、安倍晋三氏が後継者の菅義偉に指示をしたように思えて来ます。

単なるお飾りでしかなかった安倍前首相

しかし、これは逆なのです。2016年に補充の候補者3人を任命しなかったのも、2018年と今年9月に内閣法制局に問い合わせをしたのも、すべては当時の官房長官だった菅義偉氏が主導していたのです。首相だった安倍晋三氏は、菅義偉氏による強権人事を事後に追認していただけでした。ようするに、安倍晋三氏は単なるお飾りで、人事の実権を握って采配していたのは菅義偉氏、そして、菅義偉氏の手足として動いていた実行部隊は、コネクティングルーム不倫でお馴染みのエロガッパ、首相補佐官の和泉洋人氏だったのです。

菅義偉氏は、首相になる前日に「内閣人事局は見直ししない」と公言し、自分が首相になったら「政府の方針に反対する官僚は異動してもらう」とテレビで官僚を恫喝しました。そして、自分が首相になると、さっそく懐刀の和泉洋人氏を首相補佐官としました。これは「安倍政権以上の強権人事宣言」であり、その第一弾が、今回の憲法違反の越権行為だったのです。しかし、今回の問題はあまりにも傍若無人でした。まだ始まったばかりなので、今後、どのように進展して行くか分かりませんが、もしも菅首相がこのまま強行突破を目論めば、これ1つで内閣が吹き飛ぶほどの大問題になるかもしれません。

(『きっこのメルマガ』2020年10月7日号より一部抜粋)

image by: 首相官邸

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