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日本人が知るべき現実。中国の台湾侵攻で日米豪印4ヶ国連合はどう戦うか?

去る10月6日、東京で開かれた日米豪印4ヶ国の外相対話「クワッド(Quad)」。世界で威圧的な行動を繰り返す中国に対抗し、結束を固める国々を尻目に、無関心を装っているのが、日本の隣国・韓国です。ジャーナリストの勝又壽良さんは自身のメルマガ『勝又壽良の経済時評』で今回、中国に対抗して「NATOアジア版」を目指す日米豪印4ヶ国連合の戦略を分析するとともに、米中対立の本質を理解していない韓国の態度を厳しく批判しています。

日米豪印、中国対抗で足並み「NATOアジア版」目指す。韓国は空白地帯

日米豪印4ヶ国の外相対話(クワッド)が10月6日、東京で開催された。第1回は、昨年9月に米国で開かれ、今回が2回目になる。今後は毎年、開催されることで合意した。クワッドの定期開催が、対中国への安全保障政策を協議する舞台になる。中国にとっては手強い相手になり、これまでの傍若無人の威圧行動を差し控えることは確実であろう。中国が、性懲りなく強硬策を続ければ、クワッドの結束力は一挙に高まるはずだ。

日米豪印4ヶ国は今後、さらに参加国を増やす意向である。「クワッド・プラス」である。韓国・ベトナム・ニュージーランドが候補国に上がっている。韓国政府は、表向き関心を占めさず傍観している。中国の反発を恐れており、「動くに動けない」状況である。主権国家として、まことに恥ずかしい振る舞いである。

日米豪印は、いずれも貿易面で中国と深いつながりがある。それでも安全保障という国家の存立がかかる問題では、経済を離れて純粋に地政学的な観点から冷静に分析している。韓国には、それがないのだ。歴史的な「事大主義」に凝り固まっており、中国の意に反することをやれば、復讐を受けるという恐怖感に取り憑かれている。

中国と一対一の関係である「連衡」では、中国の復讐によって立ち往生させられる。だが、「合従」(同盟)を組んでいれば、同盟国の支援によって中国の武力攻撃をかわせるのである。中国が、「合従連衡」でもっとも苦手なのは「合従」である。秦の始皇帝が、初めて中国を統一できたのは、敵方の「合従」を壊し、「連衡」にもちこんで征服したのだ。この伝で言えば、韓国が米韓同盟を脱退すれば、中国の「連衡」策に引っかかり、飲み込まれる運命である。中国は、言葉巧みに「合従」を破棄させる動きを狙っているのだ。

米は共産主義対抗で不退転の決意

日米豪印連合は、中国のもっとも嫌う「合従」である。これによって、中国の巧みに接近する切り崩し工作を防ぐことができる。4ヶ国は、次のような申し合わせを行った。これが、対中国の防波堤の役割をする。

  1. 年1回開催を定例化し、次回は来年開催
  2. 自由で開かれたインド太平洋」実現に向け、より多くの国との連携が重要
  3. 質の高いインフラ、海洋安全保障、サイバーで実践的な協力を進める
  4. 保健衛生やデジタル経済分野での新たな国際ルール作りで連携
  5. 北朝鮮の核・ミサイル開発が深刻との認識を共有し、日本人拉致問題への協力を確認

以上の5項目を見れば、安全保障問題だけでなく、経済問題でも密接な連携を模索していくことが分る。具体的な中身は、今後の対話に委ねられる。米国は、どのような意図を持っているのかをまず知る必要があろう。

米国務長官は、日本経済新聞との単独インタビュー(『日本経済新聞 電子版』10月6日付)で、次の点を明らかにしている。

「4カ国の協力を制度化すれば、本物の安全保障の枠組みづくりに入ることができる。経済や法の支配、知的財産、外交関係についても議論できる。軍事的なものにはとどまらず、より幅広いものになる」

日米豪印4ヶ国の協力を制度化(安全保障条約)すれば、経済・外交など幅広い協力関係が成立する。NATO(北大西洋条約機構:加盟国30ヶ国)の「アジア版」が出現するのだ。それには、「クワッド・プラス」として、韓国、ベトナム、ニュージーランドの参加が期待されている。韓国については、文政権が去就を明らかにしていない。ASEAN(東南アジア諸国連合)も参加すれば、中国の強硬策に悩んでいる諸国が大挙して加盟する事態が起きるであろう。その場合、中国はNATOの仮想敵「ロシア」と同じ立場になる。

中国の台湾攻撃は大博打の危険性

「(もし、台湾が攻撃されれば)地域の緊張を緩和するためには何でもする。世界におけるトランプ政権のミッションだ。我々は紛争でなく平和を求めている。恥ずべきは中国共産党だ。ベトナムとの関係に加え、ここ日本でも沖縄県・尖閣諸島周辺で(航空自衛隊が)緊急発進を頻繁にせざるを得ない状況だ。(中印の軍事衝突が起きた)ヒマラヤで何が起きていると思うか。これが中国の力ずくのやり方であり、大国がすることではない。中国との融和策は正解にならないとの認識に至った」

台湾が中国に攻撃されれば、米国は「救援」すると明言している。これは、ベトナムや尖閣諸島でも同様に対応するという立場だ。もはや、中国との融和策は問題解決にならないとしている。ここでは、米英が第二次世界大戦の導火線になったドイツの周辺国への侵略を大目に見ていた「宥和策」の失敗を指している。米国は、中国に対してもはや一歩も退かず、断固として「戦う」としている。

米国の試金石は、台湾であろう。習近平氏は、自己の業績を上げるべく「台湾侵攻」もあり得る状況になってきた。ただ、それが成功するという保証はない。米国は、開戦と同時に中国へ金融デカップリングを並行して行い、人民元をドル経済圏から追放する荒療治が可能である。そうなれば、中国は「一溜まり」もない。即時、休戦であろう。中国の台湾攻撃は、中国にとって劇薬である。

習近平氏は最近、国家副主席王岐山氏の側近中の側近である董宏氏を、汚職容疑で逮捕した。また、王氏と深い友情で結ばれてきた、かつて不動産王と呼ばれた任志強氏が、「反習近平」の言動によって懲役18年という重刑に処された。これらは、習氏が王氏の動きを封じる目的のはずだ。王氏が、米国通であり金融に詳しいゆえに、米中対立で被る中国の損失を諫めたのでなかろうか。さしずめ、台湾攻撃が中国経済にもたらす破局的損失を警告して、両者の溝が深まっているとも推測できるのだ。

米国は台湾を守らなければ、ASEANが「NATOアジア版」に参加しないであろう。台湾を見殺しにする米国が、ASEANを中国から防衛してくれるはずがない、という疑念を持つからだ。米国が、「クワッド・プラス」に全力を挙げている背景はこれであろう。

中国脅威を軽視する日本メディア

日本のメディアは、「クワッド」についてどう見ているだろうか。

『朝日新聞』(10月7日付)は、「対中国で意識差、日本難しい立ち位置、日米豪印外相会談」と題する記事を掲載した。

「茂木敏充外相は会談の冒頭、『様々な分野で既存の国際秩序が挑戦を受けている』と指摘。『我々4カ国はルールに基づく自由で開かれた国際秩序を強化していくという目的を共有している』と強調したが、中国を名指しするのは避けた。これに対し米国のポンペオ国務長官は『パンデミックは中国共産党が隠蔽して事態が悪化した』と中国を非難。『4カ国が連携し、国民を共産党の腐敗や搾取、威圧から守る重要性は増している』と訴え、対中牽制の狙いを明白にした」

ポンペオ米国務長官が、公然と中国を批判したにの対して、茂木敏充外相は中国を名指しするのは避けた。この記事には、「対中国で意識差、日本難しい立ち位置」と、クワッドの成果を低く見ようという意識が働いている。これは、事態を正確に把握していない証拠と見られる。もともと、クワッドは安倍前首相の構想である。これに、トランプ米大統領が乗ったものだ。こういう経緯からすれば、日本が難しい立場であるはずがない。

日本、豪州、インドも中国という国名を挙げて批判していないが、中国の拡張主義によって安全保障上の問題を抱えているから、クワッドに参集したのである。こういう意味で、朝日新聞の記事は、クワッドの意義を低評価しようという意識が強く働いているように思える。

『毎日新聞』(10月7日付)は、「日米豪印、対中ズレも 日本、米中を両にらみ」と題する記事を掲載した。朝日新聞と同様に、日本が米国に引きずられてクワッドに参加しているというイメージである。

「東京で6日に開催された日本、米国、オーストラリア、インド4カ国の外相会談は、新型コロナウイルスの感染拡大下で影響力を増す中国を念頭に、民主主義などの価値観を共有する『同志国』が結束をアピールする場となった。4カ国の連携に向けた機運は高まっているが、米国が中国との対立を強める一方、日本は経済回復に向けた中国との関係改善を重視するなど対中姿勢にはズレも出始めている」

地政学的に利害関係が異なる周辺国に対しては、外交的に真綿に包んだような言葉を使うのが礼儀であろう。だからと言って、日本が米中の間に立って「苦悶」していることにはならない。日米豪印4ヶ国の接着剤になったのは日本なのだ。こういう経緯を認識すれば、この毎日新聞の記事も、朝日新聞と同様に表面的と言うほかないのである。

ここで、日本までが激烈な中国批判に演説をしても、インドや豪州の立場を困らせるだけであろう。強烈な中国批判する米国と、それを黙認する日豪印という組み合わせが、むしろ対外的には大きなインパクトを与えるだろう。

韓国は米中対立の本質を理解せず

「クワッド・プラス」の第一候補である韓国は、表面的に無関心を装っている。理由は、米中対立の本質を十分に認識していないという面がある。米中対立が、単純な二国間の紛争という狭い解釈であるからだ。米国は、共産主義対民主主義という捉え方である。クワッド4ヶ国が外相会談を開き今後、定例化して行き安全保障制度に発展させるという狙いについて、韓国は全く理解していないのだ。

共産主義対民主主義という価値観に基づく紛争は、中国が白旗を揚げるまで続くであろう。先述のように、習近平国家主席と王岐山国家副主席の対立が起こっているとすれば、米中対立の処理を巡る問題であろう。王氏は、米国金融界に知己が多いとされる。習氏もそれを買って定年過ぎた王氏を、あえて国家副主席に据えたはずである。

ここで両者の対立が深まったとすれば、習氏が共産主義対民主主義という価値観に基づく紛争を目指しているのであろう。習氏は、米国と妥協しないことが、自らの国家主席の命運を長らえさせるという認識になっているはず。習氏が危機で立ち止まらずに、全力疾走で走り抜けるという危機管理意識だ。要するに、強行突破である。

韓国が、米中対立は価値観を巡る紛争という理解に立てば、中国陣営に身を寄せるという選択は、国民の支持を得られないだろう。「親中朝・反日米」路線が許されるのは、米中関係がスムースに動いているという前提条件が成立する時だ。その条件がなくなれば、米韓同盟にぐいと引き寄せられて当然である。

米国の軍事戦略は、米中対立の長期化を前提にしている。在韓米軍の配置は、米軍の世界戦略によって決められるはずだ。北朝鮮軍の動向よりも中国軍の配置に応じたものとなろう。専門家によれば、米軍の配置が従来の海空主力から、陸・海・空を網羅する多戦場中国封じ込め戦略に変わるというのである。在韓米軍は陸軍が主力である。これが、世界戦略において陸・海・空を網羅する配置になれば、在韓米軍の陸軍が減員され、他地域へ移動するだろうという。

韓国は現在、在韓米軍の減員に強い警戒観を持っている。ただ、米軍の世界戦略に反対する資格もない以上、米軍の意向に従わざるを得ない。その場合、韓国は「クワッド・プラス」の一員として、韓国防衛を米軍の世界戦略の一環として託す決断が求められるはずである。「クワッド・プラス」の各国は、同盟軍とともに戦うという形になる。韓国は、これまで行なってきた「中国への秋波」は不可能になる。韓国は、最終的に民主主義国家として生きる決断を求められるだろう。

image by: Joseph SohmFrederic Legrand – COMEO / shutterstock.com, User:Clrdms, Kristy Robinson / Commonwealth of Australia / CC BY

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経済記者30年と大学教授17年の経験を生かして、内外の経済問題について取り上げる。2010年からブログを毎日、書き続けてきた。この間、著書も数冊出版している。今後も、この姿勢を続ける。

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