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日韓と真逆。インド人が「政府」でなくSNSに高い倫理観を求めるワケ

10月10日、11日「日本マス・コミュニケーション学会秋季大会」が開催され、メルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』の著者で、さまざまな支援活動に従事する引地達也さんが、「アジア各国におけるメディア倫理の『普遍性』を考察する」をテーマにした共同発表を行ないました。引地さんは今回のメルマガで、発表に至るまでの日本を含むアジア6か国での調査結果からの気づきについて綴っています。

メディア倫理は世俗化された倫理から始まる

日本マス・コミュニケーション学会秋季大会が開催され、私はインド人神父でみんなの大学校でも「哲学」を担当いただいているアルン・デゾーサ先生と「アジア各国におけるメディア倫理の『普遍性』を考察する─意識調査により比較する『期待』『失望』の実態─」と題した共同発表を行った。

メディア不信の現状を「倫理」から切り込み、私たちが語るメディア倫理なるものの普遍性をアジア各国と比較することで、浮き彫りにしようという研究である。

考えてみればアジア地域の宗教的多様性は非常にカラフルで、多様な宗教がひしめくこの地域での報道と宗教の関係もやはりカラフルに特徴付けられるのではないかとの想像もしてみたが、結果は意外でもあり、当然でもあるような事実であった。

それは、メディア倫理とはすなわち世俗化された倫理のことで、宗教とメディアはもはや隔絶された関係にあって、私にとっては、「倫理」を階層的に考えなければ対応できないことが鮮明になった。

この調査の前提には、メディア不信への対抗策としてメディア倫理の確立が急務であるとの認識がある。しかし「フェイクニュース」との表現が為政者からも市民からも取り交わされる状況に、再度「正しい」メディア行為の基礎となる「メディア倫理」の輪郭を把握することが、第一歩。基礎固め、である。

メディアの根本的な「正しさ」が問われている中での普遍的な倫理観を示す前提として、アジア各国のメディア倫理の認識を整理するための意識調査を実施し、現代におけるメディア倫理の基礎となる各国の認識とその差異を示し、コロナ禍も踏まえた社会環境の変化の中での最適なメディア倫理の感覚と行動を見据えるための研究だ。

倫理の研究となると、研究者の人格が問われそうだから、こちらも襟を正さなければならない。神父として神に仕え、一生を捧げ「高い宗教倫理観」の中で生活するアルンさんはその立場にふさわしいのだが、私の場合、日々の支援活動に高い倫理を求められている実感はあるものの、その確立はまだまだ道半ばで、求道者の立場である。

今回の調査対象国は日本、韓国、フィリピン、インド、インドネシア、スリランカ。当初は東ティモールやオーストラリア、タイなども加わっていたが、新型コロナウイルスの影響で情報交換がうまく機能せず調査実施が困難となり縮小した結果であるが、対象国の中でもすべて宗教状況が違う。

明確な宗教の立脚点がない日本、東アジア最大のキリスト教国でもあり儒教も根強い韓国、アジア最大のカトリック国のフィリピン、ヒンドゥー教が大多数のインド、イスラム教のインドネシアと仏教のスリランカ。

加えて政治状況も多様で、「戦争」を抱えている国がほとんど。北朝鮮と対峙する韓国や国内で反政府勢力との闘いを強いられているフィリピン、隣国との衝突のあるインド。喫緊な軍事的衝突の危険性が少ない点では日本は稀有な存在に見えてくる。

それら危機の中にある国のメディア倫理と日本がイメージするメディア倫理との違いはあるのだろうかという政治状況もにらみながらの調査でもあった。

概略は日本マス・コミュニケーション学会のホームページでも掲載しているが、結果の中で興味深かったのが、メディアのジャンルである「マスメディア」「広告などの企業」「ソーシャルメディア」「インターネットメディア」「刊行物」「政府の公的情報」から高い倫理観を求める順序を問うたところ、日本と韓国がまったく同じ優先順位で1位は「政府」だったのに対しインドとインドネシアの1位はソーシャルメディアだった。

これは政府=公的なものへの倫理観の要求と、公的機関とは最も遠い市民が手にするソーシャルメディアへの要求という真逆の回答である。違った宗教背景を持つ国においてメディアは社会のコミュニケーションツールとして確実に一般社会に浸透し大きな影響を与えている状況であり、それは世界基準の中で広まっている。

倫理観は各国で小さな違いはあっても、大きな枠組みでは似たよう状況であるのは、西洋型の倫理観がベースにある世俗化された国際基準に近づいているからだと思われる。しかし、ここには少し窮屈さを感じ始めている萌芽も見え始めている。この点はまた日を改めたい。

image by: shutterstock.com

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特別支援教育が必要な方への学びの場である「法定外シャローム大学」や就労移行支援事業所を舞台にしながら、社会にケアの概念を広めるメディアの再定義を目指す思いで、世の中をやさしい視点で描きます。誰もが気持よくなれるやさしいジャーナリスムを模索します。

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