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菅内閣の福島「処理水放出」は規定路線だった。他に選択肢はないのか?

政府は、福島第一原発で発生する汚染水を浄化処理した後のトリチウムが含まれた水の最終処分方法を「海洋放出」に決めたと報じられています。メルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』著者で、ジャーナリストの内田誠さんは、「処理水」の7割は再浄化を要することなど、気になる新聞記事をピックアップ。反対論や風評被害を危惧する声が大きいなか、「場所がない」とする東電側の説明にメスを入れることなく、既定方針として押し進める政府の姿勢に疑問を呈しています。

福島第一原発の処理水とトリチウムを新聞はどう報じてきたか?

きょうは《毎日》から記事を拾いましょう。1面トップに「処理水」の記事。東電福島第一原発事故を巡り、敷地内のタンクに溜まった「処理水」を海洋に放出する方針を政府が決めたということのようです。キーワードは「処理水」と「トリチウム」です。

まずは《毎日》1面トップ記事の見出しと、【セブンNEWS】第5項目の再掲から。

処理水 海洋放出へ
政府、月内にも決定
福島第一

東京電力福島第一原発敷地内のタンクに溜まり続けている汚染処理水につき、政府は放射性物質の濃度を下げた後に海に流して処分する方針を固めた。月内にも関係閣僚会議で決定する。放出には新たな設備が必要で、原子力規制委の審査や整備に2年を要する見込み。

第一原発の建屋内で連日生じている「汚染水」には高濃度の放射性物質が含まれているため、東電は「多核種除去設備」(ALPS)に通すなどして、トリチウム以外の濃度を下げたあと、「処理水」としてタンクにためているのが現状。東電によればタンクを設置できる敷地がなくなりつつあり、「処理水」をどうやって処分するか、決断を迫られていたとされる。

処分方法を巡っては、有識者による小委員会が、「海洋放出」と「大気放出」が現実的な選択肢だとしながら、「海洋放出」が優位との報告書をまとめている。

地元業界団体などのなかには、風評被害を心配する声も大きく、政府が海洋放出するに当たっては、国の放出基準を下回るまでアルプスを通し、さらに、取り除くことができないトリチウムについては濃度を下げるため、大量の海水で薄めるとしている。

●uttiiの眼

汚染水が新たに生じ続けているという状況は、建屋内、あるいは破壊された格納容器、圧力容器内に水を入れて冷却する過程が今も進行しているということ。まさしく、事故は続いており、収束には程遠い状況であることを示している。さらに、大量の地下水が原発を洗うような形で流れ込み、日々、大量の汚染水に化けている。

もし、原発全体を周囲の環境から「隔離」する「石棺化」を行い、地下水が流れ込まない構造にしていれば、「処理水」処分の話も、随分変わったものになっていたのではないか。様々、メリットとデメリットがあるだろうが。

「もうタンクを設置する場所がない」というのが本当かどうかについては議論がありそうだ。結論の先延ばしにしかならないとの見方もあろうが、より理解を得やすい処理策を探す時間稼ぎにはなるかもしれない。

【サーチ&リサーチ】

毎度《毎日》には申し訳ないが、《東京》の検索機能を使い、「処理水」と「トリチウム」で5年分の記事に対して検索を掛けると、58件ヒットした。一番古いのは、2017年7月14日の記事。

2017年7月14日付
「処理水を巡り、同社の川村隆会長が報道各社のインタビューで「(東電として)判断はもうしている」と述べ、海に放出する方針を明言した。処理水はトリチウムを含み、第一原発敷地内のタンクに大量に保管されているが、風評被害を懸念する地元の漁業関係者らが海への放出に反対している」

*この件に関しては反響が大きく、翌日にはこんな記事が出た。

2017年7月15日付
「福島第一原発で高濃度汚染水を浄化した後に残る放射性物質トリチウムを含んだ処理水を巡り、同社の川村隆会長が海洋放出を明言したことについて「科学的、技術的な見地に基づく国の基準に照らして問題ないという趣旨だった。最終的な方針を述べたものではない」と釈明するコメントを出した」

*その後、全国漁業協同組合連合会が川村会長を呼んで厳重抗議。原子力規制委の会合では「海洋放出することに対し、大きな反対は出なかった」との反応。福島県富岡町で行われた政府の有識者会議による公聴会では批判が相次ぐ。

2019年8月9日付
東電は、タンクの大型化などは困難として、「タンクでの保管は2022年夏ごろ限界になるとの試算」を発表。

*「脱原発をめざす首長会議」は処理水の長期保管を求める緊急声明。原子力規制委の更田委員長は「処分方法が決まったとしても準備に少なくとも二年はかかる。意思決定の期限が近づいていると認識してほしい」と述べ、希釈して海洋放出するよう改めて東電などに求める。

2019年11月18日付
「経済産業省は、現在保管中の水に含まれるトリチウムなどの放射性物質を一年間で海洋や大気に全量放出した場合、一般の人の年間被ばく線量に比べ約千六百分の一~約四万分の一にとどまるとして「影響は十分に小さい」との評価結果を示した」

2020年3月25日付
東電は海や大気への放出が決まった場合の処分方法の素案を公表。トリチウム濃度の基準を1リットルあたり1500ベクレル未満に設定、浄化処理後の水を海水で500~600倍に希釈し、港内の港湾から放出すると。処分期間は30年程度。

*上記記事には注目すべき内容が書かれている。「浄化処理後の水の7割には、トリチウム以外にも国の基準を超える濃度の放射性物質が含まれており、放出前に再浄化する方針」

2020年4月7日付
「政府は、福島県内の首長や業界団体から意見を聴く初めての会合を福島市で開いた。政府の小委員会が提言した海や大気への放出処分案について、林業と漁業団体の代表者が反対を表明、複数の首長は「国が責任を持って処分方法を決めるべきだ」とした。出席者からは風評対策を求める意見が相次いだ」

2020年7月18日付
「政府は、関係団体から意見を聞く5回目の会合を福島市内で開いた。県議会や流通団体、県民計7人が参加。政府の小委員会がまとめた海や大気への放出処分案に賛成する意見は今回もなく、丁寧な説明や具体的な風評被害対策を求める声が占めた」

*続いて、菅氏が首相になって…。

2020年9月27日付
「菅義偉首相は、就任後初の地方視察で福島県を訪れた。東京電力福島第一原発では、増え続ける処理水をためるタンクなどを車で見て回った。懸案となっている処理水の処分方針については「できるだけ早く決めたい」と話すにとどめ、見通しは示さなかった」という。

●uttiiの眼

2022年夏には海洋放出を始めなければならないというアナウンスが早い時期から為されていたことに気づく。であれば2020年夏には処分方法を決定していなければならなかったことになる。大きな反対論が渦巻く中、菅政権の「海洋放出」方針が決められたことになる。

これまで、ただ既定の方針を押し通すことしかしてこなかった菅氏の頭の中に、やはり、陸上保管を継続する選択肢は入っていなかったということなのだろうか。

image by: Shutterstock.com

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ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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