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Uberが良い例。「異業種に参入しDXで制圧する」シリコンバレー流仕事術

菅政権の誕生でデジタル化の話題が増え、ITの浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させるという概念「デジタルトランスフォーメーション(DX)」という言葉も連日メディアで見聞きするようになりました。今回のメルマガ『週刊 Life is beautiful』では、米マイクロソフトでWindows95やIE3/4の開発において中心的役割を務めた著者の中島聡さんが、DXを考える上でヒントとなる「フルスタック・スタートアップ」という概念について米Uberを例に解説。自身が無償で運営する飲食店のためのテイクアウト専門サービス「おもちかえり.com」も、事業展開するなら不動産業を営むという発想が業界にインパクトを与えると伝えています。

フルスタック・スタートアップ

「フルスタック・スタートアップ」という言葉を聞いたことがある人は少ないと思いますが、今話題の「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」を考える上でとても重要な概念なので、今週はそれについて説明したいと思います。

この言葉を最初に使ったのは、Andreesen Horowiz(シリコン・バレーのベンチャー・キャピタルの一つ)のクリス・ディクソンで、彼が2014年に書いたブログの記事「Full stack startups」は今でも読むことが出来ます。

「フルスタック・スタートアップ」とは、ソフトウェア・ベンチャーでありながら、ソフトウェアを武器にしてソフトウェア以外のビジネスを自ら行うことにより、その業界そのものに外部からデジタル・トランスフォーメーションを起こす会社のことです。

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重要な点は、ソフトウェア・ベンチャーでありながらソフトウェアそのものを売るのではなく、それを活用したビジネスをしてしまう点です。

典型的な例がUberです。Uberはソフトウェア会社で、その強みは、予約・配車システムというソフトウェアにありますが、それをタクシー会社にライセンスするのではなく、自らタクシー会社のライバルとなってモビリティ・サービスを提供しているのです。

私は以前、DXは、既存の企業がテクノロジーを導入して自ら自分自身や業界を変えることによって起こるのではなく、テクノロジーを活用した企業の新規参入により業界のビジネスのやり方が根底から変わることによって起こると主張して来ましたが、まさにその話です。

私のところには数多くのベンチャー企業から相談が来ますが、最近増えているのは、ソフトウェアによって旧態依然としたビジネスを変化させよう(つまりDXを起こさせよう)というものですが、その大半が、既存の企業向けにソフトウェアをライセンスするビジネスです。

それはそれでありだとは思いますが、これまでのやり方に慣れている企業にとって、新しい手法を導入することは結構ハードルが高いし、ソフトウェアの導入によって生産効率が上がることが、必ずしも喜ばれないという問題があり、なかなか立ち上がらないのが現実です。

先日も、廃品回収業者向けの配車管理ソフトウェアを作っているベンチャー企業の経営者と会いました。廃品回収業はとても旧態依然とした業種なので、ソフトウェアの導入により効率化が可能なことは分かりますが、それだけでは、作り出す価値が小さく、大きなビジネスに育つとは思えませんでした。本気で廃品回収業界にDXを起こしたいのであれば、自らがソフトウェアを武器とした、全く新たな形の廃品回収業を立ち上げるべきだと感じました。

私自身も「おもちかえり.com」というレストラン向けのサービスを無料で提供していますが、個人経営のレストランがソフトウェアを導入するには色々と障害があります。もし、「おもちかえり.com」を事業化するのであれば、自らがレストラン業に場所を貸す不動産業をやるべきだと私が考え始めているのはそれが理由だし、それこそが、まさに「フルスタック・スタートアップ」の発想なのです。

レストランの例が分かりやすいのですが、ソフトウェアを導入するのであれば、厨房の中のワークフローを根本的に変えてこそメリットが大きいし、顧客に提供する体験や価値も、従来型のレストランと大きく異なるものになるべきなのです。

「既存のレストランにソフトウェアを提供する」という発想である限り、ソフトウェア・エンジニアに出来ることは限られていますが、ソフトウェアを最大限活用して飲食業を自ら営む、もしくは、飲食業向けの不動産業を経営する、と考えると、出来ることの幅は大きく広がるし、業界全体に大きなインパクトを与えることが可能です。

image by: Shutterstock.com

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マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。IT業界から日本の原発問題まで、感情論を排した冷静な筆致で綴られるメルマガは必読。

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