【書評】なぜ歴代天皇は「紙幣の肖像画」として描かれないのか

 

「天皇はなぜ紙幣に描かれないのか」という考察がある。歴史上の人物が近代以降に再生産されていくことに一役買っているものの一つが、紙幣の肖像画である。聖徳太子は昭和5年(1930)から昭和59年まで、高額紙幣の顔だった。ある年代以上の人は、聖徳太子の名前と顔を覚えている。聖徳太子が紙幣から姿を消した真相は不明だ。もっと高額紙幣発行のため、という温存説もある。

日本の紙幣に描かれた最初の歴史上の人物は、明治14年(1881)の神功皇后である。なぜ当時の政府は、神功皇后をいち早く紙幣に登場させたのか。「征韓論」の高まりの中で、「三韓征伐」の伝説を持つ神功皇后がクローズアップされたのである。その後に発行された紙幣4種に、武内宿彌、菅原道真、和気清麻呂、藤原鎌足が選定された。なぜ紙幣には天皇の肖像画は選ばれないのか。

貨幣は人の手から手へ渡っていくものである。その過程で、穢れたものになっていくというのが貨幣の宿命なのである。穢れはまた、伝染するものであるとも考えられていた。つまり貨幣を通じて、穢れが伝染していくと考えられていたのである。貨幣と穢れは、人びとの意識のなかで分かちがたく結びついていたのである。一方で天皇は「穢れ」を遠ざけるべき存在と考えられてきた。(略)紙幣に天皇を描くことは、天皇と穢れを結びつけることになるから、これにはかなりの精神的抵抗が存在したのではないだろうか。

そういう解釈を見るまでもなく、御真影(天皇の肖像)は穢してはならない存在であるというのは、ある年代以上の日本人の共通の認識であったから、「なぜ紙幣には天皇の肖像画は選ばれないのか」という疑問に対して、著者の推理は正解である。現状、わたしの財布には野口英世が数枚しかない……。

編集長 柴田忠男

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