異常なまでの敵視。学術会議を「違法状態」で放置する菅首相の魂胆

 

当時の首相官邸が学術会議に抱いていた不穏な感情は、山極氏の前任会長、大西隆氏への具体的な圧迫行為となって、すでに噴出していた。2016年、3つの空席を埋める会員補充人事のさい、官邸が途中経過の説明を求めてきたのだ。大西元会長は言う。

「3つのポストについて、それぞれ2人ずつ優先順位をつけて名前をあげた。そのうち2つのポストについて、1番の方ではなく2番の方がいいのではないかと、(官邸側は)難色を示した。理由は最後まで明かされず、補充人事は断念した」

かつてない口出しだった。学術会議が簡単に官邸の意見に従っては、独立性を損なう悪しき前例が残る。大西氏の苦悩が伝わってくるようだ。補充人事を邪魔して、官邸は味を占めたのか、これ以来、何かと学術会議に注文をつけるようになった。

17年の定期人事のときもそうだ。改選数は会員の半数、105人。学術会議が推薦した会員候補は当然、105人だが、官邸はそれより多めの人数の名簿を提出するよう要求してきた。このときは、結局、推薦通りに任命されたが、大西会長が心理的に揺さぶられたことは想像に難くない。

会員人事への官邸の介入は、学術会議が「安全保障と学術に関する検討委員会」を設置して、軍事研究を求める政府への対応を議論し始めた時期と重なっている。

当時の大西会長は同検討委員会の第1回会合(2016年6月24日)で、次のようにあいさつした。

「防衛装備庁が安全保障技術研究推進制度というものを昨年度から始めています。これに関連して、大学での対応が分かれていると新聞等でも報道され…問題意識を会長として持った…。学術会議は1950年と67年に軍事目的のための科学研究は行わないという声明を出している…私は個人的にはこれを堅持すると申し上げていますが、その後、日本国内における条件変化もあるので、現段階でこうした声明をどう捉えるのかは、論点の1つであります」

防衛省が、軍事転用可能な研究に資金を出す「安全保障技術研究推進制度」は2015年度にスタートした。当初は3億円の予算だったが、自民党国防族の増額要求が続き、17年度には110億円に跳ね上がった。

こうした動きに学術会議がどう対応すべきかを議論するのが、検討委員会の目的だった。

大西会長にとっても、学長を務める豊橋技術科学大学で、防衛省の制度を利用した防毒マスクの研究がはじまっていた経緯があり、切実な課題だった。官邸はそれを“弱み”ととらえて、学術会議への介入の突破口としたかったのかもしれない。

しかし、学術会議会員の大勢は軍事に関わる研究に反対であり、2017年3月、過去2回の声明を継承することが決まった。

それと同時に、大学などの研究機関に対しては、軍事関連と見なされる可能性のある研究について、その適切性を「技術的・倫理的に審査する制度」を設けるよう呼びかけた。

10月22日の野党合同ヒアリングに出席した大西元会長は、16年の補充人事、17年の定期人事のさい、学術会議が官邸に事前説明したことについて質問された。

野党議員 「誰から呼ばれましたか、杉田官房副長官ですか」

 

大西元会長 「誰と面談したかはまだ申し上げられません」「みなさん想像されている…人事の担当の方」「すべての官房副長官に説明…」

大西元会長は戸惑いながら明言を避けたが、杉田官房副長官、もしくは当時の菅官房長官に会ったであろうと推察する。その地位より下の官僚、たとえば内閣人事局長とかなら、それほど言いにくくはないはずだ。

print
いま読まれてます

  • 異常なまでの敵視。学術会議を「違法状態」で放置する菅首相の魂胆
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け